2015年8月に開催された記者発表会が話題を呼んだ。新ブランド立ち上げの発表会だが、驚くべきは、発表された17種類24製品の開発期間はわずか2カ月間。しかも30代前半の女性がほぼ一人でゼロから作ったという。彼女は家電メーカーUPQ(アップ・キュー)代表の中澤優子さん。「生活にアクセントと遊び心を。」をコンセプトに立ち上げたブランドは、機能重視なものづくりを行う大手メーカーとは一線を画し、上質なデザインとカラー、そして目をひく特徴を兼ね備えた製品を世に送り出している。
「中学生のころから携帯電話が大好きだった」と語る彼女が、会社勤めを経てベンチャー企業のUPQを立ち上げるに至った思いや、新しいカタチのものづくりにチャレンジする原動力、UPQが担う社会的役割について、3回にわたってお届けします。――自分たちの技術を大切に、泥臭くものづくりをしている人たちに憧れて、大学卒業後に電機メーカーであるカシオ計算機に入社したそうですが、そこではどのような仕事に携わっていたのですか?

営業を経て、携帯電話の商品企画担当として開発の現場に携わっていました。私が新卒で入社した2007年当時は就職氷河期の時代だったので、「10年ぶりの新卒社員がきた!」とベテラン社員たちからは珍しがられていましたね。文系出身でしたが、ものづくりの現場の一員として同じ目的に向かって、時に激しく意見をぶつけ合いながらも、夢中になって商品開発に取り組んでいた日々でした。
でも5年勤めたころ、会社が携帯電話事業から撤退したのを機に私も退職しました。
――その後はカフェ経営に携わる傍ら、IT系のものづくりイベントなどに参加。そこでつくったプロダクトで経産省のフロンティアメイカーズ育成事業に採択され、そこで出会った家電ベンチャー株式会社Cerevoの代表・岩佐琢磨さんが、中澤さんの夢の具現化をサポートしてくれました。 “ものづくりに携わりたい”という気持ちが強く出ていたのでしょうか。「スマートフォンを作りたい」という私のひとことを聞いて、やってみればいいと背中を押してくれたのが岩佐さんでした。すぐに私を中国に連れていき、「じゃあ、後は一人で頑張ってね」と。この一歩がなかったら、いまのUPQはなかったと思います。そのときは驚きましたが、会社員時代も自社工場ではなく、国内および中国や韓国の工場で委託生産事業を行っていたので、その経験を生かして、自分一人で設計書を作成し、現地工場との交渉を開始。UPQの企画を立ち上げてから2カ月後には製品を発表することができました。
――UPQはこれまで、スマートフォンや大型ディスプレイ、キーボードなどの身近な生活家電から、電動&折りたたみの軽量バイクやUSBバックルつきバックパックなど、幅広いカテゴリーの製品を発売してきました。他社製品にはない魅力はどんなところでしょう?
UPQのスマートフォン、ガラス製タッチキーボード、ワイヤレス・ヘッドホン、USBバックル付きバックパックを持つ中澤さん
大切にしているのは、お客さんがUPQ製品を見たときに「何か気になる! 触ってみたい!」と感性に訴えるプロダクトであること。これまで、メーカーは機能重視の商品開発を繰り返してきましたが、シンプルな機能を求める人も少なくはありません。そこでUPQ製品はシンプルでかつ手に取りやすい価格であることはベースに据えたうえで、「気になる!」と思ってもらえるポイントを追求しています。
――販売網も広がってきていますね。 はい。当初は、通販サイト中心になるかとは想定しておりましたが、2015年8月6日のブランドおよび新製品発表後すぐ、蔦屋家電やビックカメラをはじめとする家電量販店からもお声がけいただいたため、現在は9つの通販サイトと全国の家電量販店を中心にのべ250店舗でも販売しています(2016年8月25日現在)。
――中澤さんがこだわる「希少価値の高いものづくり」は、かつて勤めていた会社でのものづくりとは真逆のアプローチ。そこには、前職でのどのような経験が生かされているのでしょうか? 次回は、中澤さんの現在のものづくりに大きく影響を与えた、マーケティングの考え方をお伝えします。(構成:大橋礼子、撮影:馬場邦恵、編集:柏木真由子、古川佳奈)
*この記事は、株式会社リビングくらしHOW研究所が運営するライター・エディター養成講座「LETS」アドバンスコース17期生の修了制作として、受講生が取材、撮影、編集、校正などを実践で学びながら取り組んだものです。
【ライター・エディター養成講座「LETS」のホームページアドレス】
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