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きれいをつくる
描く弾く語る! ビートルズ 東海大学教授×ジャズピアニスト
石塚耕一×木原健太郎
最終回 イラストに込めた思い
 アートと音楽の両方の視点からビートルズの魅力について語ってもらう、『ビートルズのデザイン地図』の著者・石塚さんとジャズピアニスト・木原さんの対談。最終回は、“レコードジャケットをアートのレベルにまで引き上げた”ビートルズの功績を称えながらイラスト制作に向き合った、石塚さんの思いについて語り合ってもらいます。

――これまでにもビートルズのポートレートを数多く描いている石塚さん。いったいどんな気持ちで4人のイラストを?

石塚 高校生のころからビートルズを描いてきて、自分なりの「4人の顔」が私の記憶に残っています。当初から参考にしたのは、ありきたりではない写真。そこにアレンジを加え、オリジナルの表現をしていくことを続けてきました。特にポールの似顔絵は私のお気に入りで、美術部でもないのにせっせと描き続け、漫画しか描いていなかった私を絵画へと導くきっかけになりました。私が高校時代に描いたポールのイラストは、新刊『ビートルズのデザイン地図』にも掲載しています。

上:煙草を吸うジョンは人気の一枚
下:名刺にも印刷したジョージ

 ジョンがうつむき加減でタバコをくわえているイラストも、私が若いときに描いた作品です。さらっと描いたものですが、私の作品のなかでは最も人気のある一枚です。
 たとえばジョンのイラストを描いているときには、「このとき彼はどんな気持ちだったのか」「おそらく優しい気持ちだったんだろうな」などと、ジョンの気持ちになっていき、そのときの感情で色も決めています。

 名刺にも刷り込んだジョージはすごく気に入っています。先日、北欧に研究旅行に行ったときにこの名刺を出したら、年配の方が「おぉ、ジョージ!」と言ってわかってくれたのがうれしかったですね(笑)。

木原 今回発売された単行本を手に取ったとき、まさに、先生の「ビートルズ展」を拝見しているような気持ちになりました。この本のためにイラストを描き下ろしたと聞きましたが、デザインの特徴はどんなところにあるのでしょうか?

石塚 最近はデジタル技術が発達し、専用のペンを使ってタブレットに直接イラストを描くことのできるアプリもあります。表紙の作品などもそうです。このアプリは学生たちも使っているので、逆を言えば、教える立場の人間が最新のスキルを身につけてそれを磨かないと、学生に先をこされてしまう。そういう意味もあって、デジタルツールを使った作品を積極的につくっています。
 「石塚色」を出すために、今回はいろいろ試行錯誤をしました。その過程の中でたどり着いた一つが、グリーンをベースにした世界ですね。

木原 イラストを作成する際には、まず写真をデータ化するんですか?

石塚 そうです。表紙のイラストは、もとになる写真の基本的な形だけをもらいました。顔、身体などの輪郭だけをもらって、そこから先はペンで描いていきます。作品のポイントは、まずオリジナリティーがあること。たとえば背景は、ただ塗りつぶしただけではなく明暗がある。これは奥行きを出すために意図的に入れたものです。そうすることによって立体感を出しています。
 それから、4人の姿はほとんど白黒で描いていますが、輪郭の縁にちょっとオレンジを入れています。オレンジとグリーンは補色といって、お互いの色を引き立て合う相乗効果があるんですね。村上春樹さんの小説『ノルウェーの森』の表紙なども赤と緑が効果的に使われていますが、こうした俗に言う“クリスマスカラー”は人間の記憶に残りやすいんです。この作品も、オレンジはあまり目立ってはいないけれども記憶に残るという、視覚的な効果を狙った配色にしています。
 帯にも赤を使ってもらっています。木原さんからいただい推薦文も入り、デザイナー視点でみるとかなりいい出来栄えになりました。

――一つひとつのアルバムと対峙し、丁寧に文献を読み解き、ビートルズが活躍した時代を鋭敏に感じとることで完成した単行本『ビートルズのデザイン地図』。著者として、音楽家として、それぞれの立場から、この本についてどんな感想を持ちましたか?

石塚 今回、アルバムジャケットに関する記事を書くことで、ビートルズの普遍性をあらためて強く感じました。その普遍性があるからこそ、今の高校生や大学生でも「ビートルズ」を知っている。この先も世代をこえて、彼らの音楽は聴かれていくのだろうと思います。さらに、ポール・マッカートニーやリンゴ・スターのライブに親子で出かけるなど、ビートルズを通して家族の触れ合いが生まれることもあるでしょう。曲の魅力もさることながら、「ビートルズ」という存在が世代をつないでいくのかもしれませんね。

木原 僕の音楽のテーマは、シンプルなメロディーを大切にした楽曲・演奏によって、人の心や人生に寄り添うこと。今回、石塚先生の著書によってビートルズをより深く知ったことで、「自分のテーマはぶれていない」と確信できました。僕の音楽を聴いてもらうことで、「ジャズって、ピアノって楽しいものなんだ、音楽っていいな」と感じてもらえたらうれしいですね。これからも多くの人が幸せになれる音楽の世界をつくっていきたいと思っています。

(構成:宮嶋尚美、取材協力:HARBOR'S CAFE大さん橋)

【かもめ編集部から】
 「描く」人と「弾く」人――。「ビートルズ」から新たなアートを紡ぎだす2人の手を、対談の最後に見せてもらいました。柔らかくてしなやかな石塚さんの手。たっぷりと力強い木原さんの手。それぞれの手からつくられる“ビートルズ・アート”は「画」と「音楽」という違ったジャンルではあるけれど、どちらもとても心地よい。もちろん2人の対談も……。アルバムジャケットを鍵にビートルズの奇跡をたどるストーリーの終わりに、こんなふうに幸せな対談に立ち会うことができたことも、ビートルズがおこしてくれた「奇跡」の一つだったのかもしれません。

※WEB連載原稿に加筆してまとめた単行本『ビートルズのデザイン地図』が絶賛発売中です(発行:東海教育研究所、発売:東海大学出版部)。
WEB連載「ビートルズ~アートの視点から読み解く4人の奇跡」はこちらをご覧ください。


☆石塚耕一先生のブログ「学びの森」こちらから↓
http://manabinomo.exblog.jp/

☆ジャズピアニスト・木原健太郎さんの公式サイトはこちらから↓
http://kentarokihara.net/
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【いしづか・こういち×きはら・けんたろう】
◆石塚耕一◆1955年北海道生まれ。北海道教育大学卒業。北海道おといねっぷ美術工芸高校や北海道松前高校、北海道釧路明輝高校などで校長を務め、2013年より東海大学国際文化学部デザイン文化学科教授。アート、デザイン研究と同時に絵画や映像などの制作にも取り組み、北海道内を中心に数々の個展を開催。おといねっぷ高の生徒たちの成長を描いた著書『奇跡の学校 おといねっぷの森から』(光村図書・2010年)は、韓国でも翻訳版が出版されている。

◆木原健太郎◆1972年北海道生まれ。アメリカ・バークリー音楽大学卒業。帰国後ジャズピアニストとして活動を始めるが、徐々にシンプルなメロディー&演奏にこだわった作曲・演奏を始めるようになり、1999年以降数々のアルバムをリリース。ソロ活動のほか、アースミュージックシンガーのスーザン・オズボーンなど国内外のアーティストと共演。近年はポップジャズバンド「木原健太郎withベリーメリーオーケストラ」や、能とのコラボレーションユニット「縁~enishi~」での公演など活動の幅を広げ、作曲家としても活躍中。
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