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「トーベ・ヤンソンの夏の記憶」出版記念イベントin神戸 ライター
内山さつき
北欧の香りに包まれた語らいのひととき
2025年9月に発売した書籍『トーベ・ヤンソンの夏の記憶を追いかけて』。ムーミンの生みの親、トーベ・ヤンソンをテーマにしたこの本の刊行を記念して、神戸市にある北欧雑貨店「markka(マルカ)」にて、10月17日から11月16日まで本にまつわる写真展が開かれ、11月1日にはトークイベントを兼ねた出版記念パーティーも開催されました。北欧の器やインテリアに囲まれた温かな空間で、フィンランドにちなんだスイーツとともに語られた特別なひととき。当日の様子を、登壇者として参加した著者の内山さつきさんがレポートしてくれます。


2025年11月1日、神戸市中央区で『トーベ・ヤンソンの夏の記憶を追いかけて』の出版記念パーティーが行われました。このパーティーは、北欧のヴィンテージ食器やインテリア雑貨を扱うショップのmarkka(マルカ)が企画・主催してくださったもの。マルカは大垣徹也さん、田村ふみ湖さんのご夫婦が営んでいるお店で、近年ではフィンランドのデザイナーとコラボしたオリジナルグッズを制作したり、フィンランド語のクラスや、旅のおはなし会、北欧の手仕事のワークショップなども定期的に開催しています。
かねてからトーベが夏を過ごした島「クルーヴハル」に関心を持っていたという田村さんは、「トーベ・ヤンソンの夏の記憶を追いかけて」連載のときから、記事の更新を楽しみにしてくださり、出版の折にはショップで写真展とトークイベントを開催しませんか、と声をかけてくれたのです。マルカは以前からいつか訪れてみたいなと思っていた、私にとっても憧れのお店。そんな場所での開催とあって、11月の神戸に張り切って向かいました。

フィンランド、スウェーデンを中心にしたヴィンテージの食器や雑貨がずらり

お店は古き良き異国情緒の漂う、神戸北野異人館街のすぐそばにあります。同じく古い洋館の多い横浜の近くで育った私には、神戸はどこか子どもの頃のことを思い出させるような懐かしい感じのする街です。ビルの2階のお店の扉を開けるとそこには、ヴィンテージの素敵な食器がずらりと並び、まるで小さな北欧のよう。「マルカ」という店名はフィンランドの旧通貨の単位から名付けられたもの。レトロで愛らしいその響きに似合う、あたたかく心地のよい空気が流れていました。

田村さんがこの日用意してくださったお菓子。右奥にいるのは、お店のマスコット「うさぎ山ごんぞう」さん

店内でカフェも営む田村さんは、なんとこの日のためにブルーベリーのチーズタルト、ムーミン・コミックに登場するスティンキーをかたどったチョコレートクリームケーキ、ルバーブのキーッセリの3種類のフィンランドのデザートを準備して待っていてくれました。キーッセリは、フィンランドで食べられている伝統的なメニューの一つで、ベリーやプルーンなどの果物を煮て片栗粉でとろみをつけたもの。ヨーグルトやおかゆなどにかけて食べられることもあります。今回は、酸味のある野菜で、ヨーロッパではジャムなどにしてよく食べられているルバーブをキーッセリにして、バニラアイスクリームに添えて。スティンキーのケーキは切り分けてしまうのがもったいないほどのかわいい仕上がりで、思わず歓声を上げてしまいました。田村さんによると、フィンランドで子どもの誕生日によく作られるのは、ムーミンのキャラクターの中でも特にモランやスティンキーの形をしたケーキなのだそう。

「これはフィンランドの友人から聞いた話なのですが、ムーミントロールじゃないんだなって私も意外で。それで今回はスティンキーにしたんですよ」
そう楽しそうに話してくれました。モランもスティンキーもムーミン谷ではちょっとくせ者のキャラクター。子どもたちにはムーミンのようなメインキャラクターよりも悪役が人気なのか、それともふたりとも色が暗いのでやっぱりチョコレートクリームが人気なのか……? などなど少し考えましたが、真相は不明のようです。

そうこうしているうちにお客様が次々といらっしゃって、店内はこの日のドレスコードの「何か北欧のもの」を身に着けた方々でいっぱいに。マリメッコのシャツ、ムーミンのトートバッグ、ニョロニョロの靴下、北欧デザインのブローチ、みなさまそれぞれお気に入りものを身に着けて来てくださり、素敵でした。
壁面に展示された写真の前で、トーベが夏を過ごした島クルーヴハルについて、先月訪れたフィンランドの旅のエピソードを交えてのお話をさせていただきました。驚いたのが、参加された方のほとんどがすでに本を読んでくださっていたこと。マルカさんが事前に本を渡してくださっていたからで、頷いたり、ときには身を乗り出したりしながら熱心に聴いてくれました。ムーミンのキャラクターでは誰が好き? と投げかけてみると、ムーミンママ、ニョロニョロ、スナフキンなどさまざまな答えが返ってきて盛り上がりました。

トークの最後には本の中でも触れた、トーベ・ヤンソンが作詞した歌「秋の歌」を紹介しました。私が準備した音源は、トーベ生誕100周年に上演されたサマーシアターで使われたもの。この劇のために編曲・演奏・収録され、ピアノとチェロによる伴奏&女性ヴォーカルで歌われるヴァージョンです。『トーベ・ヤンソンの夏の記憶を追いかけて』執筆時は、さまざまなメモや写真、資料を見ながら記憶を甦らせていきましたが、約10年前の空気や光、風や潮の音などを一番思い出させてくれたのは、この歌でした。今でもこの曲を聞くと、まるでメロディの中に封印されている思い出が解き放たれていくような感覚になります。「懐メロ」とはよく言いますが、繰り返し幾度も聴いた音楽の中にはきっと、まるでレコードのようにそのときの時間が刻み込まれているのかもしれません。

そんなお話もしていると、大垣さんも実は「秋の歌」のレコードを持っていると教えてくれました。こちらの版は、この曲を作曲したエルナ・タウロと、歌手のボ・アンデルソンが1978年にリリースしたもの。メインはギターによる伴奏で、男性の声でしっとりと歌われます。同じ曲ですが、印象はまったく違うふたつの「秋の歌」を聴きながらの、楽しいおやつタイムになりました。そしておひとりずつお話しながら、本にサインをさせていただきました。
ムーミンやトーベ・ヤンソン、フィンランドを愛する方々に包まれた、よく晴れた秋の日の、あたたかな時間でした。ご参加くださったみなさま、マルカの田村さん、大垣さん、心からお礼を申し上げます。

写真展はこの後、11月26日(水)から東京・神保町のブックハウスカフェに巡回します。(おわり)

●北欧雑貨店「markka(マルカ)」の詳細はこちら
Instagram → https://www.instagram.com/markkagonzo/


\内山さつきさん出演トークイベントのご案内/

ムーミン出版80周年記念講演
~原作ロングセラーの秘密と作者トーベ・ヤンソンの生涯~


1945年晩秋、第二次世界大戦終戦直後のフィンランドでひっそりとムーミンの物語第1作目が刊行されました。この『小さなトロールと大きな洪水』から始まるシリーズ全9冊の魅力とロングセラーの秘密、そして作者トーベ・ヤンソンの生涯を、ムーミンの編集を長年担当してきた元講談社・横川浩子さんが、直筆の手紙や貴重な現地写真などを交えて紹介。後半には『トーベ・ヤンソンの夏の記憶を追いかけて』の著者・内山さつきさんのゲスト出演も。ムーミンを愛して長年深く関わってきた編集者二人によるトークです。

【日時】2025年 12月 9日 (火)18:00~20:00(開場17時45分)
●店舗・オンライン同時配信
【会場】ブックハウスカフェ 2F ひふみ
(東京都千代田区神田神保町2-5 北沢ビル1F)
【出演】横川浩子さん(編集者)、内山さつきさん(ライター・編集者)
【参加費】2,000円 
●当日、ブックハウスカフェにて『トーベ・ヤンソンの夏の記憶を追いかけて』(2,420円)または講談社ムーミンシリーズ(小説)を購入した人は参加費1,500円
【定員】店舗50名、オンライン100名(見逃し配信あり)
【対象】どなたでも
【予約】要予約

●イベントの申込・詳細は→

こちら


<主催:ブックハウスカフェ>


好評既刊『トーベ・ヤンソンの夏の記憶を追いかけて』

内山さつき 著


定価2420円(税込)

「ムーミン」シリーズの生みの親で芸術家のトーベ・ヤンソンが26年間、ほぼ毎年の夏を過ごした島クルーヴハル。その孤島にトーベの面影を追いかけて訪れ、1週間滞在した忘れがたい日々と、トーベの友人たちが語った友情の思い出を重ねるように綴る旅のエッセイです。アトリエや幼少期を過ごした家、ムーミン美術館など、トーベゆかりのスポットも収録。ムーミンを愛する人、トーベ・ヤンソンに魅せられた全ての人に贈る1冊です。
【書籍の購入】は→

こちら

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【うちやま・さつき】
東京都生まれ。月刊誌の編集執筆に携わった後、フリーランスのライター、編集者として独立。「旅・物語・北欧」をテーマに取材を続ける。2019年から全国を巡回した「ムーミン展 the art and the story」の展示監修&図録執筆を担当するほか、朝日新聞デジタルの連載「フィンランドで見つけた“幸せ”」や「地球の歩き方 webサイト」のラトビア紀行を執筆する。2014 年夏、「ムーミン」シリーズの作者トーベ・ヤンソンが夏に暮らした島、クルーヴハルに滞在したことをきっかけに、友人のイラストレーター・新谷麻佐子さんと北欧や旅をテーマに発信するクリエイティブユニットkukkameri(クッカメリ)を結成。ユニットとしての著書に『とっておきの フィンランド』『フィンランドでかなえる100の夢』(ともにGakken)。2023年に開設したwebサイト「kukkameri Magazine」では、フィンランドのアーティストたちを紹介している。
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