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美しいくらし
化石のまちの町づくり 化石で南三陸を盛り上げる会「Hookes」代表
髙橋直哉
第2回 この土地だからこそ生まれるもの
“ここにしかないもの”を探し続けた末に出会ったのは、化石という地域の宝。まさに宝探しのような化石発掘の楽しさに魅了され、発掘現場に通い詰めた髙橋さんは、培った経験と知識をもとに南三陸の化石の魅力を発信する活動をスタートしていきます。

――はるか昔に絶滅した古代生物・嚢頭類(のうとうるい)の化石が見つかった(第1回参照)発掘現場で、2018年にスタートしたのが一般の方向けの化石発掘体験プログラムです

化石発掘体験の様子

 化石に出会ってから3年ほどは、発掘は単なる個人の楽しみでした。ただ、その間、私の様子を見た知人たちから「自分も発掘をしてみたい」と言われることが何度もあり、一緒に発掘に行っては私が化石の鑑定や説明をしていました。その度に聞かれたのが、驚きや感動の声。自分の手で探り当てた化石に目を輝かせる姿を見て、「やっぱりこの町の化石はより多くの人に知ってもらうべき地域の資源だ」と改めて感じるようになりました。そのころ自分自身もようやく化石について理解できてきた実感があったので、2018年のタイミングで化石発掘体験を始めてみることにしたのです。

 初めの年は300人ほどだった参加者も、ありがたいことに年々増えて、今では年間1000人近くにのぼります。コロナ禍で中断した年もありましたが、再開後は県外から来られる方も増えました。特に「子どもに楽しい勉強の一環として経験させたい」と親子で参加される方が多いですね。

――参加した人はどのように発掘するのですか?

 地層がむき出しになっている崖が絶好の発掘ポイントなのですが、岩盤が硬いため、あらかじめ重機で崩しておきます。参加者は細かい破片の中から拾ったり、大きめの破片ならハンマーで割ったりして化石を探していきます。化石かな?と思うものがあれば、私やスタッフに声をかけてもらって、その場で化石かどうか鑑定します。

見事、化石を発見!


 実際に発掘してもらうと「こんなに簡単に見つかるの?」と驚かれます。嚢頭類や魚、植物といろいろな化石が出ますが、特に人気なのはアンモナイト。私自身もそうでしたが、やはり誰もが知っている化石ですから探し当てたときはテンションが上がりますよね。見つけた化石は1人1個持ち帰ることができます。子どもも大人も楽しめて、すごく喜んでもらっていますね。10回近く来てくれているリピーターの方もいらっしゃるんですよ。

――着実に化石ファンを増やしていますね。2022年には、南三陸を化石で盛り上げる会「Hookes(ほっけす)」を発足されました。

 Hookesは、南三陸の方言「ほっけす(掘り起こす)」と掛け合わせて付けた名前です。その名のとおり、化石をはじめとする地域のさまざまな資源を掘り起こし、町を活性化することを目指しています。地元の魅力を発信していくためには、まず地元の人にその輪を広げていくことも大事なので、「観光」と「教育」を活動の軸としています。

 立ち上げメンバーは6人で、本業はそれぞれ観光業、農業、漁業、建設業、水産加工業、木工業などさまざまです。共通点は地元のものを活用して地元の魅力を発信していること。地場産品を使って新しい商品を開発したり、カフェを開いたり、みんな地域に根ざした活動をしています。団体設立について、いちばん初めに声を挙げたのは宿泊業を営んでいる仲間でした。もともと歌津には海水浴場があり、その周辺には民宿がたくさんあるのですが、震災で海水浴場がなくなってしまい、観光業は大打撃を受けました。そこで、この土地ならではの地域資源である「化石」を目玉にして観光を盛り上げていこうと、私に声をかけてくれたのです。
 
――やはり震災の影響は大きいですね。同時に、髙橋さんをはじめHookesの皆さんの地元への思いも感じます。

 地元を元気にしたい、この町の魅力を伝えたい、という気持ちは強いですね。化石はもちろん、自然が豊かで、海の幸も山の幸も楽しめて……といろいろな魅力がある町なので。いま町に住んでいる人たちもこの場所が好きなんだと思います。でも、やはり外に出ていく人も多いですよ。もともと決して便利な場所とはいえませんし、震災後は町外に出ざるを得ない人も多くいました。一方で、震災後に移住された人もたくさんいます。ボランティアなどを機に「すごくいい町だから住みたい」「この町でもっと何かしたい」と言ってそのまま移り住んでくれた方が多いですね。2023年には化石専門の地域おこし協力隊員も着任しました。大学で古生物学を研究されていた方で、学生時代に調査で南三陸を訪れたことがあり、卒業後に協力隊として移住してくれました。今は化石発掘体験の運営なども一緒に行っています。

自然体験活動を提供する地元団体とHookesのコラボレーションで実施したビーチクリーン
活動。拾ったゴミで砂浜にウタツサウルス、アンモナイト、嚢頭類を描いた


――新しい仲間も増えて南三陸の化石がますます盛り上がっていきそうですね。今年2024年の4月には、再び「新種の嚢頭類化石発見」のニュースも聞かれました。発見者はなんと髙橋さんご本人なのですよね。どんな点が新種とされたポイントなのでしょう?

髙橋さんが発見した新種の嚢頭類「パリシカリス・ナオヤイ」

 決め手は甲皮と呼ばれる殻の部分の模様です。筋のような模様がすべて眼のあたりを起点に始まっているのですが、こうした模様の特徴は過去に発見された嚢頭類には見られません。初めて発見したのは5年ほど前になりますが、そのときは1つの個体しか見つからなかったので、新種かどうかわかりませんでした。しかし、その後同じような化石がいくつも見つかったため「これは新種の可能性が高いぞ」ということになり、大学の先生が論文を書いてくださって、今年4月に正式に新種と発表されました。

――同じ特徴を持つ個体がいくつも確認できて、はじめて新種とされるのですね。名前は「パリシカリス・ナオヤイ」……ん?「ナオヤイ」? もしかして、髙橋さんのお名前の「直哉(なおや)」から来ているのですか?

 実はそうなんです。先生から新種確定の知らせをもらった際、「髙橋さんの名前をつけておいたよ」と事後報告されて驚きました。自分でもまさかと思うくらいだったのですが、SNSでこのことを発表したのがエイプリルフールの4月1日だったので、知人には初め嘘だと思われていました(笑)。それくらいめったにないことなので、とてもありがたいですし、うれしかったですね。

――化石にご自身の名前が入るなんて夢がありますね。ますます発掘に熱が入ってしまうのでは?

髙橋直哉さん(写真:編集部)

 とはいえ本業は漁師なので、化石が好きとばかりも言えないのですが……海もちゃんと好きですよ(笑)。海というか、ここの地形全体が好きなんですよね。歌津には湾と外洋と2つの海があるので、海の生き物も種類が豊富です。さらに山もすぐそばにある。多様性を生む地形なのです。この環境でなければおいしい海産物も捕れませんし、化石も見つかりません。やっぱりこの地形が最高ですね。今の活動をしていても、ここに生まれていなかったらこんなに化石にふれることもなかっただろうなと感じます。本当にここでよかったなと思いますね。(つづく)

――漁業と化石、一見かけ離れているように見える2つですが、「この土地でしか生まれえないもの」という点で、同じ根を持っているといえるのかもしれません。故郷に対する誇りと愛情は、化石のまちを目指す多彩な取り組みへとつながっています。最終回では、活動を通して感じる町の変化や、今後の展望について聞きます。

(写真提供:髙橋直哉、構成:寺崎靖子)
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【たかはし・なおや】
宮城県本吉郡歌津町(現・南三陸町)生まれ。ワカメやホタテの養殖業を営みながら、漁業体験や化石発掘体験など地域資源を活用した観光業を手がけ、研究者と連携した化石発掘にも取り組む。化石で南三陸を盛り上げる会「Hookes」代表。南三陸町ブルーツーリズム「金比羅丸」代表。「フィッシャーマン・ジャパン」理事。「海しょくにん」副代表。「みなみさんりく発掘ミュージアム」代表。南三陸町文化財保護委員。
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