雨が降ると頭が痛くなる、台風が近づくと体調を崩す……。そんな不調に悩みながらも「思い過ごし」「気の持ちよう」と、そのまま放置していませんか? はっきりした根拠がないために見過ごされてきた気象病。そのメカニズムが最新の研究によってわかってきました。台風や猛暑など過酷なシーズンを迎えた今、自分の体を見直し天気とうまく付き合う方法を、天気痛ドクターの佐藤純先生に3回にわたって聞きました。――30年以上にわたって天気と体調の関係を研究されてきた佐藤先生。気象病とはどういったものなのでしょうか?
気象病は天気の影響によって生じるさまざまな病気の総称です。気象病自体は医学的な病名ではなく、もともと持っている体の不調が天気の変化によって表れたり、増幅したりすることを指します。天気の変化に伴って起こる不調でもっとも多いのは頭痛。そのほかにも肩や首のこり、関節痛、めまい、だるさ、気分の落ち込みなど症状は多岐にわたります。私はその中でも痛みを伴う症状を「天気痛」と名づけました。

天気痛ドクター・佐藤純先生
慢性的な痛みに悩む人は非常に多くいます。過去に行ったアンケート調査では、「体のどこかに3カ月以上続く慢性的な痛みがある」という人が回答者の40%近くにのぼりました。そして、そのうち約25%もの人が「天気が悪いときに症状が悪化する」と答えたのです。
これを日本の20歳以上の人口に当てはめると、天気によって体に不調を感じる人は1000万人以上。天気痛は決して特殊な症例ではなく、誰にでも起こりえるものなのです。
――なぜ天気がそうした不調を引き起こすのでしょうか?
主な原因となるのは、「気圧」「気温」「湿度」の変化です。暑い、寒い、ジメジメする……といった天気の変化を皆さんは日常的に感じていると思いますが、気象病になりやすい人はそうした環境変化をより敏感に感じ取ります。その情報がストレスとして脳に伝わり、自律神経のバランスが乱れることで、さまざまな症状を引き起こすと考えられています。体に不調を抱えている、あるいはちょっとしたきっかけで不調が顕在化するような状態にあること。そして、環境の変化に敏感であること。この2つは気象病になる必須条件といえるでしょう。
――「暑さや寒さなどで体調を崩す」というイメージはあるのですが、「気圧」も体に影響しているというのは意外でした。
体の不調を招く3つの原因の中でも気圧の影響は特に大きいのですが、医学界でも気圧についてはこれまでほとんど研究されてきませんでした。高山病などは別として、通常の環境における気圧の変化は体で感じることができないと考えられていたからです。しかし近年、私たちのグループの研究によって、耳の奥にある「内耳」が気圧の変化を感じるセンサーの役割をしていることがわかってきました。
普段の生活で気圧が大きく変化するタイミングといえば台風などが思い浮かびますが、そうした気象条件がなくても、気圧は周期的に変動しています。太陽の熱によって起こる「大気潮汐」という現象で、大気も海とおなじように満ち引きを繰り返しているのです。
気圧は1日に2回アップダウンを繰り返していて、気象病の患者さんの中には大気潮汐にぴったり合わせて体調が変化する方もいます。気圧と私たちの体はそれほど密接に関わっているのです。
日常生活で生じる気圧変動は、天気によるものだけではありません。例えば新幹線や飛行機などの乗り物もその一つ。新幹線がトンネルを走行するときや、飛行機が離着陸するときには大きな気圧の変化が起こります。エレベーターの昇降による気圧差で体調を崩す人もいて、高層ビルでは注意が必要です。
――自分では気づかないようなことも、実は体に影響を与えているのですね。私の頭痛も天気痛なのか気になってきました。でも雨の日に必ず症状がでるわけではないし……。 気象病や天気痛は症状もさまざまで、元になる不調、天気の変動、といろいろな要因が絡んでいるのも難しい点です。症状が出るタイミングも「天気が崩れる前」という方がいれば、「天気が回復に向かうとき」という方もいます。体調によっては晴れの日に具合が悪くなることもあるでしょう。一方で、安易にすべての不調を天気のせいにしてしまっては、その他の大きな病気を見逃すことになりかねません。「特に原因がないのに不調を感じる」といったときは、可能性の一つとして「天気が関係しているかもしれない」と考えてみることが大切です。(つづく)
――ひと筋縄ではいかない気象病。ですが、天気の影響だと気づかず長年不調に苦しんでいる方にとっては、その存在を知ることが改善への糸口になるかもしれません。次回は自分でできる気象病対策を教えてもらいます。(構成:寺崎靖子)