おいしいチョコレートをつくるためには良質の原料を使うことが大切ですが、品質の良し悪しはどうやって決まるのでしょうか? チョコ好きもそうでない人もためになるカカオ豆のお話からスタートします。と、その前に「カカオ豆の世界有数の産地は?」と聞かれて、あなたはどこの国を答えますか??
――チョコレートの主な原料はカカオ豆であることは知っていますが、その生産国は? と聞かれると、ガーナくらいしか頭に浮かびません……。 確かに日本ではガーナ産の輸入量が圧倒的に多いので、そう思われても無理もありません。世界の生産地は、カカオベルトと呼ばれる赤道を挟んで南北20度のエリアに集中しています。生産量第1位を誇るコートジボワールなどのアフリカ、エクアドルやペルーなどの中南米、そのほかにインドやオーストラリア北部、最近では台湾やタイといったアジアでも高品質のカカオ豆が収穫できるようになってきました。日本では沖縄や小笠原諸島でも栽培されています。
――なるほど、高温多湿の熱帯地方というイメージはありましたが、ガーナ以外の国々でも栽培が盛んなのですね。それだけ生産地が世界各地に点在しているとなると、国や地域ごとに味の特徴があるのでしょうか。
写真:編集部
栽培の歴史や古来の品種をたどると、ざっくりとした傾向が見られます。たとえば、カカオ豆のルーツとされる中南米産は、フルーティーな香りと繊細な味わいのものが多いですし、アフリカ産は植民地時代に病害虫に強い品種が持ち込まれたため、種に含まれている抗酸化作用成分に強い苦みを感じるものが多いです。
しかし実際のところ、産地で分類するのはとても難しいこと。なぜなら、カカオ豆の味・色・香りは品種や気候風土だけでなく、農法や収穫後のポストハーベスト(発酵・乾燥などの加工)、チョコレートの製造工程である焙炒や精錬工程などの条件が重なり合って影響するからです。
――同じ地域の同じ条件で育ったからといって、同じ品質を保持できるとは限らないのですね。
カカオは1年じゅう結実しますが、年に2回大きな収穫時期がある(地域によって異なる)作物です。収穫後に実を割って、果肉ごと種(カカオ豆)を取り出し、発酵と乾燥を約2~3週間かけて行い、選別し、ローストしてすり潰すという工程を経て、チョコレートの素になるカカオマスになります。この手間暇かかる一連の作業がカカオ豆の品質を左右します。
どのように発酵させたか、乾燥させる際に天気だったのか雨だったのか、それだけでも大きく味わいが変わるのですが、技術の熟練度や品質を見極める知識の深さも関係します。Bean to Barメーカーが求めるカカオ豆をつくるには、カカオ豆農家と連携して同じゴールを目指すことが理想的ですが、発酵・乾燥を農家単位で行ったり、農業組合のような機関に集積して加工したりと、乾燥の状態になるまで国や地域によってさまざまです。
――Bean to Barメーカーにとってまず必要なのは、理想のカカオ豆にたどり着くこと。目指すチョコレートまで道のりは長いですね。 カカオ農園を訪問して実感しましたが、カカオ生産は「農業」であり、チョコレートづくりとは全く違う分野です。メーカーやショコラティエが良いカカオ豆を見分けるのも容易ではないと思います。しかし、自ら農園に出向いて直接買い付けたり、農家さんたちと良好な関係を築くことで、栽培方法や発酵状態を細かくオーダーできたり、自社の工場を現地につくって収穫後の加工から手がけたりと、カカオ豆を入手する選択肢が広がりました。そのおかげで、カカオ豆の個性が色濃く出た味わいを追求できるようになったのです。
――カカオ豆生産者とメーカー、ショコラティエがワンチームになることで、新しい“モノづくり”ができるということですね。そうした動きに、さつたにさん自身も影響された一人ですか? そうなんです。転機は2013年に訪れました。カカオ豆栽培を現地でサポートしている小方真弓さんのブランド「カカオハンターズ」の試食サンプルを食べたときです。
「チョコレートって何なんだ!」
衝撃が走りました。口の中で広がる豊かな味わい、鼻にすっと抜ける芳醇な香り……。私たちが子どものころから慣れ親しんできたあのチョコレートは別の食べ物ではないかと疑ったくらいです。そうした驚きと感動の“カカオ感”を体験したのをきっかけに、世界各地の生産地やチョコレート工房をこの目で見て歩きたいと強く思うようになりました。(つづく)
仕事観をガラリと変えてしまうほど、さつたにさんにインパクトを与えたBean to Bar。その後、山を越え川を下り、延べ26カ国の生産地を飛び回ることに。次回はジャングルの奥地で働く生産者との交流について語ってもらいます。
(写真提供・さつなにかなこ、構成・狭間由恵)
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