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食べるしあわせ
心ときめくチョコレートワールド チョコレートソムリエ
さつたにかなこ
第1回 業界に旋風を巻き起こす「Bean to Bar」
 バレンタインデーにときめいた思い出はあまりないけれど、仕事の合間に食べるチョコレート選びなら心が躍る、という人も多いのでは? 店の売り場に並ぶバラエティー豊かなラインアップの中でも、特に「Bean to Bar(ビーントゥバー)」のチョコレートは異国情緒あふれるパッケージで、食べるとカカオ豆の風味が際立つなんとも深い味わいです。その秘密を探るべく、世界中の農園や工房を飛び回るチョコレートソムリエのさつたにかなこさんにインタビュー。知っているようで知らないチョコレートの奥深い魅力に迫ります。


――海外ブランドの発掘や輸入、セミナーの開催を手がけるなど、国内外のチョコレート事情に精通している、さつたにさん。まずお聞きしたいのが、最近、専門店などでよく見かける「Bean to Bar(ビーントゥバー)」についてです。これはどういったチョコレートなのでしょう。

 カカオ豆(Bean)の選別から板チョコレート(Bar)になるまで一貫して製造することをBean to Barといいます。チョコレートはカカオ豆を原料としているので、厳密に英語を直訳すれば、すべてのチョコレートがBean to Barと呼べてしまうのですが、昔はクーベルチュールというチョコレート原料を大量に仕入れて、それを加工して商品にするのが主流でした。それに対して、カカオ豆や製造方法にこだわり、全工程を自社で行っているメーカーが「自分たちはBean to Barブランドだ」と言って区別するようになりました。
 ほかに、カカオ豆の木の栽培からかかわるため「Tree to Bar」、カカオ農園から携わるため「Farm to Bar」を名乗るメーカも増えています。

――素材や作り方にこだわっているといえば、職人によるクラフトビールやスペシャルティコーヒーに似ていますね。

写真:編集部

 そうですね。原料にもレシピ(作り方)にもメーカやショコラティエのオリジナリティーがあるため、共通する点が多いです。ここ数年のクラフトビール人気で全国的に醸造所の数が増えているように、Bean to Bar専門店も一気に増加しています。現在、国内に大小合わせて100ブランド以上。最近では、コーヒーショップに併設されているような小さな工房もよく見かけますし、海外勢ブランドの日本進出も目立ってきています。

 もともとBean to Barを掲げる専門店や工房が増えた背景には、インターネットの普及に伴い、世界中のカカオ豆農家さんや農業組合などから良質なカカオ豆をダイレクトに買い付けできるようになったこと、カカオ豆の焙煎や粉砕、すり潰しに必要な機械を入手しやすくなったことなどが影響しています。Bean to Barメーカーは産地や品質、風味を特選した納得の原料で、カカオ豆自体の風味を存分に楽しめるチョコレートを追求できるようになりました。

――工場で効率よく大量生産することを主流としていたチョコレート市場にとって、Bean to Barメーカーによる製法は革新的なことだったはず。そうした動きはいつごろから始まったのですか?

 世界的にみると、2010年ごろアメリカを中心にBean to Barが大ブームとなりました。その火付け役になったのは、2007年にニューヨークのブルックリンでオープンしたクラフトチョコレートの店「マスト・ブラザーズ・チョコレート」です。まず目を引くのはスタイリッシュなラッピング。そして、上質なカカオと砂糖のみでつくる力強い味わいのチョコレートが、業界に新しい風を吹き込みました。

 そうしたトレンドが日本にも入ってきて、私がBean to Barブランドを国内の通販サイトで初めて紹介したのが2013年のことです。その翌年、大阪の阪急百貨店さんから依頼を受けて、板チョコだけを集めた売り場の監修を担当することになりました。デザイン性に富んだボンボンショコラとは対照的に、シンプルな板チョコは売り場の隅っこに追いやられているような存在だったので、専門コーナーなんて当時はかなり珍しい試みだったようです。
 その後、雑誌などで板チョコ特集が次々と組まれるようになって、各メディアで取り上げられるようになりました。「Bean to Bar」という言葉が広く知られるようになったのもこのころからです。

――なるほど、Bean to Barの日本の歴史はまだ浅いのですね。しかし、一見地味な板チョコが一過性のブームに終わらず、新たなカテゴリーとして受け入れられたのはどうしてですか?

 異業種からスタートしたブランドが多いこともあって、パッケージのデザインが洒落ているので、最初は意外にもそこに惹かれる方が多いようです。
 並べて比べてみるとよくわかるのですが、同じブラックチョコでもミルクチョコでも、明るいものからダークなものまで色調が豊富です。実はこうした色の差異は、使用するカカオ豆の品種や産地の違い、カカオ豆の焙煎温度の違いでもあって、フレッシュなフルーツを食べたときのような酸味だったり、花のような華やかな香りだったり、カカオ豆本来の風味をより深く楽しむことができる。今まで食べてきたチョコレートとは異なる味わいにも、大きな魅力を感じてくださっているようです。

 そのほかの理由として、品質面も挙げられます。2011年に起きた東日本大震災をきっかけに、加工・製造・流通などを明確にしたトレーサビリティーが消費者に浸透するなど、食生活を取り巻く環境が大きく変化しました。食の安心・安全が求められる中、Bean to Barは主な原料がカカオ豆と砂糖と、とてもシンプルですし、メーカーがカカオ豆の生産者や生産地を開示しているケースが多く、“顔が見える野菜”のように、カカオ豆のルーツや作り手の情報をきちんとお伝えできる点も評価されているのではないでしょうか。(つづく)

 カカオ豆が持つ味・香り・色だけでなく品質の良さも特徴とするBean to Barは、チョコレートの新しいスタイルとして市場に広がりを見せています。次回は、味の左右するカカオ豆にスポットを当てて、一度食べたらハマる(!?)Bean to Barの魅力をさらに深掘りしていきます。

(写真提供・さつなにかなこ、構成・狭間由恵)

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◇ブログ「さつたにかなこの上質ショコラと旅暮らし手帳」はコチラ

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【さつたに・かなこ】
株式会社トモエサヴールの代表、チョコレートソムリエ。1998年より高級輸入チョコレート店の店長職、カフェプロデュース、アルバイト販売員教育担当など、輸入チョコレートを中心とした販売に関する全般の業務において活動。2007年よりチョコレートの楽しみ方などを紹介するイベントの企画や運営を担当。2013年に「トモエサヴール」を創業し、輸入業、コンサルティング、イベント主催、執筆と活動の幅を広げる。2014年よりチョコレートの世界コンクール「Internatilnal Chocolate Awards World Final」の審査員を務める。
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