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第11回 空から見たラベンダー畑【フォーカルキエ】

 数年前のある日、夫に「君の夢は何?」と聞かれました。「夢? たくさんあるけど……」と答えに困った私。頭の中を整理してから、「日本に関する夢以外だと、気球に乗ってラベンダー畑を見たいわ」と返事をしました。

 私は今でも感動して泣くほどラベンダー畑が大好きですが、ラベンダーのほかに、麦、オリーブ、ブドウの畑が描く模様を空から見ればどんなに素晴らしいだろう、いつか自分で体験したい、とずっと思っていたのです。

 でも気球に乗るのは簡単ではありません。日が昇る前に飛ぶ必要がありますが、風が吹いたり、雲があったり、雨が降ったりすると中止になってしまうため、近くの村に短くても2泊することを勧められます。これなら初日がキャンセルになってしまっても、無料で翌日に振り替えできるからです。このように、タイミングと時間が必要な気球の旅。憧れているだけでなかなか実現する機会が巡ってきませんでした。

 すると私の返事を聞いた夫は「早めのクリスマスプレゼントだよ」と言って、気球ツアーを申し込んでくれたのです! 私の好きなホテルを予約して、子どもたちを家族に預けて、6月中旬に二人きりの2泊3日のリフレッシュ旅行へと出発しました。

 プロヴァンスで気球の体験ができるのは、ニースから車で2時間ぐらいのフォーカルキエ村。エクス・アン・プロヴァンスより北にあって、ラベンダーで有名なルベロン地方の入り口にあります。11世紀に設立され、フランスだけでなく、ヨーロッパの中で空と空気がいちばんきれいな村として知られています。

 気球に乗る前日の午後にホテルにチェックインした私たちは、周りのラベンダー畑やヒマワリ畑を巡ったり、はちみつの生産者を訪れたり、ホテルでのんびりしたり。夕方になってようやく気球ツアーのスタッフから電話が入って、「明日の天気は大丈夫そう。予定どおり飛べそうです。朝4時45分に村の教会前に集合してください」と指示されました。それからはワクワク、ドキドキ。寒そうだから何を着ていこうかと翌日の洋服を考えたり、興奮してなかなか眠れません。浅い睡眠しか取れないまま朝が来て、真っ暗なうちに部屋を出ました。

 集合場所からはほかの参加者と一緒に車に乗って、村の郊外にある広い平野へ。スタッフが気球を準備している間に、コーヒーとクロワッサンの簡単な朝食が出されました。6月中旬で日中はかなり暑いのに、薄暗い早朝はまだ寒くて、温かいコーヒーが有難かったのを今でも覚えています。でも、緊張していた私はコーヒー以外に何もおなかには入れられず。気球と早朝の景色をずっと眺め、この雰囲気を一生忘れないように目に焼き付けていました。

 やがて空気を入れた気球が膨らみ始めると、いよいよ離陸準備です。高所恐怖症の夫は一緒に乗らないことに決まっていたので、私はほかの参加者たちとバスケットに慎重に乗せられ、ゆっくりと地上を離れて行きました。参加者の歓声と、ときどき聞こえるバナーの音以外には何も聞こえません。怖くもありません。

 風がほとんどなく、こんなにも静かに飛ぶことはとても意外でした。広いプロヴァンスの景色が自分の周りをスローモーションで永遠と続いていく感じです。紫色のラベンダー畑、なだらかなラインの山々、麦畑、オレンジ色の屋根が連なる村々などが次々と現れては消えていきます。


 一緒に飛んでいた同じツアーの気球がたまたま「ロクシタン」のスポンサー名が入ってものだったので、まるでCMか映画のワンシーンみたい。あっという間に所定の1時間が経ってしまいした。そろそろ到着時間です。風によって飛ぶ方向を決める気球は到着する場所が事前に決められていないので、着陸に適した広い場所を探す必要があります。畑や庭でいいらしいですが、オーナーがいれば許可を得ないといけません。

 私たちの気球は最初、プールのある広い庭に到着しようとしたら突然、オーナーさんが出てきて気球に気づきました。スタッフが「すみません ! 今から降りていいですか?」と聞いたら断られてしまったので、慌ててバナーを強く動かしてもう一度上昇。そこからちょっと行ったらよさそうな畑があって、運よくオーナーがいなかったので、無事に静かに着陸できました。
 地上に降りてからはスタッフも参加者も送迎ドライバーさんも、皆で力を合わせて感謝を込めて頑張って丁寧に気球を畳んでツアーは終了です。

 この原稿を書くために当時撮ったたくさんの写真や動画を見直して、もう1回感動して涙が出ました。ぜいたくなプレゼントで一生に1回しか体験できない気球ツアー。皆さんもプロヴァンスにいらしたときには滞在時間を少し伸ばして、ぜひともこのような特別な体験をしてみてください。ゆっくりと空から眺めたプロヴァンスは、気球に乗った人しか見ることができない「世界でたった一つの景色」として、いつまでも心に残る最高の思い出になることでしょう。(つづく)


★フォーカルキエへのアクセス方法
マルセイユやアヴィニョンから路線バスしかありません

【マイ コートダジュール ツアーズ】http://www.mycotedazurtours.com/
【mycotedazurtours Instagram】https://www.instagram.com/mycotedazurtours
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【Stephanie Lemoine】
1979年フランス・ニース生まれのニース育ち。高校で第3外国語として日本語を選択、大学はパリにある国立東洋言語文化学院(Institut national des langues et civilisations orientales)で日本語と日本文学を専攻。大学時代の1年半、東京学芸大学に留学。ニースを拠点にした日本語ツアーや通訳、各種コーディネートなどを提供する「マイ コートダジュール ツアーズ」に、日本語ドライバーとして2008年から勤務し、10年に社長に就任。フランス政府公認ガイド。日本でのお気に入りの場所は宮島(広島県)と湘南(神奈川県)。大好きな鎌倉で老後を過ごすのが夢で、2人の息子たちには毎日欠かさず日本の話をしている。
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