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美しいくらし
ニースっ子の南仏観光案内 マイ コートダジュール ツアーズ社長
ルモアンヌ・ステファニー
第5回 ガレット屋のポップさん【カロス】
 私は結婚して13年目ですが、夫婦だけで年に1回プチ旅行をしたり、月に1回ぐらい夫と二人だけでレストランに行く習慣があります。新型コロナウイルスによるロックダウン(都市封鎖)の間はずっと子どもといて、解除されてからも毎日3食を作ったり、子どもたちの課題を見たりして、夫婦二人で過ごす時間が全くありませんでした。

 そんなある金曜の夕方、「子どもたちを預かるから二人で夕食を食べてきたら?」と母が言ってくれたのです。迷わず、ちょっとだけドレスアップをして喜んで夫と出かけました。まっすぐに向かったのはカロス村のガレット屋さん。

 カロスはニースから北方に約15キロ、自宅からは車で15分ぐらいです。観光地化されてなく、どのガイドブックにも載っていないため、この村のことは地元の人しか知らないと思います。私は子ども時代、村のアコーディオン教室に10年間通って、発表会を何回もしました。

 お城を囲むように12世紀に建てられた家々が並ぶこの村では、ほとんどの路地が当時の面影のまま残っています。車で村の中に入ることができず、南仏によくあるような「小さな村」です。


 数年前からニース在住の日本人の間で話題になっていたのが、この村にあるガレット屋さん。ガレットの本場であるブルターニュ地方に親せきのいる夫は興味津々でした。ブルターニュ地方から1200キロも離れているニースではおいしいガレットを出すレストランは珍しく、いいお店がなかなか見つからなかったからです。話を聞いた数カ月後に初めてそのお店に行ってみると、あまりにもおいしくて常連になってしまいました。

 カロスの中心にはお店が2つしかなく、南仏定番のピザ屋さんのほかにはこのガレット屋さんがあるだけです。ガレット屋さんは、12世紀に城壁になるように建てられた家の1階にあります。夏はテラス席が気持ちよく、2階はオーナー夫婦のアパートとなっていて、大きい犬がよくバルコニーから見守っています。

 あとで聞いたら、キッチンを担当している妻のマリーさんはブルターニュ地方で研修を受け、本格的なガレットを習ったそうです。夫のポップさんがサービスを担当し、娘さん夫婦も一緒に働いています。私たち夫婦は5年前から通っていますが、子どもたちもよく連れていっているので、今ではガレット屋さんの家族と仲よしです。娘さん夫婦のクロエさんとヴォラさんは日本が大好き。労働ビザを取って、東京・原宿のガレット屋さんで1年間アルバイトをしたそうです。
 去年、クロエさんとヴォラさんの間に赤ちゃんが生まれて、おばあさんとおじいさんになったマリーさんとポップさん。娘さん夫婦と4人で協力しながら仕事と子育てを両立させているそうです。

 ガレット屋さんを訪れるのは4カ月ぶり。ロックダウン後にようやく訪れることができたので、店内に足を踏み入れたときにはちょっと感動しました。大好きなカロスを訪れるのも久しぶり。村の写真が撮りたくて、「頼んだ料理が来るまで村を一周してきてもいい?」」と夫に聞いたら、「ゆっくりどうぞ」と言ってくれたので、わくわくしながら村の中心へ向かいました。


 花がたくさん咲いていて、猫もいっぱいいるカロス。子どもたちも私も猫が大好きな我が家では、訪れるたびに猫を探して数えるのが目的の一つになっているぐらいです。

 この日も猫を追いかけて写真を撮ろうと思ったら、石造りの美しい階段が続く坂の上に不思議な生き物を発見しました。坂道の右側の壁に、ブーツを履いて座っている大きい犬が、私に向かって暑そうに舌を出していたのです。


 発見した瞬間はびっくり! もう1回見たのですが、やっぱりブーツを履いた人間の足と犬の顔です。おかしくて思わず笑ってしまいました。せっかくだから写真を撮ろうと近づいたら、なんとガレット屋さんのポップさんでした 。
 壁に座ったポップさんはベビーキャリアに乗せたお孫さんを背負っていて、その隣には愛犬が寄り添っていました。ライオンのようなたてがみを持つ大型犬・レオンベルガー種のオコくんです。


 「あら、ポップさんだったのね。こんばんは! ちょうど今、久しぶりに夫とお店に来ていて、料理ができるまで村を1周していたところなの」と喜んで声をかけ、「お孫さんが大きくなってかわいいですね。お散歩に行って休んでいるところですか?」と聞くと、「そうそう、少し散歩してきたところだよ。この子は鐘の音が好きなので、家に帰る前にいつも時間に合わせて鐘の音を聞きにくるんですよ」とポップさんが教会を見ながら答えてくれました。

 ちょうどそのとき、鐘が8回、ゆっくりと鳴りました。その音色に合わせて、喜びの声を上げげながら拍手をするお孫さんの姿を見て、自分の子どもが幼かったころのかわいらしさを私も思い出しました。「そろそろお店に戻りますね。転ばないように気を付けて。A bientot( それではまた)」とあいさつをしてお店に戻り、料理を食べながら夫にポップさんと出会ったことを話しました。

 鐘が鳴ってから30分ほど経って戻ってきたポップさんとお孫さんとオコくん。ポップさんは毎晩2時間、同じコースをお散歩し、お孫さんを寝かせる時間に合わせて帰ってくるそうです。ちなみにその間、妻のマリーさんと娘さん夫婦は仕事というわけです。

 「そろそろ坊やが眠くなってきたので、寝かせる準備をしなきゃ。それではまた」と私たちにあいさつをして、自宅に帰っていったポップさん。

 その姿に感動したのか、「子どもたちはまだ幼いけれど、俺もあんなおじいさんになりたいな」と夫が言い出しました。「自分の父親とは二人きりの時間をあまり過ごさなかったし、おじいさんになっても孫の面倒を見ないなんてもったいない。年を取っても健康でいて孫の面倒が見れるように頑張るよ」。そんな夫とシードルで乾杯をしました。(つづく)

★カロスへのアクセス方法
ニースから車で40分ぐらい。ニース市内からトラムとバス、または電車とバスでそれぞれ1時間半弱。

【マイ コートダジュール ツアーズ】http://www.mycotedazurtours.com/
【mycotedazurtours Instagram】https://www.instagram.com/mycotedazurtours
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【Stephanie Lemoine】
1979年フランス・ニース生まれのニース育ち。高校で第3外国語として日本語を選択、大学はパリにある国立東洋言語文化学院(Institut national des langues et civilisations orientales)で日本語と日本文学を専攻。大学時代の1年半、東京学芸大学に留学。ニースを拠点にした日本語ツアーや通訳、各種コーディネートなどを提供する「マイ コートダジュール ツアーズ」に、日本語ドライバーとして2008年から勤務し、10年に社長に就任。フランス政府公認ガイド。日本でのお気に入りの場所は宮島(広島県)と湘南(神奈川県)。大好きな鎌倉で老後を過ごすのが夢で、2人の息子たちには毎日欠かさず日本の話をしている。
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