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ルモアンヌ・ステファニー
第3回 お爺さんとソニアさんの香水【サン・ポール・ド・ヴァンス】

 南仏に小さな村がたくさんありますが、サン・ポール・ド・ヴァンスは芸術の村として世界中で知られていてます。皆さんは、この村が実は香水とのつながりがあることをご存じですか?

 ニースより西方面の内陸部には素敵な小さな村が点在していますが、サン・ポール・ド・ヴァンスは比較的大きな村で見るところがたくさんあります。山の上にあり、石畳の村なのでエズ村に似た雰囲気ですが、緑に囲まれていて海が遠くに見えます。坂も少なく、お店が多く、生活感がたっぷりあるのが特徴です。

 古代ローマ時代から丘の上に防衛施設が築かれ、お城と教会もでき、人がだんだん住むように。16世紀にフランソワ1世がこの地を訪れ、新しい城壁が建てられました。
 19世紀に画家たちによって見いだされ、豊かな光を好んだデュフィやスーティンが村でキャンバスを広げました。その後、1950年代はサン・ポール・ド・ヴァンスの黄金時代となります。カンヌの映画祭に訪れた映画スターや作家も滞在するようになり、画家のシャガールも一軒家を買って20年間も暮らしました。
 このように、アーティストたちの繋がりによりその魅力が世界中で知られ、やがて観光地となっていったのです。


 鷲の巣村であるエズ村と同様、サン・ポール・ド・ヴァンスも高台にありますが、鷲巣でなく細長い形をしています。村は城壁に囲まれ、中央にメインストリートが続き、奥には展望台があります。小さな玉砂利を使った石畳がとてもおしゃれですが、滑るので気をつけながら歩きましょう。

 画廊とアトリエが連なるメインストリートには、値段はあまり高くないけれどセンスのいい品をそろえるブティックも並んでいるので、私は訪れるたびに自分用の洋服やアクセサリーを買うのを楽しみにしています。ここで買ったバッグやブレスレットは、フランス人の友達にもほめられるんですよ。

 歩いていくと、途中に村のシンボルの噴水が見えてきます。その周りは昔マルシェが開かれていたところで、洗濯場は社交場でした。噴水を眺めながら道を上がって奥まで行くと教会に到着します。メインストリートに戻って奥まで進んで行くと、展望台が見えてくるところに3年前に見つけた素敵なお店があります。

 名前は「Maison Godet (メゾン・ゴデー)」。空き家を改装したおしゃれな香水屋さんです。このお店を初めて見つけたとき、子供時代から香水が大好きな私は好奇心にかられ、ドキドキしながらアールデコ風の店内に入りました。香水を手に取っていろいろな香りを試してみましたが、ボトルが宝石のように上品で、初めてのブレンドに感動しました。そこで、お店の奥にいるかわいい金髪のお姉さんに声をかけたら、なんと彼女がこの店のオーナーのソニアさんでした。


 実はサン・ポール・ド・ヴァンスは昔から農業が盛んで、野菜、ブドウ、カーネーションやバラなどが栽培されていました。特に5月のバラとオレンジの花が人気。香水の原料として、近くのグラースという町に送られていました。

 ソニアさんのお爺さんは1901年にメゾン・ゴデーを設立。地元の花を使ってめずらしい組み合わせを考え、時代の先端をいくユニークな香水を創り出していたそうです。画家のボナールやマチスが友人で、「香水の創作には芸術的創造力が必要である」というのが彼のモットー。奥さんにプロポーズしたときに指輪の代わりに、「Par Amour (愛ゆえに)」という香水を創作してプレゼントしたそうです。

 その後、化学香料が多く出回り、1960年にメゾンが倒産。ソニアさんの両親はサン・ポール・ド・ヴァンスで画廊を経営していましたが、香りが大好きだった彼女は調香学校を卒業してアメリカに渡り、カルティエの香水企画制作部に勤めるようになったそうです。ところが突然大好きなお爺さんが心臓発作で倒れ、急いで故郷に帰ったのですが、それがすべての始まり。実家の屋根裏部屋で、お爺さんのお店の古い写真や香水ボトルが詰められた小さなスーツケースを見つけたソニアさん。お爺さんと香水の話で盛り上がり、知識やインスピレーションを交換し合ったそうです。

 メゾン・ゴデーの閉店に心を痛めながら、寝ても覚めてもお爺さんのお店のことばかり考えていた彼女は、結局カルティエを退職してサン・ポール・ド・ヴァンスに帰ることを決意。それから1年間、お爺さんの香水を再現するために夢中で研究したそうです。地元の生産者を訪れて良質の材料を探し出すだけでなく、伝統に加えて自分ならではの特徴も入れたい……。前職の経験を生かして自分の香水を世界中で販売することは可能でしたが、地元産にこだわった彼女は、この地でお店を開くことを決めたそうです。

 2017年の夏にオープンしてから新作品も出したソニアさん。地元の柑橘を利用した「VOYAGE A SAINT PAUL (サンポールへの旅」」という香水はそのひとつです。お爺さんがプロデュースした「FOLIE BLEUE」 には、隣村のスミレの製油が今でも入っています。この話に感動した私。次に来たときには自分にぴったりの香水を買う約束をして、店を後にしました。

 帰り道、今度はメインストリートではなく、城壁を添ってジャスミンやブーゲンビリアを眺めて歩きながら、ソニアさんの素敵なことばを思い出しました。8月末に女の子が生まれる予定だと話してくれた彼女。メゾン・ゴデーの情熱はまだまだ続きそうです。(つづく)


★サン・ポール・ド・ヴァンスへのアクセス方法
ニース空港からバスで40分ぐらい。

【マイ コートダジュール ツアーズ】http://www.mycotedazurtours.com/
【mycotedazurtours Instagram】https://www.instagram.com/mycotedazurtours

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【Stephanie Lemoine】
1979年フランス・ニース生まれのニース育ち。高校で第3外国語として日本語を選択、大学はパリにある国立東洋言語文化学院(Institut national des langues et civilisations orientales)で日本語と日本文学を専攻。大学時代の1年半、東京学芸大学に留学。ニースを拠点にした日本語ツアーや通訳、各種コーディネートなどを提供する「マイ コートダジュール ツアーズ」に、日本語ドライバーとして2008年から勤務し、10年に社長に就任。フランス政府公認ガイド。日本でのお気に入りの場所は宮島(広島県)と湘南(神奈川県)。大好きな鎌倉で老後を過ごすのが夢で、2人の息子たちには毎日欠かさず日本の話をしている。
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