× close

お問い合せ

かもめの本棚に関するお問い合せは、下記メールアドレスで受けつけております。
kamome@tokaiedu.co.jp

かもめの本棚 online
トップページ かもめの本棚とは コンテンツ一覧 イベント・キャンペーン 新刊・既刊案内 お問い合せ
美しいくらし
ニースっ子の南仏観光案内 マイ コートダジュール ツアーズ社長
ルモアンヌ・ステファニー
第7回 初めてラブレターを書いてくれたフレッドとの再会【ニース】
 フランスといえば、いちばん有名な場所はもちろんパリですが、その次によく挙げられるのはニースでしょう。

 2番目に大きい都市は最近、リヨンからマルセイユに代わりましたが、ニースは 人口34万人の5番目です。ニースが属しているコート・ダ・ジュールは世界中でリゾート地として知られ、フランス人にとっても憧れのバカンス地です。

 パリから南方に1000キロ。地中海側に位置しているため年間300日間は晴天が続き、気候がとても温暖です。夏は湿気がほとんどなく、気温も30度をめったにこえることはありません。しかも寒中水泳ができるぐらい冬も暖かです。
 昔から、過ごしやすい冬にはこの地に世界中からお金持ちが集まってきました。ロシア人やイギリス人の貴族に加え、20世紀の初めにはマチスやシャガールと同じくたくさんのアーティストがニースに魅了されて、冬を過ごしたり、移住したりしました。

 紀元前5世紀ごろにギリシャ人によって建設されたニースは、古代には交易植民都市ニカイアとして知られましたが、その後はローマ人に占領され、多くの戦争に苦しめられました。中世にはプロヴァンス伯領に属して、近世はサヴォア公国に帰属し、結局1860年に再びフランスに割譲されました。このような複雑な歴史によって多面的なアイデンティティーがあるのが、この街の特徴ともいえるでしょう。

 旧市街、伝統的な料理、方言までがイタリアによく似ていて、イタリア系の住民が多いため、ニース人にとってイタリアは他国でなく隣の町のよう。
 南の街だからこそ時間がゆっくりと流れ、住民がフレンドリーで明るいのも特徴です。「イギリス人の散歩道」という有名な海岸線には、海をのんびりと眺められるように青い椅子が置いてあり、一年中座って海を眺めることができます。


 このように、優しい人、きれいな海、おいしい食べ物に囲まれているニースで私は生まれたのです。高校を卒業して、日本語の勉強のためにパリと東京に何年間か住みましたが、ニースが恋しくて戻ってしまいました。マチスが感動した理由と同じように冬の強い日差しが好きで、ずっとこの地に住み続けています。

 海岸線以外にも、城壁公園、シャガール美術館やマチス美術館、ロシア聖堂など、見どころがいっぱい。最近は路面電車でいろいろなところに行けるようになり、さらに便利になりました。港の近くに新しい町ができたり、ニースはどんどん変わっていっています。

 私は旧市街の雰囲気が特に好きで、サレヤ広場のマルシェをよくのぞきます。実は、観光客向けのお土産が多いために値段が高く、地元の人はほとんど買い物をしないマルシェです。私も1回だけ買い物をしてみましたが、値段にびっくりして二度と買わないことにしました。

 数年前、このマルシェのまん前にすてきなカフェがオープンしました。テラスもあって、店内の大きい木製のテーブルが魅力的。入ってみたいと思ってドアを開けたのですが、その瞬間、昔の知り合いの顔が見えたので足が止まってしまい、そのまま店から出てしまいました。

 私の目に入ったのは、14歳のときに初めてラブレターを書いてくれたフレッドという男性でした。彼と出会ったのは、私が小さいころからずっと夏休みを過ごしていた別荘がある、おじいさんが生まれた村。
 フレッドは私より2つ上で、料理の研修で2カ月ぐらいニースからその村に滞在していたのです。私は村に行くときにこのレストランの前をよく通っていて、共通の友達もいました。私のことを気に入ったらしいのですが、彼の片思い。夏休みの終わりに告白してくれましたが、私は恥ずかしくて「ありがとう。でも友達でいましょう」としか言えませんでした。

 すでに結婚をして二人の子どもがいる私ですが、そんな25年前の忘れていた話を、その日に突然思い出しました。


 後日、街を案内していたお客さんがその店で休憩したいと言ったので、仕方なく一緒に店内に入りました。座った瞬間、フレッドは私の顔を見て、一瞬止まってから笑顔になりました。
 「やぁ、ステファニー ! ものすごく久しぶりだね。元気そうでうれしいよ」と明るい声で話しかけてくれたのです。「お友達と来たの?」と聞かれ、「いえいえ、私はガイドをしていてお客さんを連れてきたのよ」と答えました。
 彼は納得した表情で、お店が混んでいたのにすぐにオーダーを取りに来てくれて、注文したコーヒーもすぐに運ばれてきました。そのうえ、お支払いのときに私の分をサービスしてくれ、「また来てね」と親切に言ってくれたのです。

 その後、フレッドも結婚して双子と4人の幸せな毎日を過ごしていることを知って、私もひと安心。それから気兼ねなくこの店を使えるようになりました。
 料理はやめましたが、カフェの経営者になって成功した彼。何かと待たされるカフェの多いフランスで、サービスが早いのは本当にうれしいですし、古い友人ということで安くしてくれたり、おまけのメレンゲをもらったりもします。このカフェが、私の10代のころと今をつなぐ特別な場所になりました。

 でも、この話は夫に内緒にしてくださいね ! (つづく)


【マイ コートダジュール ツアーズ】http://www.mycotedazurtours.com/
【mycotedazurtours Instagram】https://www.instagram.com/mycotedazurtours
ページの先頭へもどる
【Stephanie Lemoine】
1979年フランス・ニース生まれのニース育ち。高校で第3外国語として日本語を選択、大学はパリにある国立東洋言語文化学院(Institut national des langues et civilisations orientales)で日本語と日本文学を専攻。大学時代の1年半、東京学芸大学に留学。ニースを拠点にした日本語ツアーや通訳、各種コーディネートなどを提供する「マイ コートダジュール ツアーズ」に、日本語ドライバーとして2008年から勤務し、10年に社長に就任。フランス政府公認ガイド。日本でのお気に入りの場所は宮島(広島県)と湘南(神奈川県)。大好きな鎌倉で老後を過ごすのが夢で、2人の息子たちには毎日欠かさず日本の話をしている。
新刊案内