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子どものこれから
アンズのワンダーランド! 画家
蟹江 杏
最終回 どこでもキャンバス
 福島・相馬や東京・新宿の子どもたちと触れ合い、アートプロジェクトを続ける蟹江杏さん。版画を飛び出したアンズ・ワールドは、自動車や「ゴジラ」にまで広がろうとしている。最終回では、ほんのちょっとのぞかせていただきます。


――昨年の終わり、杏さんは自身のブログで「絵描き宣言」をした。「(前略)ついに、絵描きさんになるぞ~宣言をします。わたし、絵を描き始めました! (中略)新鮮で楽しいです」。さて、その心は?

 小さいころから周りに合わせることに違和感を感じたり、集団行動がとにかく苦手でした。こう話すと、初対面の人ともすぐ打ち解けるような今の私からは想像もできないと思われてしまうのですが、本当なんですよ(笑)。だから、ずっと版画を通じて周囲の人とコミュニケーションをとりながら、自分自身の中でバランスをとってきたように思います。ありがたいことに、今では1カ月に1度くらいの頻度で展覧会をやらせていただけるようになり、版画制作は締め切りに追われながら生活の糧となる“仕事”になりました。

 するとおかしなもので、版画のように工程を踏んだり技術を必要とする描き方ではなく、もっと自分を本能的に解放したい、直接キャンバスに絵の具で描いてみたい、と思うようになったんです。

――杏さんは、スピーディーに版画作品を仕上げる。とにかく早いのだ。小学校のときの図工の先生で画家として活躍している金子光雄さんは、杏さんが個展会場でプレス機を持ち込んで版画を制作してみせる様子を見て、「その速さと自然さには驚かされます。(中略)あの速さは神速」と書いている。

アクリル絵の具で描いた『青い花の巣』
 そうですね、ひとつの版画が完成するまで1時間くらいかなあ。やっているとどんどんうまくなるし、それもうれしいのだけれど、後になって見ると何かつまらない作品だと感じることがある。そうすると、私は自分の作品に刺しゅうをするんですよ。毛糸でものの輪郭を塗ったり、スパンコールやボタンのようなものを縫い付けてみたり……。刺しゅうは得意じゃないから、なかなか進みません。でも、そうすることでひとつの作品にじっくり向き合える。すると、版画家としての私自身がリセットされたようになり、また新たな気持ちで版画に取り組むことができるんです。

 版画という手法に出合う前も画用紙やキャンバスに直に絵を描いていましたが、そのころは感情が先走り、感覚や感性に任せて描いていた。その点、版画はインクをどのくらいの量にしたらよいのか、今日の湿度ならインクの硬さはどの程度にするのかなど、頭で考えなければならないことが多い。版画は、自分自身と描きたい絵の間にワンクッションあるような感じで、私にはとても合っていると思います。

 それでも、今までは感覚で「これはよくない」「これはいい」とやってきたように思う。今はそのような創作スタイルを変える過渡期だと感じています。衝動的に動いたり安易に流されるのではなく、もっと計画的に考えて創作活動に取り組むことも必要だと思うのです。

――自分が描く世界との向き合い方の試行錯誤を続けている杏さんにとって、キャンバスに絵の具で描くこともまた、新たな版画との向き合い方を発見する行程なのだろう。版画と、版画とは別の活動を行ったり来たり。そうやって、アンズ・ワールドは紡がれていく。創作とアート・プロデュース――どちらとも杏さんにとって欠かせない活動の両輪だ。今年は、杏さんのいろいろな顔がギュッと凝縮したようなプロジェクトから始まった。

最先端の電気自動車に出現したアンズ・ワールド
 ドイツ車BMWの正規ディーラーであるセントラル自動車技研さんとのコラボレーション企画で、車体全体に私の絵をペイントする「The Art Car Forest Story」プロジェクトに参加しました。ペイントを施したのは「BMWi3」という電気自動車。ガソリンを使わず排気ガスが出ない、騒音もない、未来志向の車です。“子どもたちに電気自動車を通して環境の大切さを伝えたい”という同社の考えに共感し、一緒に何かできないかと昨年から取り組んできました。さまざまな木々や動物が一緒に暮らす森の中を、小鳥が女の子に案内するという物語を車全体に描きました。最後に直筆でサインをしたのですが、ものすごい高級車なので緊張しました!

――最先端のテクノロジーを満載した車のボディいっぱいに、杏さんのやわらかく印象的な色づかいの絵が広がっている。こんな車で林道を走ったら、自然と一体になれそうだ。間もなく新宿でも新しいプロジェクトが始まる。今度は、あのゴジラとの競演だ。

 映画会社の東宝がゴジラ生誕60周年を記念して、新宿・歌舞伎町の旧コマ劇場跡に建設中の新宿東宝ビルの8階、ゴジラの身長と同じ50mの高さに、12mの「ゴジラヘッド」を制作するプロジェクトが始まっています。これを機会に新宿区でもゴジラに絡めたアートプロジェクトを開催することになり、そのディレクションを担当することになりました。

「新宿クリエイターズ・フェスタ2014」でアーティストの作品をプリントしたトランスボックス
昨年の「新宿クリエイターズフェスタ2014」では、歌舞伎町界隈の路上にあるトランスボックスに、さまざまなアーティストが描いた絵をプリントしました。そうしたら落書きが激減したんですよ! 今回もトランスボックスへのプリントをはじめ、多くのアーティストたちと相談しながら、訪れる人を驚かせ、楽しんでもらえるような仕掛けを考えています。あの混沌とした歌舞伎町の中でどのようにアートの力を発揮できるのか、ワクワクしながらやっています。

プロジェクトでは、歌舞伎町エリアにWi-Fiスポットなども整備して、外国人観光客にゴジラやアーティストの作品を見たときの驚きや感動を写真とともに全世界に発信してもらうことも計画しています。

――アートの力で街を変えることも、世界への発信も、杏さんが話すと自然体で難なく実現しそうに思える。それはきっと、杏さん自身が毎日、真剣に版画と向き合っていることとつながっているのだと思う。最後に、これから何をやりたいの? と聞いてみると……。

2012年6月、福島・相馬市に設立した子ども文庫「にじ」
 うーん……、皆には「はあっ?」っと言われるのですが、夢があるんです。まだ整理できてはいないけれど、アーティストと恵まれない子どもたちが一緒に住む家を作りたい。アーティストはそこで作品を生み出し、子どもたちの面倒を見る。そのかわりに家賃などは払わなくていいんです。私が彼らの展覧会のプロデュースをして、アーティストが育ち、そこで子どもたちも一緒に育っていく……。そんな施設のようものを作りたいですね。

 私自身、福島・相馬や新宿・歌舞伎町の子どもたちと一緒に絵を描き、ものすごく刺激を受けたし勉強になりました。子どもたちにとっても、「ものが生まれる場所」にいるということは貴重な経験になると思います。そういうことができるのが、アートの持つ力ではないでしょうか。

――原色を基調に生命感あふれる人物や鳥などを描いたスペインの画家ジョアン・ミロは、その創作の秘訣にふれ、「大事なことはいつも魂を自由にしておくこと」と話したという。杏さんの描く人物や鳥を見ていると、きっと彼女の心も子どものように自由なのだろうと思います。こんな人がいるから、明日もきっと楽しい――。これからどんどん広がっていくアンズ・ワールドが楽しみです。

(写真・高尾 斉、構成・白田敦子)

【プレゼントのお知らせ】

 蟹江杏さんが描く『不思議の国のアリス』をイメージしたギフトボックス「アリスのティーパーティー」を抽選で1名の方にプレゼントします。杏さんの楽しい絵が描かれた箱の中は、ヒマラヤの大自然の中で育まれた最高級のオーガニック手摘み紅茶のテトラバッグとおいしいクッキー。ぜひ、杏さんが描くアリスのファンタジーワールドに包まれたティータイムをお過ごしください。
 ご希望の方は、住所、氏名、年齢、電話番号をご記入の上、3月27日(金)までに下記アドレス宛てメールでお申し込みください。(※プレゼントは終了しました)

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【かにえ・あんず】
画家。東京都生まれ。「NPO法人3.11こども文庫」理事長。「自由の森学園高等学校」卒業。ロンドンにて版画を学ぶ。2021年11月「Penクリエイターアワード2021審査員特別賞」受賞。美術館や画廊、全国の有名百貨店、その他国内外の展覧会への出展や絵本・壁画制作・講演など活動は多岐にわたる、文部科学省復興教育支援事業ではコーディネーターとして参画。東京の新宿区・練馬区・日野市などの都市型アートイベントにおいて、こどもアートプログラムのプロデュースも手がける。そのほか、絵本専門の文庫(福島・相馬、千葉・東金)の運営やアートワークショップなど世界の子どもたちをアートでつなげる活動をしている。
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