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子どものこれから
アンズのワンダーランド! 画家
蟹江 杏
第3回 模造紙から始まる予感
 版画家として活躍する一方、東日本大震災で被災した子どもたちを支援するNPOの理事長や、東京・新宿でのアートイベントのプロデューサーなど、多彩な活動を繰り広げている蟹江杏さん。「思い」をどんどん形にしていく“アートの持つ力” は、どのように育まれたのでしょう。

――杏さんの初めての作品集『あんずリズム』の冒頭には、「私は、すくすくと育ってしまった」と子どものころを振り返る言葉がある。

 実家は、東京・多摩で生花卸売市場をやっています。花というより、切り花が詰まったたくさんの段ボール箱に囲まれて育ちました。一人っ子で、甘やかされて……母からはときどき叱られましたが、父からはほとんど怒られた記憶がないんです。父は、子ども部屋の四方の壁いっぱいに真っ白な模造紙を張ってくれて、私はそこにクレヨンで自由に絵を描く。紙が絵でいっぱいになってしまうと、いつの間にかまた父が真っ白な紙に張り替えてくれました。

絵を描くほかも、三輪車を逆さまにして小石を入れて石焼き芋屋さんのまねをしたり……ほとんどひとり遊びです。家の近くには卸売市場の社員寮もあって、とにかくいろいろな大人が出入りしていました。あるときバービー人形をプレゼントしてもらって、私はそれを丸刈りにしちゃった(笑)。

――そんな杏さんに、不思議な出会いが訪れる。家の近くの多摩川沿いの、屋根の上に大きな靴下の形をした鉄の彫刻を乗せたレンガ造りの家。その不思議な雰囲気と「美術教室」という看板に引かれるように、杏さんはひとりで訪ねていった。

花は今では杏さんの作品に欠かせないモチーフ
 見たこともない家。小学校4年生だった私は、その不思議な雰囲気にものすごく引かれました。訪ねたら、出てきたのはこれまた不思議なおじさん。聞くと、今は絵画教室はやっていないというんです。「習いたいの?」と聞かれて、「習いたいです!」と答えたら、「明日、絵を持っておいで」ということに。

 母に話して、母の友人のお子さんと一緒に通うことになりました。その先生は、東京芸術大学の彫刻科の出身で、今にして思うと世捨て人のよう。トラックの運転手をしながら彫刻を作っていました。とても変わっている人で、約束していてもいなかったり、突然怒り出したり、ひどく酔っぱらっていたり。遊びに行ったら、庭で子ヤギの丸焼きを作っていたこともありました(笑)。

 子どもながらに「芸術家というのはかなり変わっている人なんだ」と学んだような気がしました。
絵を描きながら生きていくと、こんなふうになるのかもしれない――幼いながらも“芸術家”という存在に対して「すごくすてきだな」という憧れと、「本当にどうしようもない」という思いを同時に抱いたのだと思います。数年前に孤独死のようにして亡くなられてしまったと聞いて、「絵を描き続けるというのは、そうなることなのかもしれない」という芸術の厳しさのような実感は、ずっと私の心の底にあるように思います。

――小学生の杏さんにとって、それは“芸術”や“芸術家”というものが初めて強烈に印象付けられた出合いだったのに違いない。教室を訪ねるたびに書棚にあるさまざまな画家の画集を眺めたり、ときには先生がつけていた挿絵入りの日記を見せてもらったり、そのようなことのすべてが「こうして思い出してみると、私に影響を与えていると感じる」と杏さんは振り返る。

「新宿クリエイターズ・フェスタ2014」で開かれた「ANZのアリス展」では壁にもティーパーティーの絵を描いた
教室には中学生のころまで通っていたでしょうか。教室でも家でも自由奔放に絵を描くことを楽しんでいたのに、高校生になったら急に周りの社会が厳しくなったように感じたんです。勉強も友だち付き合いもすべて窮屈に感じてしまった。現実が嫌いで浮世離れするようなくせがついて、自分の現実は自分が描く絵の中にあると思うようになりました。

 相変わらず落書きみたいな絵ばかり描いていましたが、本格的に絵を学びたいと思うようになり、デッサンなどをやり始めたころ、私の絵を好きだという人がいて欲しいと言ってくれた。それがうれしくて、ためらうことなくプレゼントしました。自分が認められたようで、ものすごくワクワクしたんです。そんな人がもっと増えたら、きっと私の人生は楽しい。私の中に存在している私の現実を、そういう人たちと共有したい。その思いをずっと大事に抱えて、今も描き続けているような気がします。

――真っ白な模造紙に描いた「落書き」に囲まれて過ごした子ども時代。杏さんはこれからも周囲に新しい世界をどんどん描いていくに違いない。最終回となる次回は、ほんの少し先の“アンズ・ワールド”についてうかがいます。

(写真・高尾 斉、構成・白田敦子)

【プレゼントのお知らせ】

 蟹江杏さんが描く『不思議の国のアリス』をイメージしたギフトボックス「アリスのティーパーティー」を抽選で1名の方にプレゼントします。杏さんの楽しい絵が描かれた箱の中は、ヒマラヤの大自然の中で育まれた最高級のオーガニック手摘み紅茶のテトラバッグとおいしいクッキー。ぜひ、杏さんが描くアリスのファンタジーワールドに包まれたティータイムをお過ごしください。
 ご希望の方は、住所、氏名、年齢、電話番号をご記入の上、3月27日(金)までに下記アドレス宛てメールでお申し込みください。(※プレゼントは終了しました)

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【かにえ・あんず】
画家。東京都生まれ。「NPO法人3.11こども文庫」理事長。「自由の森学園高等学校」卒業。ロンドンにて版画を学ぶ。2021年11月「Penクリエイターアワード2021審査員特別賞」受賞。美術館や画廊、全国の有名百貨店、その他国内外の展覧会への出展や絵本・壁画制作・講演など活動は多岐にわたる、文部科学省復興教育支援事業ではコーディネーターとして参画。東京の新宿区・練馬区・日野市などの都市型アートイベントにおいて、こどもアートプログラムのプロデュースも手がける。そのほか、絵本専門の文庫(福島・相馬、千葉・東金)の運営やアートワークショップなど世界の子どもたちをアートでつなげる活動をしている。
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