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美しいくらし
移住女子「ここで生きると決めました!」 移住女子
坂下可奈子
第3回 変化を楽しみ、次につなげる


 新潟県十日町市の池谷集落に移住して4年。坂下可奈子さんは、フリーペーパーの発行や「農ガール」向けの野良着開発など、次々と「移住女子発」の情報発信を続けています。移住女子として山里で農業に従事することから見えてきたことは?

――農業というと力仕事で大きな機械を扱うなど、どうしても男性中心の世界と思われがち。女子として農業にかかわるのは、かなり大変そうに思えるけれど……?

 おいしいものを作るのは当たり前だし、村の人と同じくらいの質のお米を作ることは大前提。そのうえで、これからは食べる人との距離がもっと近くなって、農業が楽しくなるようなこともやりたいですね。
 私が作っている米は、池谷集落でずっと作られてきた在来品種のコシヒカリ。倒れやすいし病気になりやすいなど手間がかかりますが、本当においしいんです。除草剤を使うと草の根が張らず、棚田の法面が崩れやすくなるので草刈りも手作業。大変ですが、この味を守るために集落の人たちは苦労もいとわず作り続けてきた。そうやって受け継がれてきたものを、次世代につなげたいと思います。

田植えを終えたばかりの棚田(6月上旬)
 今、国や行政は大規模で強い農業にシフトしているように感じます。この流れはますます強くなるでしょう。でも、池谷のような中山間地は大型農機具も入らないし、大規模農業はふさわしくない。その折り合いをつけるのは、すごく難しいと思います。私は、効率が悪い条件の中でもどれだけ丁寧に管理ができるか、収穫量をどんどん増やして収入を上げるのではなく、少ない中でどれだけ豊かになるかを考えながら農業を続けていきたい。

 大規模で効率的にできないからこそ、中山間地は専業や兼業、自家栽培など、多様な距離感で農業とかかわる人たちの力で守られているのです。だから、小さくても土にかかわる人が増えてほしいとも思います。それは、あえていうなら女性だからこそできる農業なのではないでしょうか。

 私のスタンスは、感性のある小さくても豊かな農業によって、地域を1000年先までつなげること。おいしいものを作るのは当たり前です。でも、単純に「食べる」人口は減っていくのです。私は、「もののあり方」が社会を変えると思っているので、農家として「食のあり方」から「大きくても小さくても、農業とかかわる生き方」の提案までできればと思っています。

 女性の場合は特に結婚や出産、子育てや介護などライフイベントの影響を受けやすい。そのように変化する女性の人生を通して、周囲とも助け合いながら自分の仕事をかけ合わせられたらいいですね。今は、それが『ChuClu 』だったり「NORAGIプロジェクト」のようなものだと思っています。


――確かに女性は出産や育児など、人生の中でさまざまな変化を経験する。坂下さんはそういう女性の人生を「伸び縮みする」と表現する。それはまた、女性のしなやかさを表しているようにも感じる。

 実は、秋に結婚するんです。地域のいろいろな行事や催しに参加すると、皆、家族でやって来る。それを見て、地域は家族で成り立っているんだと感じていました。ここに移住してからは「地域のために」と頑張ってきましたが、今まではちょっと寂しかったかな。これからは頑張る土台ができます。相手は十日町在住の設計士さん。彼は農業と無縁に暮らしてきましたが、今年は田植えもイモ植えも手伝ってくれました。申し訳ないくらい(笑)。池谷集落には空き家がないので、どこに住むかは相談中です。雪国なので新築するにはすごくお金がかかるんですよ。平屋では雪で出入りができなくなるから絶対に2階建てで、しかも頑丈に建てないといけない。10年くらいかけて自分たちでコツコツ造ろうか、なんて話しているところです。

 一方で、結婚が決まった途端に周囲の目が変わってきたのも感じています。農地契約は10年なのですが、その間に出産も育児もあるだろうし、そうなったら田んぼは誰が面倒をみるのか。今、一生懸命農業をやっても絶対にできなくなるから、そんなに頑張らなくてもよいのでは、という人もいます。この地域では、嫁として専業主婦か、あるいは男性の補助として働く方が多いので、女性がずっと仕事を持つという考えがなじんでいないのかもしれません。

 そのような課題も含めて、池谷のような中山間地こそ女性の力が生かせる場となる可能性が多いような気がしています。私は、出産や育児など人生の変化によって自宅でできる仕事を増やしたり、時間にとらわれずに仕事をしたり、それでも農業にずっとかかわり続けられる環境を作りたいと思っています。それには、地域の人たちとの交流を大切にしながら、仕事を自ら作り出していくたくましさも必要になるでしょう。移住して驚いたのは、十日町には個人事業主が多いこと。雪深い中山間地は、もともと「雇われる」という働き方ではなくて、「起業して働く」というスタイルが合っているのかもしれません。

――坂下さんたちの移住によって、池谷集落はかつての限界集落を脱し、今や「奇跡の集落」と呼ばれている。次回はいよいよ最終回。山里の暮らしの魅力や、坂下さんの「これから」について伺います。

(構成・白田敦子/写真・編集部)
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【さかした・かなこ】
1987年香川県生まれ。立教大学在学中に新潟県十日町市での農業体験に参加したことがきっかけとなり、2011年池谷集落に移住。移住女子発信フリーペーパー『ChuClu(ちゅくる)』編集長を務め、農業と地域づくりに取り組んでいる。
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