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美しいくらし
東京ぶらり老舗散歩 江戸文化研究家
安原眞琴
第1回 江戸の鬼門を守る寛永寺の節分?
古式ゆかしい五條天神社の豆まき

穴稲荷の狐の人形たち
 最近、京都の伏見稲荷大社が、外国人観光客にたいへん人気を呼んでいるそうです。お目当ては、幻想的で美しい鳥居のトンネルです。
 それとは比較にならないほど小規模ですが、上野公園にも鳥居のトンネルがあるのですが、ご存知ですか? 見逃しやすいので、注意して探してみてください。
 その鳥居をくぐった先に、第二の節分スポットがあるのですが、その前に、同じ敷地にある、別のお稲荷さんに行ってみましょう。
 それは〈花園稲荷神社〉と〈穴稲荷〉です。寛永寺創建時からある古い社なのですが、これまた見過ごされがちな、分かりにくいところにあります。
 特に穴稲荷は、崖に掘られた洞穴の中にあるので、知らないと分からないかもしれません。また、穴稲荷は、暗い洞穴の中の、そのまた小さな穴の中に祀られているので、よく見えないかもしれません。そんな時は、穴の前に、今戸(いまど)焼きのかわいらしい狐の人形があるので、それを目印にして拝みましょう。
 穴稲荷は、寛永寺の建立によって棲み家を奪われた狐たちのために創られたもので、隣接する花園稲荷神社も、もとはこの場所にあったそうです。

 この二つのお稲荷さんが祀られている崖から一段低いところに、広々とした空間があります。ここが第二の節分スポット〈五條天神社〉です。
 五條天神社は、明治時代にこの地に移ってきたので、寛永寺とは直接関係はありません。そのため、豆まきのセリフも違います。
 寛永寺では「福は内」しか言いませんが、五條天神社では、その「福は内」さえ言わないそうです。当たり前のことなので言わないのだそうです。
 またここでは〈節分〉も、〈追儺〉(ついな)という別の呼び方をしています。追儺の方がずっと古く、平安時代に、悪鬼を払い疫病を除くために行われていた宮中行事のことで、節分の元祖とされています。
 そのため、五條天神社では、古式ゆかしい本格的な節分を体験することができます。節分になると、社殿前の広い空間で、大掛かりなたき火が行われ、そこになんと、なまはげのような恐ろしい鬼が現れるのです。

護国院の豆まきは〈江戸づくし〉
 寛永寺の敷地は、上野公園だけではありませんでした。なにしろ比叡山を模したお寺だったので、たいへん広大だったのです。東京都美術館も、その先にある東京芸術大学も寛永寺の寺領でした。
 その大学の正門を過ぎ、突き当たりの道を左折して、ちょっと進んでみてください。すると「護国院」(ごこくいん)というお寺が現れます。ここが第三の豆まきスポットです。実は東京芸術大学の一部も、護国院の境内だったのです。

護国院の能舞台
 このお寺は、寛永寺の「子院」(しいん)の一つです。子院とは、寛永寺を〈親〉とすれば、親を支えていた〈子ども〉にあたるお寺のことです。
 前回ご紹介した古地図を見ますと、根本中堂の周辺に、大小さまざまな〈○○院〉と書かれたお寺がありますが、それらが子院です。江戸時代には36の子院がありましたが、現在では19に減り、規模も小さくなりました。
 また、第二次世界大戦で大半の子院が焼失しましたが、護国院は焼け残りました。そのため境内には、昔ながらの立派な本堂や能舞台などが残っていて、足を踏み入れるだけで江戸を感じることができます。

 でも、それだけではありません。節分の時に行くと、まさに江戸時代にタイムスリップした気分が味わえてしまうのです。
 年男と年女が本堂でお経をあげてもらってから、外に出てきて豆をまくのですが、その豆をゲットするには、境内でしばらく待たなければなりません。その間、さぞかし退屈だろうと思われるかもしれませんが、心配ご無用です。なぜなら、能舞台で、〈太神楽〉(だいかぐら)という江戸時代から続く大道芸の人たちが、曲芸を披露してくれるからです。
 江戸の娯楽を楽しんだ後に、豆まきができる。護国院はそんな〈江戸づくし〉のスポットです。(つづく)

【makoto office 安原眞琴公式サイト】
http://www.makotooffice.net/


【イラストと地図:鈴木 透(すずき・とおる)】
1965年福島県生まれ。「釣りキチ三平」などを制作する矢口プロダクションを経てフリー。

※WEB連載原稿に加筆してまとめた単行本『東京おいしい老舗散歩』が2017年12月に発売されます(発行:東海教育研究所、発売:東海大学出版部)。


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【やすはら・まこと】
1967年東京都生まれ。文学博士。専門は日本の中世・近世の文学、美術、文化、女性史。吉原文化の最後の継承者を5年間取材したドキュメンタリー映画「最後の吉原芸者 四代目みな子姐さん―吉原最後の証言記録―」を2013年に発表。立教大学・法政大学・大正大学・東武カルチュアスクールなどで講師を務め、天台宗総合研究センター、日本時代劇研究所などの研究員でもある。NHKカルチャーラジオ「歴史再発見 芸者が支えた江戸の芸」を2016年に担当。著書に『「扇の草子」の研究――遊びの芸文』(ぺりかん社)、『超初心者のための落語入門』(主婦と生活社)、『東京の老舗を食べる』(亜紀書房)などがある。
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