東京産の木を東京で製材・加工する「敷くだけフローリング」を販売し、東京の山と森と林業の活性化を目指す活動を続けている安田知代さん。編集者兼ライターとしての顔も持ち、今年の8月に自身の会社の社名を「合同会社いとへん」に変更しました。
最終回となる今回は、その名前に込められた思いや、森の再生にかかわることで見えてきた“これからの働き方”などについてうかがいます。――「いとへんは、編集の『編』を、偏(へん)と旁(つくり)に分けて読んだ音。『意図を編集する』という意味もかけています。編集を上位概念とする会社として、再出発する意志を社名に表しました」とは、ホームページの紹介文。さて、その心は?
「いとへん」の共同代表を務める私と小田原澪は、ずっと編集業を生業にしてきました。木を売ることと編集と、これまでどちらも同じ視点でやっているつもりなのに、いろいろな人から「なぜ、そんなに全然違うことやるの?」と聞かれました。それなら、編集を上位概念に置いた会社にしようと、小田原と二人で再確認したのです。“ものを売る”ときにも、編集者のスキルをフル活用して、その材をお届けできるまでの過程や、商品の背景まできちんと編集してお伝えすることを大切にしているからです。
「いとへん」の前身である「合同会社++(たすたす)」を設立してから3年間、編集の仕事と「SMALL WOOD TOKYO」として木を売る仕事の2本立てでやってきました。それを、今年の夏に「合同会社いとへん」と社名を変え、JR三鷹駅に近くて広いこの場所に引っ越しました。3本目の柱として「シェアビズみたか3337」を始めるためです。
シェアビズとは、協力関係を持つ人たちがスペースとビジネスを共有する、いわば新しいコミュニティの形です。ここを会場に、ドリームキャッチャーづくりのワークショップや、編集や広報の勉強会を開いています。すでに渋谷などでシェアビズを運営している人たちと、「シェアビズつながる週間」という形での往来も始めました。
「百聞は一見に如かず」。ここはショールームでもありますから、多くの方に来ていただくことで、「敷くだけフローリング」を知る人も増えます。また、見学にいらした方から「編集もやるならWEBも制作して」と依頼がきたり、制作の仕事をした地域の会社がフローリングを事務所に入れてくださったり。ひとつの仕事が別の仕事に発展したり、お客さま同士で新しいビジネスが始まったり。いい意味で複雑な関係性が築かれてきて、一筋縄ではいかないですね(笑)
――「合同会社いとへん」が大切にしている、言葉を練る「練」、森と人の関係を繕う「繕」、それに人と場を結ぶ「結」と、3つの糸偏がそろった。「“3足のわらじ”ですね」と言うと、「いやあ、今はもう5、6足みたいな感じで」と大らかに笑う安田さん。さまざまな出会いが面白い変化をもたらし始めている。
単にものを売るのではなく、ここでイベントをやって裸足でフローリングを歩いてもらって、無垢の木に触れてもらう。そして、私たちがどのように考え、どのような会社をやっているのかを知ってもらう。新しい事務所では、これまで以上にいろいろなことに挑戦していきたいですね。
ここでのイベントを企画する方たちや、そこに集まってくる方たちには、不思議と共通点があるんです。無垢材のような自然のものが好きで、日々の暮らしを大切にしたいと考えている。形式にこだわらず朗らかな人間関係を求めているし、何よりも好奇心があって積極的。面白いことに、さらにその人たちの交友関係やお客さまも、近い感覚の持ち主です。“類は友を呼ぶ”って、本当なんだなあと思います(笑)。もっと濃密に分厚く“類は友を呼ぶ”をつなげていくことができれば、気持ちのよい好循環がつくり出せると思っています。
――「合同会社いとへん」のロゴは、「糸」の周りに曲尺(かねじゃく)を配したもの。「敷くだけフローリング」の施工などで安田さんたちにとって親しみのある道具である曲尺には、「商売を堅実に」という意味もあるそうだ。糸で紡がれた一つひとつの仕事や人との出会いをつなげ、そこから生まれるものを堅実に届けていく……。安田さんたちの仕事は、懐かしい木の香りや温もりとともに、これからの新しい仕事のあり方を見せてくれる。
【SMALL WOOD TOKYOのホームページアドレス】
http://www.smallwood.tokyo/(構成・白田敦子)