まだ食べられるのに廃棄される食品ロスが社会問題として取り沙汰される中、新たな“ロス(無駄)”が浮上! それは、身だしなみやおしゃれに欠かせない化粧品、コスメが大量に廃棄されてしまっているコスメロスの問題です。せっかく購入したのに使いきれずに持て余しているコスメたち。その処分や使い道をどうしたらよいのでしょうか? 「コスメロス」の名付け親で、この問題に取り組んでいるヘアメイクアップアーティストのイガリシノブさんにインタビュー。まだ使えるのに捨てられてしまうコスメロスの現状や活動について聞きました。コスメを届けたい子どもたちの存在
イガリシノブさん
コスメロスを意識するようになったのは2年ほど前。あるギャップを感じたことがきっかけでした。もともと女性に関する社会問題などに興味があり、私にできるメイクで役に立てることはないかと考えていたとき、おしゃれを楽しむ余裕もない子どもたちがいることを知りました。児童養護施設や母子生活支援施設などに身を寄せる彼らは、自分のためにわずかなお金も使えず、欲しくてもコスメが買えないというのです。ところが私は自分のコスメブランドを持っていて、新商品が出るたびに、いろいろな人に宣伝用のコスメを配っています。フォロワーを多く持つ人気のインフルエンサーに新商品を試しに使ってもらって、その写真をSNSにアップしてもらえたら、宣伝用に配ったコスメの役割はおしまい。商品を広く知ってもらうために必要なことのですが、「どうぜ 捨てられてしまうのなら、あの子たちにあげたいなあ」といった気持ちになることもしばしばでした。
欲しいけれどコスメが手に入らない人たちがいる一方で、大量に作られて破棄される現実もある。二つの間には大きな隔たりがあると感じていました。そして、そのどちらも知っている私だからこそできることがあるのではないか、と思って約1年前から始めたのがコスメロスの活動です。
最初は、施設の子どもたちに余ったり使わなかったりしたコスメをピルケースに分けて持参し、メイクレッスンをしてあげるといったことからでしたが、私個人の活動だとやはり限界があります。そこで、2022年に「コスメロス協会」の団体を立ち上げました。これによって企業からの協賛も受けやすくなり、コスメロスを認知してもらうための大きなイベントも企画できるようになりました。
人を前向きにさせるメイクの力
集められた廃棄コスメ(写真提供:コスメロス協会)
ある会社の調査によると、生産過程などで出るコスメの廃棄量は、国内の化粧品メーカー上位5社だけで年間約2万トンもあるそうです。同じ会社が5000人を対象に行った調査によれば、コスメを使いきれずに捨ててしまう消費者は86.3%にもなるそう。メーカーと消費者とで膨大なコスメが捨てられていることになります。メーカー側もこうした事態に目を背けているわけではありません。使いきれる量を考えて商品のサイズを小さくしたり、空き容器をリサイクルできる仕組みをつくったりと、ゴミを減らすさまざまな取り組みが行われています。
某テレビ局のドキュメンタリー番組に出演したとき、ずっと家に引きこもっているけれど、コスメのイベントなら外出できるという女の子と出会いました。イベント当日、彼女が本当に来てくれるかどうか不安だったのですが、会場に姿が現れたときはうれしかった。そしてメイクをしてあげたら、彼女の表情が変わって元気になってくれて……。そのとき「コスメってすごい! こんなにも人の心を助ける力があるんだ」と実感しました。
私はメイクでより人をきれいに見せるプロのメイクアップアーティストです。その立場で人と接していると、メイクをすることが衣食住に並ぶぐらい生きていく上で大切な存在になっていたり、メイクをすることで頑張れる力が湧いたりする場面にいくつも遭遇します。私はメーカーが掲げるような大規模な取り組みはできませんが、消費者一人ひとりの顔を見ながらコスメの面白さや大切さを伝えて、コスメロスの削減につなげていくことならできます。人を元気にさせる力のあるコスメを、役割が終わったから捨ててしまうのではなく、再び価値を与えて新たなストーリーを紡きたい。コスメを使う人たちの心に響くアプローチをしてきたいと思っています。(つづく)
――コスメロスという問題を「廃棄を減らす」という側面だけでなく、捨てられるコスメに新しい価値観を与えていきたいと語るイガリさん。次回は、コスメを再利用するアップサイクルへの取り組みについて紹介します。(構成:小田中雅子、撮影:前田光代)
☆コスメロス協会のInstagram
https://www.instagram.com/stop_cosmeticsloss/☆イガリシノブさんのInstagram・YouTube
https://www.instagram.com/igari_shinobu/https://x.gd/UCZRK