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かもめアカデミー
「コルドバ歳時記」が伝える知恵 作家・東海大学名誉教授
太田尚樹
第3回 過去の知恵の深さを知る
 「ものを持たずに豊かに生きる」精神のルーツにあるという1000年前の暦の書「コルドバ歳時記」。それはどのようなものなのでしょうか。
※本文の最後にプレゼントのお知らせがあります。


ラ・マンチャのヒツジ
 さて、ここから「コルドバ歳時記」とは何かという話になります。「コルドバ歳時記」は、今から1000年ちょっと前、西暦961年にアラビア語によって書かれた暦です。
 コルドバは、アンダルシア地方の古い都ですが、私の若い頃は、マドリッドから夜行列車に乗って翌朝着くという距離感覚でした。今はアベ(AVE)という新幹線ができているので、2時間ほどで行けてしまいます。
 日本では、高級な馬革のことをコードバンと言いますが、コードバンとは元々「コルドバの」という意味で、本来はヤギ革のことです。中でも子どものヤギの革が最高級とされたのですが、そのコルドバの地で編まれたのがこの歳時記です。

 コルドバ歳時記が編纂された当時、コルドバは、オリエント世界がヨーロッパに進出して築いた、イスラム王国である後ウマイヤ朝の栄華を誇った都でした。カリフ(国家の指導者・最高権力者)のアブドル・ラフマーン3世が世を去り、息子のアル・ハーカム2世がカリフの位に就いた年です。
 オリエント世界の東のイスラム王国の都は、バグダッドだったり、ダマスカスだったりと時代によっていろいろ変わるのですが、西側の拠点は、トレドとともに、このコルドバが中心でした。

「風配図」 セビーリャのイシドルス『自然論』
  ラン市立博物館 9世紀
 スペインにやって来たオリエント世界の人びとですが、元をたどれば彼らは遊牧民です。砂漠から来た民ですね。私も砂漠の調査に5回ほど行ったことがありますが、彼らはきわめて自然の観察力が優れた人たちです。身の回りに何一つない世界にいると、人間の眼や思考が研ぎ澄まされていくようです。
 現代の日本社会をみますと、朝、家を出て、学校や職場に着くまでに、「ああこんなものを見た、あんなものに出会った」という、日々の細かい変化に気づく人はあまりいないでしょう。

 砂漠の遊牧民たちは、日々のちょっとした身の回りの違いに気がつくだけでなく、その変化から天候を察知することができます。そして、夜には星の変化をつぶさに観察しています。
 彼らにとって星の運行を見ることは、とても大切なことで、コルドバ歳時記でも、「ナウ」という1年間の星の運行の規則に従って、暦が記述されています。

 「ナウ」について説明をしますと、1年間の星空の変化の中で、ある星が西の空に沈むと、ほぼ同時刻に反対側の東の空から別の星が上ってくる星が合計28個(宿)あり、その14組のペアが「ナウ」と呼ばれるものです。
 夜空は1年周期で動いていきますから、ある「ナウ」の星が見える時期には、どんな風が吹いて、果物や作物はどういう状態にあり、乾期や雨期の開始といった自然現象を伴っていることに気がつくわけです。そして、それぞれの「ナウ」の時期にふさわしい健康管理の方法があることも発見したのです。

グラナダの朝市には新鮮な地場野菜が並ぶ
 これを彼らは、宇宙の天体が人間を支配しているからだと考えたわけですが、このことを非科学的と言ってはいけないんです。自然現象の変化の中で、物事の原因と結果の間に法則性が成り立つというのは科学の大原則ですが、星空の観測から見つけ出した「ナウ」という現象の中に、それを彼らは発見したんですね。
 「コルドバ歳時記」には、春に畑を耕す時期や、種まきの開始時期、収穫期、家畜の繁殖や冬への準備など、アンダルシア地方における暮らしのアドバイスがこと細かに記されています。
 その知恵は、15世紀に終結したレコンキスタ(イスラム教徒に占領されたイベリア半島をキリスト教徒の手に奪回する運動)によって、スペイン全土がキリスト教社会になったあとも、人びとの間で生かされていきました。

※次回はいよいよ最終回。今、日本に生きる私たちがコルドバ歳時記から何を学ぶべきかをお話します。

(図版協力・東海大学文学部ヨーロッパ文明学科 金沢百枝)


【プレゼントのお知らせ】

 太田尚樹さんの著書『コルドバ歳時記への旅』(東海教育研究所)を抽選で3名の方にプレゼントします。ご希望の方は、住所、氏名、年齢、電話番号をご記入の上、12月26日(金)までに下記アドレス宛てメールでお申し込みください。(※プレゼントは終了しました)
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【おおた・なおき】
1941年東京都生まれ。作家、東海大学名誉教授(スペイン文明史、比較文明論)。
著書に、『コルドバ歳時記への旅』(東海教育研究所)、『サフランの花香る大地ラ・マンチャ』、『アンダルシア パラドールの旅』(以上中公文庫)などのスペインに関する著書のほか、慶長使節に関する『ヨーロッパに消えたサムライたち』(ちくま文庫)、『支倉常長遣欧使節 もうひとつの遺産』(山川出版社)、昭和史をテーマにした『満州裏史 甘粕正彦と岸信介が背負ったもの』、『天皇と特攻隊』(以上講談社)、『伝説の日中文化サロン 上海・内山書店』(平凡社新書)など多数がある。
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