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美しいくらし
落語と日本酒の粋な関係 落語家
三遊亭遊かり
第1回 憎めない酔っ払いたち
 長引く自粛生活でとんと見かけなくなったのが、赤ら顔で上機嫌、鼻歌交じりに千鳥足という酔っ払いの姿。懐かしいなあ、しばらくぶりに会いたいなあ……と思い出したのが、飲んだり呑まれたりとなぜか憎めない酔っ払いたちが登場する落語の世界。そこで「日本酒ナビゲーター」の資格をもつ落語家、三遊亭遊かりさんにインタビュー。切っても切れない落語と日本酒の粋な関係について3回にわたり聞きました。

――三遊亭遊雀師匠の弟子で現在、「二ツ目」の遊かりさん。古典やそのアレンジ、新作など、女性ならではの心理描写を盛り込んだ落語が人気です。遊雀師匠に入門する前は、日本酒のバーや問屋さんで10年ほど日本酒を扱っていた遊かりさんが愛してやまない落語に登場する酔っ払いとは?

三遊亭遊かりさん

 たくさんいますよ。『替わり目』という演目では、よそで酔っ払った旦那がうちに帰ってきたところで通りかかった車夫に、「人力車に乗ってくださいよ」と言われ、乗ったはいいけれど「ここでおろせ」とすぐに降りてしまう。そこに奥さんが出てきて「何してるの! 早く寝なさいよ」なんて叱られても、まだ酒を飲もうと「“おひとつ、いかが”くらい言え」とグダグダやりとりが始まり、おつまみが何もないからと奥さんがおでんを買いに行って……なんて夫婦の情愛を描いたものなんかもいいですね。

 面白いのは『夢の酒』。これは酔う前の噺なんですが、若旦那が昼寝をしている間に夢の中でお酒を飲まされそうになり、きれいな女の人に言い寄られそうになったところで目が覚めてしまう。起きて嫁にその話をしたら、怒って大旦那に言いつけて「夢でその店に行って女にお小言を言ってきてください」と頼みます。大旦那が夢の中でその女の人に会いますと、燗酒がないので冷やで、と勧められます。ところが大旦那は昔、冷や酒でひどい目にあっているので、「いや、冷やはいけません」と断っているうちに、燗がつく前に嫁に起こされて飲み損ねてしまう、という噺です。大旦那の残念そうなこと……。

――ちょっと聞いただけでも、どことなくかわいげがありますね。落語にはイヤな酔っ払いは出てこないような気がしますが……。

神田鍛冶町にあった弁慶橋。酒樽や酒屋が見える(江戸名所図会、国立国会図書館デジタルコレクション)

 いえいえ、出てきますよ(笑)。有名な『居酒屋』の後段とされる『ずっこけ』という噺(はなし)があります。そこに出くる酔っ払いは、からみ酒。居酒屋がもう看板だというのに小僧さんに絡みながら一人で大酒を飲んで酔っ払い、やってきた友だちに勘定を払わせて「連れて帰れ」と、その途中で立ち小便の手助けまでさせる始末。挙句にふんどし一丁になってしまって、おかみさんのところに帰ります。『らくだ』も、やっぱりからみ酒。主人公の紙くず屋さんが初めは言われるがままにヤクザ者のいうことを聞いているけれど、酔いが回ると豹変して「誰に向かって言ってるんだ!」なんてわめき出します。

 古典落語とされる演目の多くは、江戸時代から明治、大正にかけてつくられたもの。たいてい庶民にとって娯楽が少ない時代が舞台で、男にとっての楽しみといえば「飲む・打つ・買う」の三つです。ちなみに「三遊亭」という名の由来もそこからきています。庶民は、楽しくても酒、悲しくても酒、うっぷんを晴らすのも、あったまるのも酒なんですよね。

 『試し酒』という演目では、酒飲みの旦那が2人出てきて、片方が「私は飲めないけれど連れの下男が五升は飲むから」というので、もう片方が「五升飲めたら湯河原に招待する」と、酒が掛けの道具に使われたりもします。

――五升ですか!? 落語の中とはいえ、昔の酔っ払いは大酒飲みですね。

現在の中央区新川の河岸に並んでいた酒問屋。上方からの下り酒はここに集められた(江戸名所図会、国立国会図書館デジタルコレクション)

 それというのも、江戸時代の日本酒のアルコール度数はものすごく低かったそうですよ。今、日本酒といえば基本的に14~16度のところ、江戸時代のものは4~6度ぐらいだったとか。
 そもそも、江戸時代の酒は甘くて味が濃かったので、水で割って飲んでいたともいわれます。落語の中でも「蔵を出てくるときにはそのままだった酒が、割られて割られて、江戸に着くころには水っぽくなっている」なんてくだりがあります。蔵から出したときにはアルコール度数が17、18度の酒を酒屋が薄めたりして、樽の香りがついて味も変化していく。今のように酒蔵で加水調整された上等な日本酒を割って飲むなんてとんでもないけれど、江戸時代の酒は割ればちょうどよいというわけですね。

 また、今のような精米技術がなかったので、アミノ酸や糖分が高く甘かったようです。。現在の日本酒の精米歩合は平均で60パーセントくらいですが、江戸時代の酒は80~90パーセントくらい。実は今、現代でもそうした酒を楽しみたいと実験的に造っている蔵もあります。精米歩合が90パーセントほどで造った日本酒は、バナナのような味がするんですよ。

 ちなみに、江戸で珍重された灘や摂津といった関西の水が柔らかいところの酒は、船で運ばれてくる間に揺れて撹拌されて熟成が進み、まろやかでおいしくなる、と聞いたことがあります。

――なるほど、諸説あるもののアルコール度数が低いから五升も飲めたわけですね。ちなみにそうした酔っ払いたちが飲んでいた日本酒は、ぬる燗か熱燗か、それとも冷やですか? 

 落語に出てくる日本酒は、基本的に燗酒だと思っていただいていいと思います。「冷や」といっても冷蔵庫があるわけではないので冷たくしているわけではなく、いわゆる「常温」です。お酒をそのまま出したり飲んだりするのは、手間もかけずに下品だという考え方があるんです。

 それと、「冷やは体に毒」といわれますよね。「安い酒を熱燗で飲むのがうまい」とおっしゃる方もいますが、実は酔っ払いのメカニズムからも説明できます。酔うのは血液の温度と血液中のアルコールの温度が同じになったときで、「燗は人肌がよい」というのはそのため。飲むはなからゆっくりお酒が体になじんで酔っていくというわけです。それに比べて常温のお酒は温度が5~10度くらいなので、飲み始めてから酔いが回るまでに時間がかかりますが、体の中に入った酒が体内の温度と同じになったら急に酔ってしまいます。
 日本酒の飲み方にも、昔の知恵が感じられますよね。上等なものでなくてもせめて温めた酒を、という庶民のおもてなしの心もあるかもしれません。(つづく)

――遊かりさんの話を聞いていると縄のれんの居酒屋で酔っ払う「熊さん」や「八っつぁん」がグッと身近に感じられます。次回は日本酒をこよなく愛する遊かりさんならではの落語に登場する酔っ払いへの“こだわり”について聞きます。

(構成:白田敦子)

【三遊亭遊かりさんの独演会 Vol.8】


日時:2021年9月26日(日)
時間:13:30開場 14:00開演
会場:江戸東京博物館 小ホール

   (東京都墨田区横網1-4-1)
※JR総武線両国駅西口徒歩3分、
都営地下鉄大江戸線両国駅A4出口徒歩1分

【全席指定】前売2500円、当日2800円

【ゲスト】笑福亭羽光

【ご予約・お問い合わせ】
yukaris824565@gmail.com
050-3746-1144(留守電対応)

【三遊亭遊かり公式ホームページ】https://sites.google.com/view/yukari-sanyuutei
【ブログ「遊かりの花咲くころ」】https://ameblo.jp/yuukarisanyutei824565/
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【さんゆうてい・ゆうかり】
玉川大学文学部芸術学科演劇専攻中退後、社会人としてさまざまな職場で働く。日本酒バー、日本酒の問屋などで足かけ10年勤務した後、2011年に落語に出あい、12年6月、三遊亭遊雀に入門。16年7月下席より二ツ目に昇進。21年9月「第32回北とぴあ若手落語家競演会 奨励賞」受賞。出囃子は「私の青空」。趣味は日本酒(飲むのも語るのも)、カラオケ、歌舞伎鑑賞、水泳、読書。
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