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美しいくらし
忘れられないイタリアの美しい村 トスカーナ自由自在
中山久美子
第1回 ぶどう畑を見おろす小さな村【モンテフィオラッレ】
 自然が織りなす景観と風情ある佇まいが、訪れる者を魅了する美しい村。これまで書籍や連載を通してフランスの村々を紹介してきたものの、その魅力は尽きるどころか、さらに輝きを増しているように感じられます。そんなあくなき好奇心を満たすべく、イタリアの美しい村をめぐる新連載がスタート! 案内してくれるのはイタリア中部のトスカーナ州にある田舎町に暮らし、ウェブサイト「トスカーナ自由自在」で多彩な情報を発信している中山久美子さんです。南北に細長く、四季の変化に富んだイタリアではどんな出合いが待っているのでしょうか。情緒あふれる景観に魅せられ、イタリア各地の村を訪ね歩いている中山さんが忘れられないシーンとともにナビゲートします。

トスカーナ州に多く見られる糸杉の風景


 大学の卒業旅行でおり立ったフィレンツェ。ミケランジェロ広場からパノラマを見おろしたときに誓った、「この町に一度でいいから住みたい!」という夢をその6年後にかなえ、今年で早20年の月日が流れました。留学してやってきた当時は、結婚して移住することも、日本人が誰もいない山間の村に住むことも、全く想像せず……。しかし、フィレンツェから今の村に移り住む前に、すでに私の中ではいろんな変化が起きていました。

 歴史好きからイタリア好きになったこともあり、留学前まではフィレンツェやローマといった世界史に出てくる都市しか知らなかった私。留学してすぐ付き合い出した彼(現在の夫)がその夏、彼のおばあちゃんが暮らすフィレンツェから南へ1時間半ほどの村へ連れて行ってくれたのが、新しいイタリアを知るきっかけとなりました。車窓から次々に現れる、言葉にならない美しい田園風景、丘の上の小さな村、石造りの家……今では世界遺産となり有名になったオルチャ渓谷のその風景は、私の知っていたドゥオモやコロッセオなど歴史的建築物が並ぶイタリアを根底から覆し、それからは好んで田舎や小さな村を訪れるようになったのです。

 そんなきっかけで始まった、私の小さな村めぐり。どんなふうに小さな村を探しているのか?よく聞かれるのですが、初めのうちは夫や友人からの情報で、今はSNSの投稿やグーグルマップを片っ端からクリックし、マイナーな村を見つけてはほくそ笑んでいます。しかし、やはり参考になるのは、「イタリアの最も美しい村」協会(イタリア語名:I Borghi più Belli d’Italia)。フランスや日本にもあるので、日本の方にもなじみがある協会ではないでしょうか?
 連載ではこの協会に加盟している村から、イタリア中部にある地元トスカーナ州を中心に、他州の村も織り交ぜて紹介していきます。今はなかなか自由に旅行はできませんが、この連載でイタリアの美しい村を知り、いつか訪れていただけるなら、それほどうれしいことはありません。

 さて、記念すべき第1回は、私のおひざ元であるトスカーナ州フィレンツェ県より。イタリアが好きな方、ワインが好きな方には聞き覚えのあるキアンティエリアの美しい村、モンテフィオラッレに行ってみましょう。キアンティはトスカーナ州の中央部、フィレンツェ県とシエナ県にまたがる広いエリアですが、このモンテフィオラッレは、「黒鶏」がマークの赤ワイン「キアンティ・クラッシコ」の生産地、グレーヴェ・イン・キアンティの丘の上にあります。

 近くまで行かないと気づかれることもない小さな小さな村ですが、私がここを知ったのは、「家族経営の良いワイナリーがあるよ」とハイヤー運転手の友人に薦められたからでした。ブログのフォロワーさんたちにフィレンツェから簡単に行けるワイナリーを聞かれることもあったため、私自身がまず行ってみたのですが、なによりもワイナリーから見える、自然と調和した村の姿にノックアウト!


 モンテフィオラッレの歴史は古く、記録は1085年にまでさのぼります。リカーゾリ家など有力家系による統治から、中世以降はフィレンツェやシエナのような都市国家の支配下になりつつも、当時はこのエリアの中心的な町だったそう。近年は平地にできた「新市街」グレーヴェ・イン・キアンティにエリアの中心的役割を譲り、モンテフィオラッレは行政区画的にも分離集落となってしまいました。

ワイン造りに情熱を注ぐフェルナンド

 そんな陰に隠れた姿は、モンテフィオラッレのふもとにある小さなワイナリーのお父さん・フェルナンドにそっくり。このワイナリーの歴史は、フェルナンドのお父さんから始まります。1964年、村の教会が所有していたブドウ畑を受け継いでスタートしたのですが、エンジニアであった息子・フェルナンドも、次第にワイン造りに参加していきます。
 しかし、自身は決して経営者になることはなく、開業当初は創業者の父を支え、その後は祖父の跡を継いだ彼の娘・アレッシアを支え、ずっと裏方人生を送ってきました。「うちは家族経営の小さなワイナリーだけど世界中にファンがいるんだよ」と語るフェルナンドの顔は、まさに幸せそのもの。私がモンテフィオラッレを何度も訪れてしまうのは、故郷であるこの村や家族を誇りに思うフェルナンドに会いたいから、というのも理由の1つなのです。


 それではさっそく、村の中を歩いてみましょう。唯一の見どころはヴェスプッチ家の館。新航海時代の航海者で、アメリカの名前の由来ともなっているアメリゴ・ヴェスプッチを輩出したことで知られています。ヴェスプッチという苗字はイタリア語のヴェスパ(スズメバチ)から由来しているため、家紋にはスズメバチが7匹描かれているのがかわいらしいですね。ここでアメリゴも生まれた、という説もありますが、残念ながら当時この館があったという記録は残っていないそうです。

 ヴェスプッチの館があるメインストリートは、村の形に添ってくるりと一周になっています。ほかに見るべきもの、というほどのものは特にないのですが、メインストリートからちょっと入った路地や、その先にある小さな広場がとても愛らしく、村の隅々まで歩き周りたくなります。童話に出てきそうなかわいらしい村なのに、グレーヴェ・イン・キアンティの町からは車でたった5分、フィレンツェからも1時間かからない、というのが信じられません。小さな村へ初めて行く方にも比較的行きやすい、おススメの村です。(つづく)


★モンテフィオラッレへのアクセス
フィレンツェバスターミナルより、グレーヴェ・イン・キアンティまでは直通バスで50分。モンテフィオラッレへは、坂道をのぼって徒歩25分または車で5分です。

【トスカーナ自由自在】https://toscanajiyujizai.com/
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【なかやま・くみこ】
兵庫県出身。早稲田大学第一文学部西洋史学専修卒業。28歳でフィレンツェ留学、のち現地で結婚。現在はフィレンツェ北部の田舎で、夫・息子2人の4人暮らし。さまざまな分野の取材・視察・ビジネスのコーディネイトと通訳を一貫して行う。趣味の個人旅行とトスカーナ愛が高じて、ウェブサイト「トスカーナ自由自在」を2015年に開設。日常生活を紹介するとともに、郷土料理や祭り、生産者、小さな村など各地の魅力を発信している。
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