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美しいくらし
ひとり出版者の仕事 暮ラシカルデザイン編集室
沼尻亙司
第6回 「本」を「食べ物」に近づけたい
 今回は、実際に本を作るにあたっての私の考え方について綴ってみたいと思うが、まずは本の「モノとしてのスペック」を公開しつつ話をふくらませてみたい。分かりやすいと思うので、最新刊の『房総のパンⅡ』を例にしてみた。

 ひとり出版者なので、取材、撮影、デザイン、執筆、販売流通を手がけるだけではなく、本に使う「紙」や「装丁」をどうするかも自分で決める。例えば、『房総のパンⅡ』の「モノとしてのスペック」は以下の通りだ。

【判型】A5版
【ページ数】本文96ページ+表まわり
【ブックカバー】あり
【色】本文:オールカラー、表まわり:モノクロ、ブックカバー:両面カラー
【紙】本文:上質紙90kg、表まわり:上質紙180kg、ブックカバー:片艶クラフト51.5kg

 少し解説をすると、「表まわり」というのは、表紙(「表1」と呼ぶこともある)とその裏側のページ(表2)、裏表紙(表4)とその裏側のページ(表3)の計4ページ分を指す。

 紙の単位で「kg」を使っているのは間違いではない。印刷の世界では、基準となる紙1000枚分の重さが厚さの単位となる。同じ紙で90kgと180kgなら、180kgのほうが90kgよりも厚みがあることになる。
 上質紙というのは、名前だけ聞くとさぞかし高級そうな雰囲気だが、ごくごくポピュラーな標準紙。表面塗工されていない化学パルプだけで作られたスタンダードな紙である。

 続いてブックカバーについてだが実は、これまではブックカバーは付けず、ペーパーバックでやってきた。旅のお供に本を携えて気軽にガツガツ使って欲しいとの思いがあったからだ。
 では今回なぜブックカバーを付けたのかというと、知り合いに浦安市のフリーペーパー『地図とペン』を作られている方がいて、そのパン屋の記事が素敵だったので、その記事をブックカバーの裏面に掲載したいと考えたからだ。そう、パンの本なだけに記事(生地)を仕込んでいるのだ。ブックカバー裏面に記事を掲載しようと思い至るのには次のような経緯がある。

 掲載にあたってすぐさま問題点に気が付いた。フリーペーパーのサイズはA3で、編集室の本はA5。まるでサイズが違う。縮小したら読みにくいし、それに本来のフリーペーパー感が失われてしまう。A3のサイズ維持してA5の本に組み込むにはどうすればいいか……。考えた末編み出したのが、「折り込んでA5のブックカバーにする」という案。裏面にフリーペーパーの記事を印刷して、表面に表紙と裏表紙を印刷する。ブックカバーを写真のように展開して裏返すと、A3の記事が現れるという仕組みだ。

A3サイズのフリーペーパーをそのままブックカバーに使用


 紙は「片艶クラフト」という、菓子の包装紙などに使われたりする紙で、表がツヤツヤ、裏がザラザラした質感。この手の紙はマルシェやイベントのフライヤー(チラシ)に使われることが多々あって、モノ感、贈り物感のあるテクスチャーが気に入っていた。
 51.5kgというのはブックカバーにしてはかなり薄い。これには理由がある。A3をA5に合うように折り込んでいるため、普通のブックカバーより一回多く折らなければならない。そのため紙が厚すぎるとズレが大きくなってしまうのだ。薄い紙は裏の記事が透けて見えてしまう裏写りのリスクを伴うが、今回は表紙写真が黒ベースの色合いだったためうまい具合にそれを回避できた。
 
 折り作業もどうするかが課題だった。一回余計に折り込むしち面倒臭いブックカバーのため、印刷・製本会社に「折り」作業を頼めば値段が跳ね上がるだろう。なので、結局自分で折っている。まぁ何万部もやるわけじゃない。たかだか発行部数は1500。家で好きなラジオを流しながら自分のペースでひたすら折っていく作業も、案外なかなか悪くはないものだった。こうして自力でできると割り切れば、何事も前に進める。フリーハンドのモノづくりができることは、リトルプレスを自費出版することの醍醐味であると強く感じるのである。

質感や厚みにもこだわって紙を選択

今回、主に紙についての情報をオープンにしてみたが、ここで少し話を深めてみたい。

 たまに編集室へ、本業界とはまったく関わりのない一般の方から「自分で本を自費出版したいのでどんな紙がいいか教えて欲しい」と、問い合わせをいただくことがある。だが、この問い合わせ頂いた方のほとんどが、なぜかえらく高級で厚みのある紙を使いたがる。そのチョイスで作ってしまうと、外観はいかにもゴツく華美すぎて、ページをめくろうにもゴワゴワして違和感ありまくり……みたいなことになる。もちろん高級紙を使ったっていい。写真集やアート系の本は色映えのする高級紙を使ったほうがいいだろうし、絵本などは厚みのある紙がいいかもしれない。要は、紙が高級か否かよりも、内容と目的を踏まえた「バランス」の方が重要だ。

 おそらく、自分も当初そうだったのだけれども、一般の方(=本業界の外の人)にとって本を作るという行為は、本の業界の方が考えているよりも遥かにハードルが高いものだと認識されている。だから、「覚悟を決めて本を作るからには紙には妥協したくない!」という気持ちが、高級路線へと気持ちが誘導されてしまうのだろう。「読書」という意味で身近な存在の本も(今はほんとうに読書が身近かという議論もあるかもしれないが)、「本作り」「流通」「紙」などに話が及ぶと、途端に遠い世界になってしまうのだ。

 私が常々思うのは「食べ物」と「本」の比較である。

 生命維持に必須の食べ物とそうではない本とは、当然ながら同列で比較できるものではない。だが、「食べ物ならこうだよね。では本はどうだろう?」という比較をきっかけに考察へと結びつける思考法は面白いと思っている。

 食べ物を購入する動機は値段と味だけではない。何で作られているか、どう作られているか、誰が作っているのか。より踏み込んで、栽培から加工、流通に至るまでのトレーサビリティをトレースしたうえで食べ物を買い求める人もいることだろう。生産者から消費者へ至る食べ物の流通も、市場・卸を経由して全国のスーペーに並べられるものもあれば、直売所やマルシェで、直接作り手が買い手に送り届けることもある。

 つくづく、本も食べ物のようになればいいのにと思う。

 そうしたら、「面白い・役に立つ」(食べ物に置き換えると「おいしい」)というところにとどまらない本の魅力に気が付けるはずだし、もっと本を身近に感じられるようになると思う。
 著者がマルシェで本を「直売」してみたり、原材料である「紙」の情報を公開する。そうかそんな「レシピ」なのか。じゃあ私も作ってみようかな。あの方が作り手さんなんだ~。コレ、どうやって「栽培」(=取材・執筆)したんですか? そんなやりとりが繰り広げられたらどんなに楽しいことだろう。食べ物のように本を捉えると、すごくわくわくしてこないだろうか? 私が発行部数や紙の情報を公開しているのは、そんな思いがあるからである。

本を食べ物に近づけること。

 それは本(本作り)を、特別な存在から身近な存在に近づけることにつながると、私は考えている。

編集室ではマルシェなどに出店させていただいている。
写真は千葉市の農場カフェ「タンジョウファームキッチン」の収穫祭にて




沼尻亙司さんの公式サイト「暮ラシカルデザイン編集室」
https://classicaldesign.jimdo.com/
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【ぬまじり・こうじ】
1981年千葉県生まれ。千葉県全域のタウン情報誌『月刊ぐるっと千葉』編集室に在籍した後、2014年に千葉・勝浦の古民家を拠点にした「暮ラシカルデザイン編集室」を開設。「房総の名刺のような存在感としての本」を目指して、取材・制作・編集などの本づくりから営業までを行う。これまでに、人・地域にフォーカスした『房総カフェ』『房総のパン』『房総コーヒー』『房総落花生』『BOSO DAILY TOURISM 房総日常観光』などのリトルプレスを発行。
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