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美しいくらし
ひとり出版者の仕事 暮ラシカルデザイン編集室
沼尻亙司
第4回 四方良しの商いを目指して「本屋編」
 本屋もいいぞ~、ということを書かないとお付き合いのある本屋の方々に怒られそうなので(笑)、前回のカフェ編に続き、今回は「本屋編」。

 まずご紹介するのは、京成本線・志津駅の駅ビル内にある書店「ときわ書房 志津ステーションビル店」。志津は東京への通勤圏で、国立歴史民俗博物館のある佐倉市の西の端にある地区。マンションや住宅街が広がる典型的なベッドタウンである。
 遠目に見ると、商業施設にテナントで入っているごく普通の書店のような佇まいだが、売り場に近づくや、ビリビリと放たれる「攻め」のオーラが。つい先日訪ねた時も、オススメと思われる本に「“騎士団長殺し”殺しの文庫はコレだ!」と、殴り描くような文字のPOPが添えられていた。
 書店員がそれぞれに興味関心を抱き、問題意識を持ったテーマがあるとみえ、「棚」が実に面白い。「あ、こんな本もあったのか」と、新たな出会いが結構あって、つい財布の紐が緩んでしまう。

 ありがたいことに、ここの棚の一員として、編集室の本を加えていただいている。そのきっかけとなったのが名物店長、日野さんである。

「ときわ書房 志津ステーションビル店」の日野店長。ユニークな棚づくりで楽しませてくれる

 日野店長は常に多忙のため、ご覧の通りヘロヘロである(と、いうのは冗談で、撮影日が真夏のたまたま空調が壊れた時だったのだ)。
 うなだれている日野店長の脇でこの時に展開されていたのは「ときわ志津佐倉文庫」。ときわ書房や佐倉に縁のある人たちからテーマに沿って文庫本を選書してもらい、それを実際に販売するフェアである。

 こうしたフェアのほか、「志津ノーベル賞」の選定、SNSでの積極的な発信と、さまざまな仕掛けを行う敏腕店長だが、とても気さくなお人柄。何度かランチもご一緒させていただいた。日野店長とのランチは決まって近くのカレー店「SATHI(サティー)」で、カレーランチ(うまくて安い!)を食べながら本屋談義に花を咲かすのが常だ。日野店長は地域と本屋の関係性を真面目すぎるほどに考え、悩みながらも店に落とし込んでいっている。その要素の一つに拙著を加えていただけているのは、やはり嬉しいことである。

 そんな日野店長と初めて出会ったのは、佐倉市内で行われた「佐倉城下町一箱古本市」。お互い出店者だった。『房総カフェ』を手に、「これはうちで売れますよ」と言って買い取っていただいたのを今でも覚えている。本をきっかけに、こうしたつながりが生まれたりもする。


「丸善 津田沼店」の特設コーナーで「暮ラシカルデザイン編集室」の本を紹介していただいた

 ときわ書房志津ステーションビル店と共同で「言論の自由・表現の自由ってなんだっけ?」企画を展開した「丸善 津田沼店」もお世話になっている書店の一つ。ありがたいことにこんな立派な専用コーナーまで作っていただいたこともある。
 実は『房総落花生』を出版したのち、店の一角を使わせていただいて千葉県産の落花生やピーナッツペーストの販売を行ったことも。編集室の本を担当していただいているTさん曰く、「書店として地元への想いを共有できたら。本に掲載されているお店の方たちのことも、広く知っていただきたいです」。
 この言葉を聞いて、ほんとうに嬉しかった。丸善 津田沼店というと、千葉県でトップクラスの規模を誇る大型店だが、店の大小は関係ない。熱量が伝わるかどうかは、結局「人」なんだと、改めて思い知らされる。


 最後に、本を通じた関係をきっかけに知り得た、私の心に響いたエピソードを。
房総半島の西海岸、内房の港町として知られる木更津市に「紅雲堂書店」という、老舗の本屋がある。どのくらい老舗かと言えば、明治時代の創業。建物は往時の面影を残していて、引き戸を開けると懐かしい平台の雑誌コーナーが出迎えてくれる。ありがたいことに、こちらにも編集室の本を置いていただいている。

地元に長く親しまれた「紅雲堂書店」は、昔ながらの懐かしい佇まいを残す


 ある日、久しぶりに本の納品に訪ねたら、なんと店主の鈴木淳之さんがお亡くなりになっていた。初めての自費出版本『房総カフェ』を携えて、おそるおそる訪ねた時、「あぁいいよいいよ」と二つ返事で置いてくださり、本屋同士のつながりについてや、古い地図を引っ張り出して木更津の歴史について教えてくれたりと、親身に接してくれていただけにほんとうにショックだった。

 今は奥様と六代目となる息子さんで切り盛りされている。パン好きの奥様とは、毎回店の奥にある、店の年表が掲げられた交流スペースで話が盛り上がるのだが、その日は紅雲堂書店と高校生との交流について聞かせていただいた。
 木更津にある暁星国際高校の学生たちは、社会学習の一貫で毎年、紅雲堂書店に通っている。歴史を調べて紅雲堂書店の年表を作ったのも高校生たちだ。
 「寮制のある学校だからね。うちに電話かけてきたり、私とここでお話するのも、人とコミュニケーションするいい練習になるのよ」と奥様。2階のスペースを使って一緒に郷土料理の太巻き作り体験をしたり、古い風情の残る界隈を盛り上げるのはどうしたらいいか話し合ったりと、学生たちとの交流を深めていった。

「紅雲堂書店」の棚

 そんな社会学習の最中、淳之さんの病状が「もう末期で、医者ももうどうにもできない状態」と知った学生たちが、自宅療養で寝たきりでほとんど動けない状態だった淳之さんの元を訪ねた。学生たちが木更津甚句を披露すると、淳之さんは奇跡的に身体を起こし、手を叩いて拍子をとったのだ。そして葬儀の際にも学生たちは勢ぞろいし、その最期を見届けたのだった。
 
 今では学生たちを迎えに来た親たちが「いつも息子がお世話になってます」と声をかけてくれるそうだ。奥様も「本屋としてはもう厳しいけど、こうしていろいろな人に支えられて、やってこれてるよね」
と語る。
 そんな学生たちは卒業してまたそれぞれの道へ。そして後輩たちがまた木更津の旧市街に佇む本屋の扉を開けるのだ。積み重ねられたさまざまな人たちの時間、思い、そして人生の機微。古い建物に漂うゆるやかな時の流れは、静かにこの町の物語を包んでゆく。

……本を手に取ってくださった読者の方が、実際に本の取材先(掲載店)に足を運んで楽しんでいただける。本の販売店さんにとっても送り届け甲斐がある。そんな関係性の中で、私自身も次の本づくりに臨める。

「読者」「取材先」「販売店」「編集室」。

 そんな本を通じた「四方良し」の商いは、これまでの業界のフレームにとどまらない関わり方の多様性ができ、活動の幅も広がり、そして出会う人との新たな会話が生まれる。
この楽しさを知ってしまったら、もうこの商いはやめられない。(つづく)


沼尻亙司さんの公式サイト「暮ラシカルデザイン編集室」
https://classicaldesign.jimdo.com/
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【ぬまじり・こうじ】
1981年千葉県生まれ。千葉県全域のタウン情報誌『月刊ぐるっと千葉』編集室に在籍した後、2014年に千葉・勝浦の古民家を拠点にした「暮ラシカルデザイン編集室」を開設。「房総の名刺のような存在感としての本」を目指して、取材・制作・編集などの本づくりから営業までを行う。これまでに、人・地域にフォーカスした『房総カフェ』『房総のパン』『房総コーヒー』『房総落花生』『BOSO DAILY TOURISM 房総日常観光』などのリトルプレスを発行。
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