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食べるしあわせ
職人醤油のつくり方 「職人醤油」代表
高橋万太郎
第4回 石孫本店には機械がありません(下)
 大正時代から使い続けている小麦焙煎機の熱源は石炭。麴づくりは数百枚の麹蓋(こうじぶた)を駆使して手間と人手をかける……。そんな昔ながらの製法にこだわる石孫本店の醤油づくりの現場は、新たな発見と喜びにあふれています。

丁寧に使い込まれた道具が整然と並ぶ

 1年ほど経ったころに再び訪問し、ふと気づいたことがありました。嫌なにおいがしないのです。
 歴史の長い蔵には独特の香りがあって、醤油諸味の管理を疎かにすると、雑菌が繁殖したような嫌なにおいがする場合もあります。石孫本店ではそのようなことが一切ありません。
 さらによくよく見てみると床の隅々まできれいに掃除されていて、仕込み作業に使う道具もきちんと整理整頓されています。もちろん、建物も道具もかなり年季が入っていて数十年使っているという木製の道具がたくさんありますが、それぞれが大切にされている雰囲気に満ちあふれています。

 どうしてこのような扱いができるのか――。
 その理由がわかったのは、3度目の訪問のときでした。とてもすてきなしつらえの客間で、「うちの醤油を材料に使ってくださったプリンなんですよ。珍しいでしょ」とおもてなしをいただきながら、 「ついこの前ね、20代のスタッフが2人も入ってくれたんですよ」とうれしそうに話す石川社長。聞くと、蔵人に対して具体的な指示は出さないとのこと。「今年の仕込みはいつからするの? と蔵人に尋ねるんですよ」。
 では、石川社長の仕事とは? 「現場からね、資材が少ないので発注しておいてくださいと言われるので、それを発注すること。これが私の仕事なんです」と、これまたうれしそうに語ってくれる。

上:石孫本店の外観
下:蔵の中には凛とした空気が漂う

 一般的に、生産の規模が大きくなるほど分業化する現場。それが、石孫本店のように近代的な機械のない蔵では、職人一人ひとりのかかわり方が品質に直接影響します。
 石孫本店では、小さな失敗があると、何が原因で誰のどのような作業が影響しているのか、蔵人同士であれこれ話し合っているのだとか。そのような積み重ねを通して、醤油とどうかかわるのがよいのかを一人ひとりが考え尽くし、その一つとして現場は清潔なほうがいいことを実感しているということなのでしょう。

 蔵人たちが納得して自発的に行動しているからこそ、やらされ仕事ではなく当たり前の作業として、雑巾と箒で徹底的に掃除をしている。そのようなつくり手が手がける醤油はやはり格別で、昔ながらの製法ということ以上に石孫本店の味を形づくっているのです。
 「仕事をすることは生活の糧だけど、喜びの心がないといけない。そうしないと寂しいでしょ?」。理想的だけれど、それが難しい。そんなことも石川社長はこともなげに言います。

 秋田の厳しい冬、麴蓋を見守り続ける寝ずの番、きついはずの日々の仕事にこそあるという喜びの心――。
 「昔ながら」とは変わらないことではなく、変えないために日々たゆまぬ努力を続けること。そう教えてくれる石孫本店は、訪ねるたびに新鮮な「昔ながら」に出合える蔵です。

【職人醤油―こだわる人の醤油専門サイト】
http://www.s-shoyu.com/

☆☆今月の醤油 百寿(秋田県 石孫本店)
価格:381円+税

詳細はこちらから:http://www.s-kura.com/?pid=76110987

【どんな素材にも合う万能タイプ】 全国的に見ても数えるほどしか残っていない、麹蓋による麹づくりを続けている石孫本店。“昔ながら”という表現がぴったりの1本がこれだ。素朴で穏やかで優しい味で、「おいしかった!」というリピーター多し。熱々のジャガイモにバターとこの醤油をたらしてジャガバターに。風通しのよい日陰に半日干した大根を、オリーブオイルをひいたフライパンで焼いて醤油をひとたらしするのもオススメ。



『にっぽん醤油蔵めぐり』
本体1,400円+税

☆蔵めぐりの連載が本になります☆



※2016年11月から2017年11月まで連載された本連載と、2018年8月から続いた連載「にっぽん醤油蔵めぐり」をまとめた書籍『にっぽん醤油蔵めぐり』コチラからどうぞ。

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【たかはし・まんたろう】
1980年群馬県生まれ。立命館大学卒業後、(株)キーエンスにて精密光学機器の営業に従事し2006年退職。(株)伝統デザイン工房を設立し、これまでとは180度転換した伝統産業や地域産業に身を投じる。現在は、一升瓶での販売が一般的だった蔵元仕込みの醤油を100mlの小瓶で販売する「職人醤油」を運営。これまでに全国の400以上の醤油蔵を訪問した。
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