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食べるしあわせ
職人醤油のつくり方 「職人醤油」代表
高橋万太郎
最終回 磨き上げられた環境が育むプレミアムな白だし(下)

顔が映り込むほど磨きこまれた設備
 小麦や大豆といった原料を処理する部屋は床も壁もきれいに塗装されていて、一見、工場とは思えないような空間です。しかも、設置されている設備はどれもピカピカ。「新品ですか?」と思わず口にしていました。大豆を蒸すために使う「NK缶」と呼ばれる巨大な圧力釜の表面はよく磨かれていて、前に立つと鏡のように自分の姿が映っています。これは一度使用すると高温になるため表面の輝きは失われるそうですが、そのたびに紙やすりで磨いいているのだそうです。
 濾過をする装置は40年間も使われているとのことですが、こちらも新品と思えるほど。この設備のメーカーからは、社内でもここまでよい保存状態のものはないので、役目を終えるときには譲ってほしいといわれているのだとか。

上:犬塚元裕社長
下:鈴木貴志工場長
 さまざまな蔵を訪ね歩いた経験から、よい醤油がつくられる現場は清掃と整理整頓が徹底されているというのが共通の印象ですが、七福醸造の場合は飛び抜けてきれいなのです。食品業界全体を見渡しても、ここまで環境整備が徹底されている現場は少ないのではないでしょうか。

 白だしの加工工程の現場には、鹿児島県枕崎産の本枯れ節のかつお節、大分県産のどんこ椎茸、北海道産の昆布など、一流料亭が使用するレベルの素材が並んでいます。聞けば、原材料には惜しげなくコストをかける方針で、すべて最上級のものを使うことを心がけているとのこと。過去に飲食店向けに営業をしていたとき、原料に本枯れ節のかつお節を使っていると伝えると、「うそつくな!」と言われたこともあったとか。加工品の調味料にそんな高価な素材を使えるはずがないと、「現場を見に行ってもいいか?」と実際に飲食店の方が来たこともあったそうです。

 犬塚元裕社長に会い、「とにかく驚きました」と伝えると、「マニュアルって忘れてしまうこともあるじゃないですか。だけど、当たり前になってしまえば忘れませんからね」という答えが返ってきました。
 毎朝8時から1時間かけて、トイレや事務所を含めたそれぞれの担当場所をホコリひとつないように徹底的に磨いているそうです。これが、七福醸造の名物にもなっている「環境整備」。これに加え、工場を完全にストップさせての集中環境整備も年6回行うそうです。その日は、製造部門以外のスタッフも現場の設備に触れるので、部署をこえてのコミュニケーションの場にもなっているそうです。
 

白だしを支える最上級の素材
最初に鈴木さんが「当たり前のことですよ」と言っていたのは、こういうことだったのかと納得しました。
 
 初めての訪問から5年ほど経った日、1通のメールが届きました。差出人は最初の工場見学で案内してくれた鈴木さん。「工場長になりました」という内容に、さっそく会いに行っておめでとうと伝えると、変わらぬ元気いっぱいの笑顔で迎えてくれました。実は、鈴木さんのお父上も元工場長。七福醸造は親族が入社してくる割合も高く、もう少しで3世代が同時に勤務する家族も出てきそうなのだとか。七福醸造は、働くスタッフにとっても職場というより特別な存在になっているのかもしれません。(おわり)

――100mlの小瓶に入ったこだわりの醤油を扱う職人醤油。代表の高橋万太郎さんが訪ね歩いた蔵人との出会いなどを紹介してきた連載は、今回で最終回となりました。料理でも食卓でも、醤油といえば適当に選んだ一種類で済ませてきた私。この連載を通してすっかり醤油観が変り、今では冷蔵庫に職人醤油の小瓶が5本は並び、心なしかちょっと料理の腕が上ったような・・・。皆さんもぜひお試しください。約1年半にわたった連載でも、まだまだ紹介しきれないこだわりの職人醤油がたくさんあります。またいずれ、皆さんにご紹介したいと思います。お楽しみに。

【職人醤油-こだわる人の醤油専門サイト】
http://www.s-shoyu.com/

☆☆今月の醤油 料亭 白だし(愛知県 七福醸造)
価格:428円+税/原材料:合わせだし(かつおかれぶし削り、そうだがつおぶし削り、まぐろぶし削り、あじぶし削り、乾しいたけ)、水飴、有機しろしょうゆ、小麦酵素分解液、食塩、かつお節エキス、焼酎、昆布エキス、本みりん、酵母エキス、(原材料の一部に小麦、大豆を含む)

詳細はこちらから:http://www.s-kura.com/?pid=76110987

【原材料には惜しげもなくコストをかける】 これまで紹介してきた中でも「原材料」の多さは一番。それも、鹿児島県枕崎産の本枯れ節のかつお節、大分県産のどんこシイタケ、北海道産の昆布と、料亭が使用するような最上級の原料を使用している。15倍に薄めてお吸い物にするだけで香りと味は抜群。トマトを入れた「トマトのお吸い物」もオススメだ。

 また、鶏むね肉をすりおろしたしょうがと白だし大さじ1に30分漬けて天ぷらにしてもおいしい。すりおろした長芋に足してとろろご飯にも。




『にっぽん醤油蔵めぐり』
本体1,400円+税

☆蔵めぐりの連載が本になります☆



※2016年11月から2017年11月まで連載された本連載と、2018年8月から続いた連載「にっぽん醤油蔵めぐり」をまとめた書籍『にっぽん醤油蔵めぐり』コチラからどうぞ。
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【たかはし・まんたろう】
1980年群馬県生まれ。立命館大学卒業後、(株)キーエンスにて精密光学機器の営業に従事し2006年退職。(株)伝統デザイン工房を設立し、これまでとは180度転換した伝統産業や地域産業に身を投じる。現在は、一升瓶での販売が一般的だった蔵元仕込みの醤油を100mlの小瓶で販売する「職人醤油」を運営。これまでに全国の400以上の醤油蔵を訪問した。
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