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食べるしあわせ
職人醤油のつくり方 「職人醤油」代表
高橋万太郎
第12回 宮崎から東アジアへ届ける地域の味わい(上)

日向灘にほど近い長友味噌醤油醸造元
 九州の醤油は甘い――。そんな話を聞いたことのある方も多いのではないでしょうか。九州は独特の醤油文化圏です。うま味成分が凝縮された液体であるアミノ酸液を加えていることが特徴で、甘味料も併用するために甘い醤油が主流。醤油の規格でいうところの「混合」「混合醸造」という製法にあたります。
 そんな九州ならではの醤油づくりを守っているのが、宮崎県にある長友味噌醤油醸造元です。「カネナ」の屋号で親しまれるこの蔵の紹介をする前に、私にとってもカルチャーショックだった九州の醤油との出合いから、少し説明しましょう。

 群馬県前橋市の職人醤油本店を出て、相変わらずアポイントなしの訪問を繰り返しながら車で約1500㎞走り、関門海峡を渡って九州にたどり着きました。福岡県から東まわりで大分県を通り、宮崎県に向かって南下すると、途中で立ち寄る飲食店の味つけが明らかに甘くなってきます。みそ汁も麦みそなので甘く、だし巻き卵も甘い。
 その味わいは、大豆、小麦、塩のみの醤油が主流の関東地方と比べると、全くの別物と言ってもよいくらいの違い。同業の醤油蔵同士でさえ、関東からすると「なんだ?!この甘さは?」となりますし、逆に九州からは「関東の醤油は、しょっぱすぎる。辛すぎる」となるようです。

得意先への配達に軽トラは欠かせない
 道すがらスーパーマーケットに立ち寄ると、醤油コーナーには今まで見たことのないパッケージがずらり。さまざまな地元メーカーの醤油が、色とりどりに並んでいます。地域にたくさんの醤油メーカーがあり、それぞれの甘さ加減があるので、「わが家は代々、〇〇醤油を使っている」というように家庭の味と醤油メーカーが密接に結びついています。途中に立ち寄った醤油蔵にも、お得意先の家庭に配達に行くために自社の醤油の名前の描かれた軽トラがありました。

 生産現場も、これまで見てきた本州や四国の醤油蔵とは異なります。大豆、小麦の原材料から仕込むのではなく、共同工場などで造られた諸味を搾ったままの生揚醤油を仕入れ、その後、自社で火入れや甘みづけをして出荷をするケースが多いようで、原材料から醤油づくりを手がける醤油蔵は少ない印象を受けました。

 ところが、いくつかの醤油蔵を見学させていただく中で、「宮崎市に諸味からつくっている醤油蔵があるよ」との情報が。さっそく、住所を調べて向かうことにしました。国道220号線を南に進むと、ヤシの木が延々と並ぶ光景が続きます。車の窓を全開にして南国の空気を感じていると、青島という地域に入りました。大きな港もあって漁師町という雰囲気。聞けば、伊勢海老やカンパチ、ハモなどが有名だそうです。そのままカーナビに誘導されながら川沿いの小道を進むと、「長友味油醸造元」と書かれた表札が見えてきました。

塩見裕一郎さん(左)と女将の陽子さん
 これでもかというくらいの晴天の下、敷地には仕込み作業に使ったと思われる大きなザルが何枚も天日干しされています。事務所と思われる建物で事情を説明すると、意外な出迎えを受けました。
 まずは、「あれ~」という大きなリアクション。「私、知ってますよ、職人醤油さん。本当にアポなしで来るんですね」と宮崎弁まじりに元気いっぱいに対応してくれたのは、塩見陽子さん。こちらの醤油蔵の娘さんです。「ちょっと主人を呼んできますね」と小走り現場に向かい、汗だくのTシャツ姿のご主人、塩見裕一郎さんと戻ってきてくれました。これまた満面の笑顔。「南国のご夫婦」という印象が強く残っています。(つづく)
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【たかはし・まんたろう】
1980年群馬県生まれ。立命館大学卒業後、(株)キーエンスにて精密光学機器の営業に従事し2006年退職。(株)伝統デザイン工房を設立し、これまでとは180度転換した伝統産業や地域産業に身を投じる。現在は、一升瓶での販売が一般的だった蔵元仕込みの醤油を100mlの小瓶で販売する「職人醤油」を運営。これまでに全国の400以上の醤油蔵を訪問した。
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