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きれいをつくる
被災地の幽霊が示す新たな死生観 東北学院大学教授
金菱 清
第2回 なぜ幽霊は被災地に現れた?
 「タクシードライバーの幽霊現象」をはじめとする卒業論文をまとめた『呼び覚まされる霊性の震災学』(新曜社刊)は、私たちに「死」や「死者」との向き合い方をあらためて考えさせ、大きな反響を呼んでいます。金菱さんは死をより深く考えるため、学生たちと一緒に研究を次の段階に進めようとしています。今回の調査・研究を通じて見いだした新たな課題とは?

――前回、金菱さんが示した「あいまいな喪失」を「一時預かり」にする方法。実は、私たちが潜在的に持っている感覚をあぶり出したのではないか。

 今にして思えば、そのような意味合いも込めて、著書のタイトルに「呼び覚まされる」という冠をつけたのかもしれません。
 仏教的な教えだと、誰かが死んだときに「さまよっている霊魂をどうするのか?」と考え、不安になりますよね。だから、戒名をつけたり法要を営んだりする。それが震災によって、不安になるのとは逆の死者との向き合い方があったんだ、ということが表に浮き出てきたのではないでしょうか。

――柳田國男の『遠野物語』に代表されるように、幽霊にまつわる民間伝承が多く伝わる東北地方。幽霊の話が話題になったとき、風土が影響したと見る人たちもいた。

工藤さんの論文「死者たちが通う街」では、「内のことは内で」済ませようとする石巻の地域性、地元への愛着の強さに結論を置いていますが、私としては少し不満が残るところです。出版後の反響には、阪神・淡路大震災の後、幽霊は出ていないとか、原爆を投下された広島で幽霊は見られていないという話も耳にしました。風土的な影響があるかどうか、まだわかりません。次の段階として、どういう場所で幽霊が出たり出なかったりするのか調べようと考えています。石巻でも、震災前から幽霊が出たという話があれば、それとのつながりを比較検討しなければならない。そうすぐには答えの出ない問題です。

――阪神・淡路大震災では建物の倒壊による圧死や焼死が大半を占めていた。東日本大震災はほとんどが津波による死で、行方不明者も多い。災害の種類や死因の違いが関係しているのだろうか。

金菱教授の研究室
 先日、ある研究会でも幽霊が話題になりました。ある都市社会学者によると、幽霊が出ない(軽く扱われる)ケースが2つあるという。関東大震災と東京大空襲です。いずれも死者は猛火によって喪われた人々が大部分だったことを考えると、災害で生き残った人々の遺体に対する執着が背景にあるのかもしれません。阪神・淡路大震災や広島もそうですが、これらを比較してみると、興味深い日本人の死生観が見えてくるのではないかと思います。

――金菱さんは、日本人と欧米人の死者との向き合い方の違いにも関心を示す。

 遺体に対する考え方は、日本人と欧米人でも違います。2001年に愛媛県の宇和島水産高校の実習船「えひめ丸」が、ハワイ・オアフ島沖で米海軍の原子力潜水艦に衝突された事故がありました。日本人は生徒たちの遺体を懸命に探しましたが、アメリカ人はわりとすぐにあきらめましたよね。
 日本とアメリカでは幽霊の出方も違うそうです。日本では「トイレの花子さん」みたいな幽霊が小学校に出ますが、アメリカでは大学がほとんどなのだとか。これは、どの段階で集団の正式なメンバーとして社会的に承認されるか、その儀礼的な違いが幽霊に表れているのではないかなど、とても考えさせられます。

――3回目は、震災から5年を経てあらわになった、被災者のニーズと社会の意識のズレに迫ります。

(構成:平間真太郎)
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【かねびし・きよし】
1975年大阪府生まれ。関西学院大学大学院社会学研究科博士後期課程単位取得退学。社会学博士。現在、東北学院大学教養学部地域構想学科教授。専門は環境社会学、災害社会学。著書に『千年災禍の海辺学――なぜそれでも人は海で暮らすのか』(編著、生活書院)、『震災学入門――死生観からの社会構想』(ちくま新書)などがある。
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