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きれいをつくる
被災地の幽霊が示す新たな死生観 東北学院大学教授
金菱 清
最終回 被災者目線のまちづくりを
 被災地の一部では、内陸の移転先に再建した住宅や復興公営住宅での生活が少しずつ始まっています。ようやく生活の安定を取り戻せると思いきや、新たな環境で孤立を深める人たちもいます。いわば震災の「二次被害」ともいえる事態を防ぐ手立てはあるのでしょうか?

――なによりも優先されるはずの「我が家」の確保。金菱さんは、その見方に再考を迫る実態を目撃する。

 仮設住宅から早く出て復興公営住宅に移るということは、自立した生活に移行できるのですから、私たち外部の者から見ればめでたいことです。宮城県の女川町で半年ほど調査したところ、復興公営住宅に入ってよかったという人はかなりの数にのぼるのですが、悲惨な状況も数多く聞かれました。拙著『震災学入門』(ちくま新書)で描いた復興のあり方は、矛盾に満ちた被災者像とそれでもなおコミュニティーのありように光を当てる考えに満ちている。
 ある人は「早く夜になってほしい」とこぼしました。周囲に住んでいるのが知らない人ばかりで、昼間歩いているとジロジロ見られているように感じてしまうという。夜になれば誰も歩いていないので少し気が休まると。これは、とても悲劇的なことではないでしょうか。

――立派な建物はできても話し相手がおらず、人とのつながりが断たれて、宮城県内の復興公営住宅でも孤独死した人がいる。

 決して人とのかかわりを嫌がる人たちではないんですよ。あるおばあさんがバス停で待っていたら、「この時間はバスは来ないよ」とタクシー代をくれた人がいた。そのお礼に魚を買って渡そうとしたけれど、名前がわからず、復興公営住宅をずっと探し回っているなんてこともありました。
 「仮設住宅の方がよかった」と言う人もいます。仮設住宅には花壇があって、花を仲立ちに会話が成立していたけれど、近代的な復興公営住宅はドアを閉めると会話を交わすきっかけがない。

――その背景には被災者と行政のズレがある、と金菱さんは考える。

金菱ゼミナールがある東北学院大学泉キャンパス
 女川の例では、復興公営住宅の入居者が抽選で決められ、隣近所が誰かわからないのです。行政の論理でいえば、早く住宅を建てて公平な抽選で入居者を決めることは公平で正しいのかもしれない。でも、被災者の目線からは必ずしもそうとはいえない。抽選は誰からも文句が出ない一見公平な方法ですが、地域のつながりを切り刻んでしまうことになるからです。
 行政もコミュニティーが大切だとわかってはいるのですが、お茶飲み会があればいいという程度の意識です。どうしても設備など住宅のハードの部分に対応が偏ってしまう。

――他方、被災者の視点に立って地域のつながりを保つ工夫をしている地域もある。被災地で最大規模の約1800人が集団移転した宮城県東松島市の「あおい地区」だ。

移転までに「井戸端会議」と呼ぶ住民によるワークショップを年間120回以上開き、まちの名前から住む区画の決定、まちの景観など、住民同士で話し合ってオーダーメードのまちをつくったのです。
 このようにハードの部分からではなく、ソフトの部分を大切にして、地域のつながりを断ち切らないやり方を今から検証しておく必要がある。私たちが被災地から学ぶことはたくさんあるのです。

取材を終えて
 金菱教授や学生たちの「死」をテーマにした研究を通して、私はむしろ「生」について考えさせられた。驚いたことに、幽霊や被災者は私自身の姿をもあぶり出した。身近な死者と向き合わず、他者に安易な共感を示して、それでよしとする自分。無責任に復興を語ってはいないか。突きつけられた問いは重い。やはり、幽霊はこわい。
(構成:平間真太郎)
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【かねびし・きよし】
1975年大阪府生まれ。関西学院大学大学院社会学研究科博士後期課程単位取得退学。社会学博士。現在、東北学院大学教養学部地域構想学科教授。専門は環境社会学、災害社会学。著書に『千年災禍の海辺学――なぜそれでも人は海で暮らすのか』(編著、生活書院)、『震災学入門――死生観からの社会構想』(ちくま新書)などがある。
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