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食べるしあわせ
フルーツをめぐる冒険 フルーツハンター
森川寛信
最終話 ドリアンをめぐる冒険㊦
ペナン島のドリアンツーリズム
 マレーシアが誇るドリアン天国といえば、この連載の第1話でも少し取り上げたペナン島です。ペナン島のドリアンの歴史をひも解いていくと、ドリアン天国たる所以は40年ほど前に遡るようです。当時マレーシア全土がドリアンバブルに沸き、次々と大規模なドリアンプランテーションが誕生しました。新興のプランテーションは、マイナーな品種のドリアンの代わりに人気品種の栽培に特化します。そこで、栽培面積では到底及ばないペナン島がとった戦略が、多品種ブランド化でした。

 東南アジア屈指のグルメタウンとしても知られるペナン。美味しいドリアンのためなら金に糸目をつけないペナン華僑は多く存在します。毎年ドリアンコンテストを開催し、有望な品種が次々とブランドとして確立されていきました。やがて、マレーシア全土でドリアンの供給過剰に陥り値崩れを起こした際も、ブランド化された多くの品種を有するペナンドリアンの価値が下がることはありませんでした。そうして、単一品種化されることなく長い時間をかけてドリアン名産地の地位を築いたペナン島には、樹齢の長い木も多く残っています。

100年を超える老樹のドリアン。果肉に皺が刻まれるのが特徴です


 美味しいドリアンの要素は、品種・鮮度・樹齢の3つです。ドリアンの名産地は多くありますが、この三拍子がペナン島ほど見事に揃っている場所を他には知りません。樹齢の長い木の果実は小ぶりになります。結果的に、小粒で新鮮なドリアンを多品種食べ比べるような楽しみかたが浸透していったのも、ペナン島がドリアン天国たる所以でしょう。

 ペナン島といえば、最近はアートの島として有名です。島の中心地で世界遺産でもあるジョージタウンにはインスタ映えするストリートアートが日々増殖し、週末になると自撮り待ちの行列が途絶えません。毎年8月には1ヶ月間にわたるアートイベント「ジョージタウン・フェスティバル」で盛り上がります。ジョージタウンで盛り上がるアートツーリズムに対して、ドリアンツーリズムの聖地はペナン島の裏山バリクプラウ。このエリアに点在するドリアンファームを軽やかにホッピングし、気に入ったファームに泊まり込むのが王道です。

 バリクプラウのドリアンファームの中でもひときわユニークなのが、グーグルマップでも特定不可能な山奥にあるグリーンエーカー・エコロッジ。ドリアンの木のツリーハウスに泊まれる体験は、世界でもおそらくここだけでしょう。ここのシグニチャードリアン(看板ドリアン)は「アンバッキア」という品種で、ローズミルクのような味わい。僕が最も好きな品種のひとつです。様々な品種を食べ比べに行ったつもりが、あまりに美味しくて1泊2日でアンバッキアだけを20個近く食べ続けてしまいました。

ローズミルク味の「アンバッキア」。1個1個は小さいので、いくらでも食べられます


 ちなみに、気になるお値段は1泊2万円で食べ放題込み。マレーシアのホテル相場は総じて安く、リッツカールトンですら1泊1万円で泊まれていたことを考えると高く感じるかもしれません。ただ、ペナン島のドリアンはキロ単価30リンギット(約800円)程度が最も多い価格帯です。2日で25キロ(といっても分厚くトゲのある皮も含みますよ!)食べれば、実質宿泊料はタダなわけですから、やっぱり1泊2万円はお買い得だと思います。

朝起きて散歩中に、樹上完熟して自然落下したドリアンを拾えるのは、ファームステイならでは!

オンリーワンなドリアンのツリーハウス。娘とのふたり旅で泊まりました


ウビン島の根比べ
 東はフィリピンのミンダナオ島、西はスリランカまで続くドリアンベルトの真ん中に位置するのはシンガポール。ところがシンガポール産のドリアンというものには、なかなか出会えません。シンガポールがマレーシアからパイプラインで水を輸入しているのは有名な話ですが、もうひとつマレーシアからの輸入に頼っているライフラインともいうべきものがドリアンです。シーズンになると、毎日のように国境の向こうのジョホールバルから朝採れドリアンが届きます。

 ドリアンは鮮度が命。このジョホールバルからの輸送時間すら惜しむドリアンラバーは、直接ジョホールバルのファームに出向きます。ジョホールバル産ドリアンに比べると存在感は希薄ですが、希少価値の高いシンガポール産ドリアンに出会うことができる数少ないスポットのひとつが、離島であるウビン島です。島内でドリアンの木が立ち並ぶ通称ドリアンストリートには、シーズンになるとフリードリアンを求めて100人を超えるシンガポーリアンが押しかけるそうです。僕がウビン島を訪れたのは、シーズンの終わりかけの7月下旬でした。早朝便でシンガポールに到着し、そのままフェリーに乗り換えてウビン島に直行します。既に何組かの先客が陣取って、採れたてドリアンを囲んでいました。

早朝から、フリードリアンが落ちてくるのを待ち構えるシンガポーリアン

 「これはペイシェントゲーム(根比べ)だ」と先客のシンガポーリアンは言います。でも、冷静に考えるとドリアンが最も落下する時間帯は朝4~7時頃と言われています。夜中のうちに落下したドリアンたちは、すでに早朝に到着した先客の皆さんが収穫済なのでしょう。思わず、「これは無理ゲーだ」と心の中で呟きました。

 手持ち無沙汰なまま1時間ほど待ったでしょうか。ついに、ドスンという音が森の中から聞こえます。このドリアン拾いゲームのルールは早い者勝ち。大急ぎで音がしたほうに駆け寄ると、小さなドリアンがひとつ転がっていました。ドリアンのヘタから滴る樹液は、新鮮さの証。小ぶりな果実は、老樹の証です。真っ白な果肉で粘り気が強く、スーパービターチョコレートとでも言うべき表現が相応しい、パンチのあるドリアンでした。おそらく何十年も前から手つかずの離島の山奥に自生していたのであろうこのような名もなきドリアンは、カンプンドリアンと呼ばれます。

「ドリアンを食べる」という体験
 ドリアンだけでなく、本来果物の味は木ごとに異なります。当然美味しい果実をつけるものもあれば、不味いものもある。美味しいものが選抜されて、栽培品種として伝播していきます。マレーシアでは猫山王、タイであればモントンを筆頭に、ドリアンの栽培品種は登録されているだけで500種をくだらないでしょう。ところが品種のよくわからないものが、マレーシアやインドネシアではカンプン、タイではバーン、フィリピンであればネイティブという名称で、こっそり流通します。

 旬の産地で猫山王の名札がついていれば、悪質な売人に騙されない限りはハズレる可能性は低いでしょう。でも、ドリアンを食べるということは、「次はどんな味かな?」というドキドキ感を含めての体験だと思っています。この体験に最も適していると僕が思うのは、カンプンです。

 ドリアン大国として有名なのはタイとマレーシアですが、生産量で言えばインドネシアには及ばないでしょう、なにせ国土が広いので。そして、マレーシアのドリアン天国ペナンとマラッカ海峡を挟んで向き合っているのが、インドネシアのドリアン天国メダンです。ペナンと距離も近く、おそらくは環境要因も似ているのでしょう。インドネシアで最も愛されるメダンドリアンは、モントンや猫山王のような品種名ではなく、メダンで採れた名札のないカンプンドリアンの総称です。

 濃厚なカスタードプディングのような、ピーナッツバターのような、ショコラのような、シャキシャキのリンゴのような、島バナナのような甘酸っぱく、はたまた酔っぱらいそうなぐらいアルクホーリックな……。一口にドリアンといえども、好きな味、嫌いな味がありました。ドリアンの魅力は、「この果物はこういう味だよね」という常識の枠を飛び越えた圧倒的な味の多様性。その魅力をとりわけ楽しむことができるのがカンプンドリアンであり、「裏ペナン」だと僕が勝手に思っているメダンなのです。

 あるとき100のリストを見返していて、「ブランデー味のドリアンを食べる」という一文を見つけました。よく考えてみると、僕はあまりお酒が飲めないので、上等なブランデーの味というのがどんなものかよくわかりません。でもきっと、もうとっくに食べてるんでしょう。そろそろこの一文にはチェックを入れてしまうことにします。(おわり)

【森川寛信公式ウェブサイト】
http://worldbeater.tv/

 ドリアン、ジャックフルーツ、ドラゴンフルーツなど、東南アジアを中心とした国々の、色鮮やかでおいしいフルーツの世界を紹介する連載「フルーツをめぐる冒険」は、今回で終わります。「新しい場所を訪れたら、まだ見ぬ新しいフルーツを探すことを欠かしません」と語る森川さん。きっとこれからも、世界のあちらこちらで珍しいフルーツとの出会いを重ねていくことでしょう。(編集部)
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【もりかわ・ひろのぶ】
1981年生まれ。大手ゲーム会社に勤務する傍ら、世界最古の球技「スポールブール」日本代表として、2005年から2013年まで5回連続世界選手権出場(2007年世界10位)。 「大きく学び、自由に生きる」がテーマの学び場「自由大学」にて、「じぶんスタイル世界旅行」の講義を担当するなど、10年以上にわたってパラレルキャリアを実践している。海外出張、スポールブール遠征、世界放浪、世界一周新婚旅行などで訪れた国は50カ国以上。
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