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食べるしあわせ
フルーツをめぐる冒険 フルーツハンター
森川寛信
第2話 王様になれなかったジャックの物語㊦
世界最大のコミュニケーションフルーツ

バングラデシュ人はジャックフルーツパーティーが大好き

 世界最貧国のひとつに数えられるバングラデシュ。ここではジャックフルーツは国果(くにか)と呼ばれています。現地のお宅を訪問したとき、特大のジャックフルーツを中央に据えて、近所の住民たちとともにもてなしてくれました。数えたことはありませんが、特大サイズのジャックフルーツには500粒もの果肉が詰まっているそうです。ひとりで食べる分量ではないので、当然みんなで囲むことになります。同じ釜の飯を食べた仲間ならぬ、同じジャックフルーツを食べた仲間。

 ダバオ(フィリピン)で参加したフルーツフェスで、世界各国から旬のドリアンめがけて集った30人近いフルーツラバー。そこでも主役のドリアンを差し置いて、テーブルの中心はジャックでした。美味しいジャックフルーツを手づかみでほおばる顔は、笑顔で溢れる。世界最大の木になるフルーツは、世界最大の気になるコミュニケーションフルーツでもあると思うのです。


パーティーの準備。食べやすく切られたジャックフルーツ


 その多くはヴィーガンでもあるフルーツラバーにとって、ジャックフルーツはオルタナティブミート(代替肉)としてなくてはならない果物。シドニーのヴィーガンシーンで流行っていたのは、「プルドポークバーガー」という名のジャックフルーツバーガーでした。調理された未熟なジャックフルーツは、豚肉を燻してほぐした「プルドポーク」にそっくり! まるで、アボガドに醤油をつけるとマグロの刺身に、薄くスライスしたココナッツの実に醤油をつけるとイカの刺身になるように。

どう見てもリアルミートにしか思えない! ジャックフルーツバーガー

 また、インドでは「プアマンズフルーツ(貧乏人の果物)」とも揶揄されます。安くお腹を満たしてくれるこの経済的なフルーツは、余すところなく食べることができます。そのタネは茹でると栗のよう。奇妙なゴツゴツした皮は表面を1ミリぐらい削って塩漬けにして揚げると、小腹を満たしてくれるスナックに変身します。まさに1ミリしか無駄のないフルーツ。ところが、インドでは商流や貯蔵方法が整備されていないがために、その75%が捨てられているとも言われています。最も無駄のないフルーツであり、最も無駄にされているフルーツでもあるという、なんとも不思議な果物です。

王様になれなかったジャックの物語
 マレーシアの首都クアラルンプールからドリアンの名産地パハンに向かう道中には、当然のように季節限定のドリアン屋が延々と連なります。ときたま、活気あふれるドリアン屋に混じって、どこかひなびたジャックフルーツ屋を見かけることがあります。透けて見える、売れるドリアンvs売れないジャックフルーツという構図。果物の王様と呼ばれるドリアンに対して、貧乏人の果物と呼ばれるジャックフルーツ。本来であれば、「世界最大」の肩書は、王様を冠する資格があるはずです。なんてかわいそうなジャック! いったい何が明暗を分けたのでしょうか。

裏返して天日干しされたジャックフルーツの皮が、ジャックフルーツ屋の看板



 一概にドリアンと言っても、実はその味は木ごとに異なります。美味しかったドリアンのタネを植えてみても、そのタネから育つドリアンの味は別物です。では、美味しかったあのドリアンを再現するにはどうするかというと、接ぎ木をして増やしていくしかありません。ひとたび誰かに見い出されて各地にコピペ(コピー&ペースト)されていったのが、タイの「モントン」やマレーシアの「猫山王」といった人気品種なのです。名もなきドリアンと比べて、場合によっては10倍以上の値札がつく「猫山王」はまさに王様。しかし、王様が君臨するその背景には、味の違いのわかる舌の肥えたドリアンラバーの存在が不可欠です。

 ジャックフルーツも同じように、木ごとに味が異なります。原産地と言われるインドでは、なんと数百もの品種があるそうです。しかし、よほどのフルーツラバーでない限り、ジャックフルーツの品種を気にする人には出会ったことがありません。そもそも味の違いとは比較することではじめてわかります。小粒な複数品種のドリアンを食べ比べるのは、ペナン島(マレーシア)の正しいドリアンの食べ方ですが、ジャックフルーツではそんなことはできません。なにせ、世界最大の果物ですから……。

 大きすぎて食べ比べができないので、味の違いがよくわからない。なので、味の差に付加価値を払うような熱狂的なファンが育たないのではないかと思うのです。つまり、ジャックフルーツは世界最大の果物であったが故に、果物の王様にはなれなかったのかもしれません。世界中でジャックフルーツを見かけるたびに、王様になれなかった残念なジャックの物語に思いを馳せてしまうのです。

【森川寛信公式ウェブサイト】
http://worldbeater.tv/
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【もりかわ・ひろのぶ】
1981年生まれ。大手ゲーム会社に勤務する傍ら、世界最古の球技「スポールブール」日本代表として、2005年から2013年まで5回連続世界選手権出場(2007年世界10位)。 「大きく学び、自由に生きる」がテーマの学び場「自由大学」にて、「じぶんスタイル世界旅行」の講義を担当するなど、10年以上にわたってパラレルキャリアを実践している。海外出張、スポールブール遠征、世界放浪、世界一周新婚旅行などで訪れた国は50カ国以上。
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