第1回 ヴェズレー「サント・マドレーヌ・バジリカ聖堂」(下)

「聖霊降臨」をテーマにしたタンパンのレリーフ
フランスの教会の名前は、聖人にちなんだものがほとんどです。そういえば、パリのシテ島にあるノートルダム大聖堂、モネが連作を描いたルーアンのノートルダム大聖堂などなど、あちこちで「ノートルダム」という名前の教会に出合います。
これは、「ノートルダム」=聖母マリアに捧げられた教会が多いから。聖母マリアは、どこの国でもダントツ人気なんですね。

ストライプ模様のアーチがある聖堂内部
ヴェズレーの教会は、聖母ではなく「聖マドレーヌ」に捧げられたものです。マドレーヌとは、聖書に登場するマグダラのマリアのこと。元は「罪深い女(一般に娼婦と捉えられています)でしたが、悔い改めてキリストに従い、その復活を証することになった重要な女性です。後に列聖され、聖女となった彼女の遺骨が収められている場所として、ヴェズレーは12世紀から多くの巡礼者を集めることになりました。
ところがその後、南仏の教会が「マグダラのマリアの遺骨があるのはこっち!」と言い始めたために、ヴェズレーの人気は凋落。荒れ果てて、すさんだ状態となってしまいました。その後、歴史的価値が認められて修復されたのは、19世紀になってからのことです。
さあ、いよいよ教会の中に入ります。迎えてくれるのは、入り口上部にある半円形の大きなレリーフに、中央で両手を広げたキリスト。これは「タンパン」と呼ばれる彫刻による装飾です。
通常は正面扉の上にあるだけですが、ヴェズレーでは内部にもうひとつの扉とタンパンがあるのが特徴。そのキリストの大きいこと! 使徒たちにパワーを送る姿には揺るぎない安定感があって、見ているこちらも勇気づけられます。衣のひだの表現がまた見事で、ふんわりとして軽やか。これを彫り込んだ職人たちの、どや顔が目に浮かぶようです。

有名な柱頭彫刻「神秘の粉挽き」
聖堂の中では、2色の石を使ったストライプ模様のアーチがさらに奥へと誘います。天上が高くて光がたっぷり。私は、もう少し暗めでほのかな光が感じられる教会が好きなのですが、ヴェズレーに関してはこれくらい明るくないと困るんです。というのは、柱頭彫刻もこの教会の大きな見どころだからです。
入り口から主祭壇に続く身廊と、その外側の側廊との間に連なる柱の上部には、「アダムとイヴ」をはじめとする聖書の物語が描かれています。アニメチックな悪魔も生き生きとして、豊かな表現力に脱帽です。
中でも有名なのが、「神秘の粉挽き」と題されるもの。左側にはモーゼ、右側には使徒パウロが配され、キリストの象徴である中央の粉引き器によって、旧約から新約へと受け継がれていることを表しているのだそうです。
大きな教会なので柱頭が意外と高い位置にあり、オペラグラスを持ってこなかったことが悔やまれました。なにしろ100本近くの柱があるので、少々首が痛くなりますが見応えは十分です。

眼下に広がるブルゴーニュの大地
ひととおり内部の見学が終わったら、外に出て教会の裏にまわってみましょう。テラスから見渡すと、眼下に広がるのはブルゴーニュの豊かな大地。この地方の特産である白いシャロレー牛の姿もちらほら見えます。
ブルゴーニュの赤とタルタルステーキにしようかな……早くも夕食に思いを馳せつつ、聖なる丘に別れを告げました。(つづく)
(写真:伊藤智郎、オフィス・ギア)