“ヨーロッパ最後の秘境”と呼ばれるジョージアで、現地の人びとと生活を共にしながら旅をしたERIKOさんの紀行エッセイ『ジョージア旅暮らし20景』。定住旅行家ならではの視点で“素顔のジョージア”を綴る新刊です。その刊行を記念して、ティムラズ・レジャバ駐日ジョージア大使とERIKOさんが対談。絶景やワイン、食、人々の温かさなど、日本での知名度も年々高まっているジョージアの多彩な魅力について語り合いました。レジャバ大使 今年2022年は日本とジョージアの外交関係樹立30周年です。この記念の年にジョージアの多様な魅力を紹介するERIKOさんの新刊が出て、とてもうれしいです。
ERIKO ありがとうございます。私はこれまで約50カ国で100以上の家族との暮らしを体験してきましたが、その中でジョージアは最も印象に残る国の一つだと言っても過言ではありません。でも、残念ながら日本ではまだまだ知られていないことが多い国でもあります。そこで、大使が日本人にまず知ってほしいと思うジョージアの魅力を教えてください。
レジャバ大使 とにかく面白いのは、面積はほぼ北海道と同じくらいで人口は400万人弱という小さな国なのに、気候帯の幅が広く自然環境が豊かなことです。コーカサス山脈が連なる山岳地帯もあれば、穏やかな黒海もあるし、首都・トビリシのような大都会もある。地域により多様な文化があるので、食やアクティビティなど多彩な楽しみ方ができます。また、ワイン発祥の地として昔から続くワイン文化があり、古くから“文化の交差点”と呼ばれるようにさまざまな国や地域の人たちが往来してきたことから、「おもてなし」の心が根づいています。ERIKOさんもジョージアに滞在して、ジョージア人のおもてなしの心を感じたのではないでしょうか?

首都・トビリシ

コーカサス山脈をのぞむスバネティ地方
ERIKO はい。そのとおりです。どこの家でも、「おもてなしすることが当たり前」という雰囲気で迎えてもらいました。ジョージアを訪れたとき、私はなぜか「すごく懐かしいな」と感じたのですが、それは、おもてなしの心とともに昔の日本を思わせる人びとの温かさがあったからだと思うのです。近代的な建物が並ぶ首都・トビリシに滞在中、電車にお年寄りが乗ってくると若者が一斉に立ち上がって席を譲ったりする風景をよく見かけました。
レジャバ大使 私も帰国するたびに家族や友人に温かく迎えてもらい、社会的なしがらみやストレスから解放される心地よさを感じています。ジョージア人はとにかく来客を大事にし、もてなすことが大好きな人びとなのです。一方で、ジョージアは多くの戦乱も経験してきました。複雑な歴史と環境の中で、ジョージアの人びとは自分たちの文字や言葉、アイデンティティーに誇りを持ち、自分たちの文化を大切にずっと守り続けようとしています。そうしたジョージア人の心に深く根づいているのが「スプラ」です。
ERIKO 私もジョージア滞在中に大規模なスプラに参加させてもらう機会に恵まれました。スプラは日本語で「宴会」と訳されることが多いのですが、にぎやかな飲み会というイメージではなく、「儀式」のような役割を果たしていると感じました。進行役の「タマダ」と呼ばれる司会者の乾杯から始まり、ジョージア料理の定番であるハチャプリや串焼き肉をはじめとするたくさんの料理が供されて、なんと12時間近く続きました。

スプラの様子

ジョージア料理の数々が並ぶ
レジャバ大使 それは素晴らしい経験をしましたね。スプラは参加人数や規模の大小を問いません。ワインとおいしい料理があり、その場に集った人びとが親しく交流できれば、それがスプラなのです。自分の家にお客さんが来ると、親戚や友人、ご近所さんに声をかけたくなり、みんな自然と集まってくる。そして手料理をつくってもてなし、一緒にワインを飲むのです。これからジョージアを訪れる人には、ぜひこのおもてなしの心にふれてもらいたいですね。
ERIKO ところで最近、日本ではジョージアの郷土料理「シュクメルリ」がブームですが、大使はどう受け止めていらっしゃいますか?
レジャバ大使 シュクメルリは強めのニンニクが決め手の、チーズたっぷりクリームシチューのような料理です。たくさんのジョージア料理がある中で、シュクメルリを日本の皆さんに気に入ってもらえたというのは正直なところ驚きでした。日本の外食チェーンが期間限定でメニュー展開したところ大ブームになったことは、ジョージアのニュースでも取り上げられました。
ERIKO ジョージア北部にあるラチャ地方の郷土料理ですよね。私はジョージア各地を旅しましたが、実は滞在中にこの料理を一度も食べませんでした。
レジャバ大使 そう聞いても驚きませんよ(笑)。私もジョージアでは1カ月に一度くらいしか食べませんでした。日本のお好み焼きと同じような位置づけかもしれません。関西の人にとってはポピュラーな料理ですが、関東の人にとってはそれほどでもないでしょう? だからシュクメルリがこれほど多くの日本人に受け入れられたことには、少しびっくりしています。日本人が外国に行って、寿司ではなく豚汁がものすごく流行していたら驚くと思います。なぜこの国ではこんなに豚汁が流行っているのか? なぜ寿司ではないのか、と。多くのジョージア人にとって、日本でのブームはそんな感じなのかもしれません。もちろんジョージア人の多くはシュクメルリが大好きですが、「何の料理がいちばん好きか?」と聞かれたらトップ5には入らないかもしれませんね(笑)
ERIKO 日本ではまずシュクメルリの人気が出ましたが、国民食ともいえるハチャプリや巨大な小籠包のような形をしたヒンカリなど、ジョージア料理はバラエティーに富んでいて豊か。ハーブやスパイスを多用するのも特徴で、日本人にとっては親しみやすい味だと思います。
レジャバ大使 料理を入り口にして、ジョージアという国に興味を持ってもらえたらうれしいですね。知識としてだけではなく経験にも結びつく食やワインは、ジョージアが誇るアピールポイントになると、私も日ごろから考えています。(つづく)
――新刊『ジョージア旅暮らし20景』の中で、ERIKOさんは現地の人びととたくさんの食卓を囲んでいます。地方色豊かな料理、人びとの笑顔、そしてジョージア人のアイデンティティーの一部とまでいわれるワイン。次回は、ジョージアの食とワインの魅力を深掘りします。お楽しみに。(構成:白田敦子)
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『ジョージア旅暮らし20景』

定価2,200円(税込)
“ヨーロッパ最後の秘境”と呼ばれ、今注目の国ジョージア。現地の一般家庭で生活を共にしながら、首都トビリシはもちろん、ジョージア人にとっても“秘境中の秘境”であるスバネティ地方まで、ほぼすべての地方を旅した定住旅行家・ERIKOさんの紀行エッセイです。壮大な景色やユネスコ世界遺産の建造物、素朴で温かな人々との出会いなど、“旅暮らし”だからこそ見えてくるジョージアの知られざる魅力を、豊富なカラー写真とともに紹介します。
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