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食べるしあわせ
対談:伝え残したい味を求めて 「職人醤油」代表 × 「酢飯屋」店主
高橋万太郎 × 岡田大介
第2回 型にはめず、新しい食文化を
 この10年ほどでのれんをおろした醤油蔵は300以上あるといい、家庭料理として受け継がれてきた郷土料理も徐々にその姿を消し始めています。そんな時代だからこそ、それぞれのプロとして取り組むべきこと、また、あらためて見直したいことがあるはずです。そこで対談の2回目では、各地に足を運んでその現状を目撃している立場で二人に話し合ってもらいます。

――醤油蔵や郷土料理が減り続けていることについて、どのように考えていますか?

高橋万太郎さん

高橋 僕が蔵めぐりを始めた13年前は全国に1560ほどあった醤油蔵が、今は1200蔵余り。醤油蔵は今後も間違いなく減っていくでしょう。ただ、僕はそれが正しいことだと思っています。

 理由は前回も触れましたが、これまで400以上の蔵を見てきて、残念ながらきちんと醤油と向き合っていない人がいる事実を知っているからです。そういう蔵が残り続けるくらいなら、いったんは淘汰されて言行一致で造っている人にスポットライトが当たるようになり、そこからまた広がっていくのが正しい姿ではないかと。

 では、残っていく蔵と職人の存在価値は何かといったら、やはり“個性”が重要なのではいでしょうか。日本人の平均的な味覚を満足させてくれる安価な醤油は大手メーカーがすでに造っていますから、そうではないもの。大げさに言えば「あの醤油がなかったら死んじゃう!」というくらい、大量生産はされないけれど個性の飛び抜けた新しい醤油がどんどん出てくればいいと思うんです。

岡田大介さん

岡田 もっと自由に、個性を前面に出した醤油が出てきてくれたら、僕のようにチャレンジ精神旺盛な寿司職人としては大歓迎ですよ(笑)。寿司も、江戸前寿司のような誰もが知っている一般化された寿司を皆が目指したら、それ以上の進化はないと思うからです。

 僕は、新しい寿司のあり方を考えるうえで、産地の食材を使い、地域で受け継がれている「郷土寿司」のような存在に関心を持ち続けることが大事だと考えています。食材を探し歩くたびに、いろいろな郷土寿司に出会います。
 各地域の食文化や特産物とお米を組み合わせた酸っぱいものが郷土寿司なのですから、昔からおばあちゃんが伝えているものでなくても、今の人が新しく考えてもいいのではないでしょうか。

 実は昨年、2つの新しい郷土寿司の創作に立ち会いました。場所は有明海を望む佐賀県藤津郡太良町。ここではコハダがたくさん捕れるのですが、現地の人はそれを生で食べるんですよ!

高橋 へえ、そうなんだ! コハダといえば、酢でしめて食べるものだと思っていました。どんな味がするのですか?

岡田 僕も初めて食べましたが、新鮮なコハダはアジとイワシの中間のような味で、すごくおいしい。「こんな食文化があったんだ!」と、寿司屋としてカルチャーショックを受けました。
 そこでコハダ漁師の奥さんたちに、「生コハダを寿司にして食べてください」と話して寿司の握り方教室を開きました。そうしてできた1つ目の郷土寿司が、生コハダを握る『竹崎コハダずし』。もう1つのチラシ寿司では、生コハダに合わせる具材を季節によって変化させることを提案。『太良四季彩ずし』と名づけました。

生コハダを握った『竹崎コハダずし』

季節で具材を変える『太良四季彩ずし』


――先入観にとらわれない、現場主義の岡田さんだからこそ生まれた郷土寿司ですね。

岡田 そうですね。海外での寿司の発展にも興味があります。たとえば、カリフォルニアロールは立派なアメリカの郷土寿司だと思うのです。ほかにもカップケーキに見立てたお寿司やスシブリトーといったものもあって、それは面白いことではないですか。日本の寿司文化が世界でどのような広がり方をしていくのか、楽しみにしているんです。

高橋 「カリフォルニアロールは寿司と認めない」という人もいるなかで、「むしろ海の向こうで別の進化を遂げてほしい」と言うのが、岡田さんのすごいところ。そこが、ほかのお寿司屋さんとは違うポイントなのでしょうね。

 醤油も、多くの造り手が岡田さんみたいな気持ちで造ってくれたらうれしいですね。そのためにも、若い人たちがもっと醤油業界に入ってこないといけないと思うし、さまざまな好奇心や感性を大事にして、「昔の醤油造りはこうだから」という既成概念を壊すぐらい強い意志を持って造ってほしい。そういう醤油が完成したとき、「僕が責任をもって流通させますよ」と言えたらカッコいいなと思います。

岡田 いいですね! 醤油も日本酒のように、毎年同じ味じゃないほうが楽しいし、自然なのかもしれません。料理人からすれば、醤油の味が変わるのは料理の味わいのレベルを一定に保つためにはリスキーです。でも、「去年と違うから買わない」ではなく、そこを逆手にとって「今年はこうきたか!」と、違いを楽しめる自分でありたいですね。

高橋 岡田さんのような料理人がこれから増えてくれば、個性豊かな醤油を造る循環が生まれると思います。

――醤油や寿司は日本の伝統的な食文化であり、どうしても「醤油、寿司とはこういうもの」という型にはめがち。だからこそ、変化を認め、受け入れる人がいれば、どこまでも豊かに広がる世界なのだとわかりました。最終回は、話をさらに深め、醤油と料理のおいしい関係を探っていきます。(つづく)

(構成:宮嶋尚美)

「赤身」と「白身」に合う醤油とは?
7月21日(日)、酢飯屋でイベント「一魚一醤」を開催



 特別対談で醤油と寿司について熱く語り合う高橋さんと岡田さん。醤油と寿司との相性を探る、食いしん坊の皆さん向けのすてきなイベントが実現します! ぜひご参加ください。

日時:2019年7月21日(日)午後12時~1時30分
会場:酢飯屋(東京都文京区水道2-6-8)
会費:6,000円(税別)
イベントの詳細および予約方法はコチラから

全国400以上の醤油蔵を訪ね歩いた“醤油のプロ”高橋万太郎さんが厳選した45蔵と「この1本」を紹介する

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【職人醤油―こだわる人の醤油専門サイト】 https://www.s-shoyu.com
【寿司・酢飯屋 公式サイト】 https://http://www.sumeshiya.com
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【たかはし・まんたろう × おかだ・だいすけ】
●たかはし・まんたろう 1980年群馬県前橋市生まれ。立命館大学卒業後、?キーエンスにて精密工学機器の営業に従事し2006年に退職。伝統産業や地域産業の魅力を追求していきたいとの思いから、180度転身して07年に?伝統デザイン工房を設立する。現在は、蔵元仕込みの醤油を「気軽に味比べして味わいの違いを楽しみ、醤油の奥深い世界への入り口にしてほしい」と、100ミリリットルの小瓶で販売する「職人醤油」を運営。自ら軽トラックを駆って、まだ見ぬ敬愛すべき職人とおいしい醤油を求め、全国の醤油蔵を訪ね歩いている。

●おかだ・だいすけ 1979年千葉県野田市生まれ。大学浪人中、母親の急死をきっかけに18歳で食の世界へ。地元の割烹料理店、東京・秋葉原の寿司店で修業し、24歳のときに独立。八丁堀の自宅マンションの一室で1日1組限定の寿司屋を開く。次第に自分が扱うサカナから野菜、調味料、器などの生産者や現場に興味を持ち、全国をめぐり始める。並行して、各地の郷土寿司にも関心を向ける。2008年、東京・文京区にカフェ・ギャラリーを併設する完全紹介制・完全予約制の「酢飯屋」を開業。日々、伝統と革新の寿司の道を究める。
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