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対談:伝え残したい味を求めて 「職人醤油」代表 × 「酢飯屋」店主
高橋万太郎 × 岡田大介
第1回 情熱とマメさが味わいを決める
 新刊『にっぽん醤油蔵めぐり』(高橋万太郎著)の刊行を記念して、特別対談を3回にわたってお届けします。日本各地の個性豊かな醤油と職人との出会いを重ねてきた高橋さんと、自身の寿司店「酢飯屋」で使う食材やその土地に伝わる郷土寿司を探し求めて全国に足を運び続ける岡田さん。伝え、残したい味を求めるお二人に、「自分の目で確かめること」へのこだわりについて語っていただきます。

高橋万太郎さん(左)と岡田大介さん


――高橋さんと岡田さんは、「現地に足を運ぶこと」にこだわっている者同士。まずは二人の関係から教えてください。

高橋 10年ほど前、ある書道の先生のお引き合わせで岡田さんと出会いました。当時は東京・八丁堀のマンションの一室で、1日1組限定のお寿司屋さん。それだけでも普通の寿司屋とは違うのに、聞いてみると食材へのこだわりも半端ではない。話すうちにすっかり意気投合しました。

岡田 万太郎くんは、今でこそ“醤油のプロ”として業界でも有名ですが、出会ったときは、まだ「職人醤油」を始めたばかり。それで、「どんな料理にどの醤油が合うんですか?」と相談されたのですが、僕も寿司のことしかわからなくて、ビシッと答えられなかったことを覚えています。ただ、当時から「この人は目のつけどころがすごいなあ」と思っていました。

醤油蔵の取材をする高橋さん

高橋 僕は自分の足で各地の醤油蔵を訪ね歩いて、必ず自分で造り手と醤油の味を確かめていますが、岡田さんも寿司に使う食材を求めて全国に足を運んでいると聞き、驚きました。きっかけは?

岡田 単純なんですよ。もう15年ぐらい前になるかな、魚についてきちんと知りたくなったんです。
 例えば、タコは何を食べているかが身の味わいの違いになる。明石(兵庫県)や佐島(神奈川県)のタコは豊富な甲殻類を食べ、三陸のタコは貝類を食べるといったように、ところ変わればエサも変わり、タコの味は産地によって異なるのです。醤油も同じですよね。

 そこでまず、あの8本足をどのように駆使してエサを捕るのか興味がわいて、産地に行ってみた。図鑑で見てもわからないし、水族館では触れませんからね。実際に潜ってタコをとってみて初めて、海中での生きざまから流通を経てまな板に乗るまでのタコが自分の中で一つながりになり、腑に落ちたような気持ちよさがありました。

高橋 全方位的にタコを知って、その後の寿司の握り方やつくり方が変わりましたか?

岡田さんは各地の市場にも頻繁に足を運ぶ

岡田 そうなんです! 僕が感じるあらゆる視点から見たタコというものを、握る寿司に落とし込めたいと考えるようになりました。だから、うちの店ではタコは握らないんです。

――えっつ!? タコを握らないとは????

岡田 タコはあの力強い食感と酢飯の一体感が味わいにくい食材。無理に一体化させようとして柔らかく煮たり切ったりすると、本来の味わいが損なわれてしまうと思ったのです。だからまず、タコだけを塩で味わっていただく。それを飲み込む直前に、酢飯を追いかけるように食べてもらう。そうすると寿司としての一体感が味わえるんです。
 タコと向き合ったからこそ、お客さんに提案できる食べ方です。

――それはすごいですね! 岡田さんは寿司の世界に独自のスタイルを築こうとしているように感じます。そんなふうに食材を訪ね歩くときは、あらかじめアポイントをとらず“飛び込み”なんですか?

岡田 かつては、旅先で運よくいい人に巡り合うと、「この人はいい人だな、この人から食材を手に入れたい」と思うことがよくありました。ところが経験と勉強を重ねるうち、人柄うんぬんというよりまず、「この人の食材はすごい!」と思わせる生産者と出会うようになった。
 残念ながら、必ずしも「いい人イコールいい仕事」ではないとわかってきたんです。それは漁師さんや野菜の農家さんも同様。やはり、お客さんに出すものを“情”では買えない。

 でも、知らんぷりしてお付き合いをやめるのは嫌なので、よりよいものに出会うと、それ以前の生産者さんに「これはおいしい、すごいんです!」とコメントを添えて現物を送るんです。よりよいものを知ってもらうことで、自分がつくるものへの姿勢を見直してもらえたらいいな、という願いを込めて。不思議と、ケンカになったことはありません。たまにプライベートで買いますからね(笑)

対談は江戸川橋にある酢飯屋にて

高橋 僕の場合は、初めての醤油蔵に行くときは必ず「見学させてください」と言うんです。全国の醤油蔵を400軒以上回るうちに、岡田さんと同じように“ちゃんとしていない”生産者も多いことに気づいた。
 だから、最初から「お取り引きしたい」という態度は見せず、行ってすぐに「ここは違うな」と感じれば、お礼を言ってそのまま一見学者として帰ります。実はそのような蔵のほうが、数としては断然多いです。

岡田 「ここは違うな」と感じるのはどういうとき?

高橋 う~ん、決まったパターンはないんですよ。まず、その人がどんなスタンスで醤油を造っているのか話を聞きます。
 ひとくちに職人さんといっても、醤油そのものが好きな人もいれば、醤油を造ることが好きな人、お客さんとのふれあいが大好きな人、地元愛にあふれて「地域の食文化としてこの醤油を守りたい!」と熱く語る人もいて、皆それぞれ違います。また、代々、蔵にすんでいる微生物と対話しながら造る人もいれば、諸味(熟成前の醤油)を最適に発酵させるため既存の製造設備に思いきり手を加えている人もいます。

 そんな中で僕が大事にしているのは、現場が聞いた話のとおりになっているか、いないか。言葉と現場の状況が一致していれば、「この人は信用できる」と思います。でも、「諸味の発酵が大事」と言いながら、蔵の中から嫌な臭いがしていれば諸味の管理がおろそかだということ。蔵が汚く雑然としていれば、醤油造りに向かう姿勢も自ずと想像できます。

和紙で丁寧に包まれたトリガイ

岡田 漁師さんも同じです。いくら魚や漁に対して情熱があり、勝負師的な読みや独特な漁法で新鮮な魚をとってくれたとしても、お客さんが口に運んだときにおいしくなければ意味がない。魚は、釣り上げたあとの扱いで大きく味が変わってしまいますから。

 逆に言えば、発泡スチロールへの収め方まで行き届いていれば、「この漁師さんは言行一致だ」と思う。最近びっくりしたのはトリガイ。濡らした和紙で1個1個丁寧に包んであり、鮮度が全く落ちていない。これは、流通の過程でいかにトリガイを傷めず優しく送ってあげられるのか、その漁師さんが研究しているからなのです。

 そうした手間を面倒と感じるか、そうではなく消費者の手元に渡るまで心を配ることができるか。その違いは、仕事に対する情熱とマメさだと思います。その両方があれば、必ず味にも反映される。万太郎くんや僕みたいにね(笑)。

――談笑しながら力まず淡々と話す口ぶりとは対照的に、お二人の仕事への情熱、醤油や素材に対する厳しい目といったものが対談冒頭から伝わってきました。次回は、次世代に伝えていきたい味について、それぞれの立場から語っていただきます。(つづく)

(構成:宮嶋尚美)

「赤身」と「白身」に合う醤油とは?
7月21日(日)、酢飯屋でイベント「一魚一醤」を開催



 特別対談で醤油と寿司について熱く語り合う高橋さんと岡田さん。醤油と寿司との相性を探る、食いしん坊の皆さん向けのすてきなイベントが実現します! ぜひご参加ください。

日時:2019年7月21日(日)午後12時~1時30分
会場:酢飯屋(東京都文京区水道2-6-8)
会費:6,000円(税別)
イベントの詳細および予約方法はコチラから

全国400以上の醤油蔵を訪ね歩いた“醤油のプロ”高橋万太郎さんが厳選した45蔵と「この1本」を紹介する

新刊『にっぽん醤油蔵めぐり』

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「新刊『にっぽん醤油蔵めぐり』はココが面白い!」では、新刊の魅力を紹介! 
※書籍の元になった連載「にっぽん醤油蔵めぐり」はコチラから、「職人醤油のつくりかた」はコチラからどうぞ

【職人醤油―こだわる人の醤油専門サイト】 https://www.s-shoyu.com
【寿司・酢飯屋 公式サイト】 https://www.sumeshiya.com
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【たかはし・まんたろう × おかだ・だいすけ】
●たかはし・まんたろう 1980年群馬県前橋市生まれ。立命館大学卒業後、㈱キーエンスにて精密工学機器の営業に従事し2006年に退職。伝統産業や地域産業の魅力を追求していきたいとの思いから、180度転身して07年に㈱伝統デザイン工房を設立する。現在は、蔵元仕込みの醤油を「気軽に味比べして味わいの違いを楽しみ、醤油の奥深い世界への入り口にしてほしい」と、100ミリリットルの小瓶で販売する「職人醤油」を運営。自ら軽トラックを駆って、まだ見ぬ敬愛すべき職人とおいしい醤油を求め、全国の醤油蔵を訪ね歩いている。

●おかだ・だいすけ 1979年千葉県野田市生まれ。大学浪人中、母親の急死をきっかけに18歳で食の世界へ。地元の割烹料理店、東京・秋葉原の寿司店で修業し、24歳のときに独立。八丁堀の自宅マンションの一室で1日1組限定の寿司屋を開く。次第に自分が扱うサカナから野菜、調味料、器などの生産者や現場に興味を持ち、全国をめぐり始める。並行して、各地の郷土寿司にも関心を向ける。2008年、東京・文京区にカフェ・ギャラリーを併設する完全紹介制・完全予約制の「酢飯屋」を開業。日々、伝統と革新の寿司の道を究める。
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