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食べるしあわせ
“旅のメニュー”ができるまで 『旅の食堂ととら亭』シェフ
久保智子
第2回 「わくわく」「ドキドキ」が料理の隠し味

 新刊『世界まるごとギョーザの旅』の著者・久保えーじさんの妻にして旅の相棒であり、料理人でもある久保智子さんに、2人の旅の裏話を聞くインタビューの2回目。今回は、旅先で出会った料理を日本で再現し、『旅の食堂ととら亭』でお客さんに提供するまでの準備の数々を紹介します。

――取材旅行に出る前には、あらかじめ郷土料理や名物料理をリストアップして、作りたい料理をイメージしておく。毎回毎回、入念な準備をして旅に赴く2人が現地のレストランでどのような取材をしているのかというと……。

 出てきた料理を写真に撮るのはもちろん、切り口を撮影したり、ひと口食べてから中身をほぐして何が入っているのかを探ったり……。もちろん、ちゃんと了解を得て撮りますが、お店の人には“変な人たち”って怪しまれているかもしれませんね(笑)。でも、それをしないと後で困るので、取材を重ねるごとにどんどんやることが増えてしまいました。そうそう、ノートにメモもしますよ。料理の全体像やパーツを絵とコメントで手書きしておくと、思い出すときに役立つんです。

「自分の手で書いたほうが記憶に残る」と話す智子さん
――久保さん夫婦にとって、レストランでの食事はあくまでも料理を作るための大切な取材。だから、帰国してから料理を再現する際のことを常に考えている。味を覚えるまで毎食、同じ料理を食べ続けるという徹底ぶりだ。それでも、思わぬところで料理の再現に苦労することはたくさんある。

 2016年7月の「エチオピア料理特集」で苦労したのが、料理の隠し味ともいえるスパイスです。チキンとゆで卵を煮込んだドロワットには、バルバレという唐辛子ベースのミックススパイスが欠かせません。店で料理を出すためには、日本でも手に入る香辛料を使ってその味を再現する必要がありました。大まかなレシピ情報と現地で購入した見本のミックススパイスを使って配合を割り出したのですが、オリジナルと比べて調整しようとしても、時間の変化などによっても微妙に味が変わってしまうため、納得の味に近づけるまでが本当に難しかったですね。

チキンとゆで卵を煮込んだ「ドロワット」
――旅先で出会った料理の再現レシピは80以上、という久保さん夫婦。そんな2人が追いかけ続けているのが、“世界のギョーザ”だ。ギョーザのルーツを探す旅の模様は、えーじさんが執筆した単行本『世界まるごとギョーザの旅』に詳しく書いてあるが、その旅の成果として、ととら亭の“旅のメニュー”にも世界各国のギョーザはこれまで何度も登場。多くのお客さんがその味を楽しんでいる。

 ギョーザであれば「皮で具を包む」という基本的な作り方はわかっているのですが、それでも4回くらいは試作しますね。レシピ自体は再現できても、実際にオーダーが入ってから最低でも20分以内にお客さまに提供できるように、調理工程にも工夫が必要だからです。

――ギョーザで4回となれば、見慣れない料理の場合はさらに試作の回数が増えるはず。アイデアが出尽くしても、現地で食べた味が再現できずに行き詰ったことも何度かあるという。そういった努力の中から生まれた料理の筆頭が、ヨルダン料理のマンサフ。実はこれ、えーじさんのインタビューでも登場した因縁の品だ。

 マンサフは、ヒツジやチキンをヨーグルトで煮る料理なのですが、その際、ヨーグルトを分離させてはいけないんです。でも一体、どうすれば分離させることなく肉を煮ることができるのか? 何度も何度も失敗を重ねたけれど、ある日、ほかの料理を作った経験からとっておきの秘策が思いついたんです! あのときは「私、偉い!」って、思いっきり自分を褒めてあげましたね(笑)。レシピが完成したときの感動があるからこそ、今まで続けてこられたのかもしれません。

――「もちろん、お客さまの喜ぶ顔には本当に励まされます!」という智子さん。さまざまな試行錯誤があって完成する料理の再現を、心から楽しんでいるように見える。そんな作り手のピュアな「わくわく」「ドキドキ」が、ととら亭のおいしい料理の隠し味。最終回はととら亭ができるまでと、これからについて聞きます。

(構成:山下あつこ)

※WEB連載原稿に加筆してまとめた単行本『世界まるごとギョーザの旅』が絶賛発売中です(発行:東海教育研究所、発売:東海大学出版部)。
WEB連載「世界まるごとギョーザの旅」はこちらをご覧ください。えーじさんのインタビュー記事「旅の食卓から世界が見える」はこちらをご覧ください。



【「旅の食堂ととら亭」のホームページアドレス】
http://www.totora.jp/
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【くぼ・ともこ】
1970年群馬県高崎市生まれ。食品成分分析会社、求人誌営業を経て料理業界へ転身。フランス料理、ドイツ料理のレストランで修業した後、夫にして旅の相棒でもあるえーじとともに、2人が旅先で出会った感動の味を再現した“旅のメニュー”を提供する『旅の食堂ととら亭』を2010年に開業。旅の料理人となる。見かけは地味だが、スリルとサスペンスに満ちたジリ貧の旅を好む。特技は世界中どこでも押し通す日本語を使った値切り。
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