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食べるしあわせ
世界まるごとギョーザの旅 「旅の食堂ととら亭」店主
久保えーじ
最終回 行ってみなければ分からない~ドイツのマウルタッシェ~⑤

※WEB連載原稿に加筆してまとめた単行本『世界まるごとギョーザの旅』が絶賛発売中です(発行:東海教育研究所、発売:東海大学出版部)。



 さて、いよいよディナー。入ったのは郷土料理が楽しめるタヴァーンと呼ばれる居酒屋。半地下のワインセラーを改造した古めかしい作りです。ちょうど季節だったリンゴの地酒アプフェルヴァインを飲みつつメニューを選びましょう。

「注文は予定通り、ザワーブラーテンとマウルタッシェでいい?」
「私、もうひとつ確かめてみたい料理があるの」

「シュペッツレ」は南ドイツの郷土料理。見た目はショートパスタかニョッキのよう
 智子が追加したのはシュペッツレ。ドイツ風のパスタです。卵、小麦粉、塩をやや緩めに溶き、まな板に広げた生地をスクレイパーで沸騰した湯の中にこそげ落として作る料理。
 味はともかくとして、見た目はともすれば失敗したパスタの残骸と見紛いかねないもの。ととら亭で何度かガロニに出してみたのですが、「何これ?」とお客さまが怪訝な顔をしたことがありました。確かにこれもオリジナルを確認しておきたいですね。

 そしてドイツのギョーザのマウルタッシェ。形は一辺が8センチから12センチくらいの四角か三角形。卵が入った小麦粉の生地にひき肉、ソーセージ、玉ねぎ、ほうれん草、パン粉、パセリやブラックペッパー、ナツメグをこねて包んだもの。茹でたスープ仕立ての他、オーブンで焼いたものなど、形も含め、様々なバリエーションがあります。

ドイツ版ギョーザの「マウルタッシェ」
 これはイタリア北部からラビオリがドイツの南部シュヴァーベン地方に伝わり、そこで独自に進化したものだと言われています。ドイツ語でマウルは口、タッシェは袋の意。
 一説によると、キリスト教の戒律で質素な食事が義務付けられている洗足木曜日や聖金曜日でも、小麦粉の袋で肉を隠してしまえば、神様だって気付くまい! そう考えた食いしん坊の修道士の作だそうな。

 智子が習ったのは扇形に整形し、茹でた後でチーズをのせ、オーブンで焼いたタイプ。彼女が働いていたドイツ料理レストランではシュペッツレと並んでポピュラーな一品です。運ばれてきたマウルタッシェは茹でてから焼いたタイプで、形は三角形をしており、バルサミコソースが添えられていました。

「どうだい?」
「シュペッツレはまったく一緒だよ!
 マウルタッシェの方は形が違うけど・・・。へぇ~・・・味は同じだ」
「さすがは本家、両方とも美味しいね。
 僕も覚えているよ。これは前に君が作ってくれたものとそっくりじゃないか」
「シェフはオリジナル通りのレシピを教えてくれたんだ・・・」
「いい先生に習えたんだね」

 8年の時を経て、生まれ故郷のドイツで再会したマウルタッシェとシュペッツレ。それは東京で出会った時と変わらない味でした。

ドイツのギョーザ 「マウルタッシェ」
 ドイツを訪れた際、フランクフルトに住むドイツ人の友人とフランケン地方のヴュルツブルグへ行きました。そこで入ったレストランのメニューを見た友人がクスクス笑っているので理由を訊いてみると、メニューの言語がドイツ語ではなく、ドイツ南部で使われているフランケン語なんだとか。歴史を遡ればこの国も複数の民族が寄り添って成り立ったことが分かります。その地域差がこのマウルタッシェにも表れており、同じ南部のシュヴァーベン地方でさえ、それぞれの街に微妙な差のあるバージョンがあるようです。
 ご来店されたドイツ人の方に訊いたところ、ととら亭で出していたオーブンで焼くタイプもポピュラーだと言っていました。いつか食べ比べに行きたいですね。

【「旅の食堂ととら亭」のホームページアドレス】
http://www.totora.jp/
※写真はすべて筆者提供
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【くぼ・えーじ】
1963年神奈川県横浜市生まれ。ITベンチャー、商業施設の運営会社を経て独立。「旅の食堂ととら亭」代表取締まられ役兼ホール兼皿洗い。20歳のころからオートバイで国内を旅し、30歳からはバックパッカーに転身。いつかはリッチな旅がしたいと常に夢見ているが、いまだ実現していない。特技は強面の入国審査官などの制服組から笑いを取ること。妻・智子(ともこ)は1970年群馬県高崎市生まれ。食品成分分析会社、求人誌営業を経て料理業界へ転身。フランス料理、ドイツ料理のレストランで修業し、旅の料理人となる。見かけは地味だが、スリルとサスペンスに満ちたジリ貧の旅を好む。特技は世界中どこでも押し通す日本語を使った値切り。
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