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食べるしあわせ
世界まるごとギョーザの旅 「旅の食堂ととら亭」店主
久保えーじ
第1回 ギョーザを巡る旅のはじまり ~トルコのマントゥ~①

※WEB連載原稿に加筆してまとめた単行本『世界まるごとギョーザの旅』が絶賛発売中です(発行:東海教育研究所、発売:東海大学出版部)。



「旅をしている時が人生の中でいちばん幸せ。食べている時が人生の中で2番目に幸せ」と話す久保えーじさん&智子さん夫婦が考えたのが、「どうにかして旅を仕事にできないか?」という小さな夢。そこから行き着いたのが、西武新宿線「野方駅」徒歩1分の場所にある『旅の食堂ととら亭』です。この店のコンセプトは、2人が旅先で出会った各国の料理を再現し、現地で感じた「これ、おいしいねぇ!」という経験を皆とシェアすること。2010年のオープン以降、再現したメニューは80以上。そんな久保さん夫婦が旅のテーマの一つと定めている“世界各国のギョーザ”をめぐるお話です。


アジアとヨーロッパの接点・イスタンブール
 ととら亭の仕事は世界の料理をアレンジせずに紹介すること。そのため、料理探しと調理研修で年3回は外国に行っていますが、店を開業する前から旅先での食事は大きな楽しみでした。会社員の頃、休暇を取って海外旅行に行く時も、まず調べるのは有名観光地の情報より、その土地の名物料理。自ずと選ぶのは美食で知られる国が中心となっていたのです。そんな僕たちが独立前の2007年2月に選んだ行き先は・・・

「トルコ料理って世界3大料理のひとつらしいよ」
「そうなの? 中華とフレンチ・・・それからイタリアンだと思ってたわ」
「このまえ調べてみたんだけどさ、イタリアではなくトルコが入ってるんだ」
「へぇ~。でも、代表的な料理って何かしら?」

 そこでインターネットや料理本を調べてみると、思いのほかトルコ料理は種類が多く、有名なケバブだけでもドネルケバブの他に、スパイシーなソースで煮込んだイスケンデルケバブや、挽肉で作ったアダナケバブなどもあることが分かりました。
 また、イタリアのピッツァとの近縁関係をうかがわせるピデの他、驚いたことに、マントゥと呼ばれるトルコ版のギョーザまであるとは。その説明文によれば、醤油ではなく、ガーリックヨーグルトとミントを添えて食べるそうです。一体どんな味がするのでしょう。

 そうして期待を膨らませた僕たちが訪れたのは、歴史の教科書でしか知らなかったイスタンブールとキノコのような奇岩で有名なカッパドキア。軽いトレッキングや街歩きでお腹をすかした後は、いよいよ目星をつけていた料理を探しに出発です。

トルコの大衆食堂・ロカンタ
 美味いローカル食堂を見つけるコツは、繁華街の脇道か裏道を探すこと。表通りで英語や日本語のメニューを貼り出している場合は、観光客相手のところが多いのですが、路地裏にあって地元の人で賑わっている店であれば、大抵満足の行く料理に出会える筈です。もうひとつ確実なのは、宿のフロントでこちらの好みを伝え、お勧めのレストランを紹介してもらうこと。ある程度の会話力が求められますが、英語が殆ど通じない国でも外国人が泊る宿のスタッフとなら、これくらいのコミュニケーションはどうにかなるものです。

 ちなみに昨今はインターネットで色々な情報を検索できますけど、僕の経験からいうと、ネットの情報の確度はお世辞にも高いとは言えません。自分の足を使い、相手の顔を見て得た情報の方が格段に信用できるものです。トルコのように外国人に対してオープンな国では、こんなちょっとした会話が友だちを作るきっかけにもなります。

 それにしてもトルコで驚いたのは、やや高級なレストランだけではなく、気軽なローカル食堂や屋台で食べてもハズレの店がなかったこと。あくまで個人の好みにもよりますけれど、こうした国は、56ヵ国以上を食べ歩いた今でも、メキシコとイタリア、そしてトルコ以外にはありません。

上:ロールキャベツの元祖といわれるサルマ
下:ドルマ(右)
 メニューが読めない状況での食べ歩きには、ロカンタと呼ばれる大衆食堂がとても重宝しました。店の入り口付近には、ドネルケバブの回転ロースターの他、バットに入って保温されたロールキャベツの元祖と云われるサルマや、ナスやトマトに挽肉を詰めて煮込んだドルマ、スパイシーな煮込みミートボールのキョフテなどが並んでおり、注文はそれを指差すだけ。料金は分かり易い前払い制。

 料理が盛られた皿を持って席に着くと、そこにはトルコのパン、エキメッキがバスケットに盛られていて食べ放題です。ロカンタではその定番料理の他に試してみたいのが、キャベツではなく、ブドウの葉で具を巻いたサルマのバリエーション。独特の酸味があり、やや玄人向けですが、この料理はバルカン半島からアラビア半島、遠くはコーカサス地方まで広く食べられており、オリジナルを味わっておけば、その後の旅で、伝播したサルマとの比較が楽しめるでしょう。

 こうした、ある意味、世界規模の食べ比べは誰もが参加できる面白さがあります。例えば、日本のロールキャベツとトルコのサルマ。見かけは殆ど同じですけど、すぐに気付くのは香りの違い。日本の家庭では、ブラックペッパーの他に、お洒落な方はローレルを入れるかもしれません。洋食店やフレンチレストランではフレッシュのタイムも使います。しかしサルマの香りのベースはクミンなのですよ。そして具には肉の他に米もたっぷり入っています。ですから少々大き目なサルマを食べても、お腹がもたれないのですね。

上:洋風炊き込みご飯のピラフの元祖と目されているピラウ(左)
下:レンズ豆のスープ・レンティル
 またエキメッキの他にご飯を選ぶのも一興です。トルコのボスボラス海峡はアジアとヨーロッパの境界のひとつ。遠く離れていてもトルコ人は僕たちと同じように、米も主食のひとつとする民族であり、いわゆる「ご飯とおかず」式の食事スタイルを持っています。
 ですからロカンタの料理は自ずと、どれもご飯と相性がいいのですね。違いはそれが白飯ではなく、ピラウというシンプルなバターライスであること。これは日本の喫茶店でよく見かける、洋風炊き込みご飯のピラフの元祖と目されています。それから、もし選んだ料理が汁気の少ないものでしたら、素朴なレンズ豆のスープのレンティルもいいですね。トルコの飲食店では、どこででも見かける味噌汁的なスープ。安いものですが、レモンを絞ると旨みと酸味が調和して絶品です。(つづく)



【「旅の食堂ととら亭」のホームページアドレス】
http://www.totora.jp/
※写真はすべて筆者提供
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【くぼ・えーじ】
1963年神奈川県横浜市生まれ。ITベンチャー、商業施設の運営会社を経て独立。「旅の食堂ととら亭」代表取締まられ役兼ホール兼皿洗い。20歳のころからオートバイで国内を旅し、30歳からはバックパッカーに転身。いつかはリッチな旅がしたいと常に夢見ているが、いまだ実現していない。特技は強面の入国審査官などの制服組から笑いを取ること。妻・智子(ともこ)は1970年群馬県高崎市生まれ。食品成分分析会社、求人誌営業を経て料理業界へ転身。フランス料理、ドイツ料理のレストランで修業し、旅の料理人となる。見かけは地味だが、スリルとサスペンスに満ちたジリ貧の旅を好む。特技は世界中どこでも押し通す日本語を使った値切り。
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