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美しいくらし
寺田直子の旅道具 トラベル・ジャーナリスト
寺田直子
最終回 旅の記録はかけがえのない記憶
 トラベル・ジャーナリストで『フランスの美しい村を歩く』の著者・寺田直子さんから愛用の「旅の七つ道具」を聞き出す連載も、好評のうちに最終回を迎えました。締めくくりは、旅の記録ツールについて。もう夏休みを楽しんだ人も、まだまだこれからの人も、ぜひご参考に。この夏はきっと皆さんにとって、かけがえのない記憶になりますよ。


 最近はブログだけでなくインスタグラムなどSNS(ソーシャルネットワーク)で旅情報を共有する時代。旅の記憶を文字どおり「どうメモリーするか」は欠かせません。

 まずはカメラ。今ではi-Phoneだけでも写真撮影は十分すぎるほどのハイクオリティーですし、荷物の軽量化のためにはコンデジ(コンパクトデジタルカメラ)でも全く問題ありません。ただ、私の場合は仕事柄ということもありますが、持参するのは一眼レフのカメラ。現在の愛用機はニコンD5300というもので、一眼レフとしては比較的軽いので重宝しています。なぜ、一眼レフにこだわるかといえば、「写真を撮る」という行為そのものを楽しみたいという点があります。状況が許せば、マニュアルであれこれ考えながら撮影するのは旅の一つの喜び。感動的な風景の前に自分らしい決定的瞬間を切りとることができます。じっくり狙いたいときは、時間をかけてワンカットずつを大切に。そして、自然風景や動きの速いものと出会った際は連写で追いかける。このように、ひと手間かけた写真は普段の記念写真よりも思い出に残るだけではなく、旅のエッセンスを閉じ込めた記録でもあります。

 2年前の秋、一人でレンタカーを借りて北海道を旅していたときにクマと遭遇するというハプニングがありました。道を間違えたことに気づき、引き返そうとゆっくりと山道を進んでいるときの出来事でした。数百メートル先にポツンと黒い影。「ん?」とブレーキを踏んで停止。すると黒い物体が動き出し、目が合う。「クマぁ!?」と思っていたら、なんとダッ! とクマがこちらの車に向かって全力でダッシュする姿が視界に飛び込んできたのです。車の中とはいえ、かなりやばい状況。素早く車をUターンさせるべきなのですが、私の左手は、なぜか助手席に置いてあったカメラに伸びていたのでした。

 車を運転するときも常に助手席には、電源をオンにしたままフル充電された愛機を置いています(もちろん走行中の撮影はしません)。視線は前に向けたまま左で確実にカメラのボディをつかみ、瞬速で連写をしたかと思うとカメラを放り投げて一気にシフトをリバースに入れてハンドルを切る。来た道を全力で逃げるように走りながら、ちらりとミラーを見ると、車の音に驚いたのか脇の茂みに走りこむクマの姿。無事にその場から離れた後、あらためて画像を見ると、ピンボケながらこっちに向かってくるクマが見事に写っていました。まあ、2度と遭遇したいとは思いませんが、決定的なシャッターチャンスを我が一眼レフ君は与えてくれたわけです。

 もう一つの旅の記憶ツールは、意外かもしれませんがメモ。ステーショナリー好きにはおなじみですね。私は、モレスキンかロルバーンのバンド付きのノートを愛用しています。ここに日付を入れて、印象に残ったことや購入したものの料金などを走り書きしていきます。これがのちに記憶があいまいになった際に、とても役立ちます。ブログなどを書いている人にもお薦めしたいです。i-Phoneで撮影しておくという手段もありますが、後で探すのが思っている以上に手間がかかる。日記形式で書いたメモのほうが瞬時にわかって便利です。加えて緊急連絡先や滞在ホテルの住所や電話番号など、とっさに必要になる情報も書き込んでおきます。i-Phoneを紛失したりバッテリーがなくなったなどの場合に本当に助かります。
 それに加えてモレスキンのフォルダースタイルのノートも。こちらにはレシートやいただいた名刺、あるいは記念に買った切手や地元の新聞から切り取った情報など。細かな資料を入れていきます。

 ネット環境がよくなったことで、海外旅行の利便性はさらに増しています。それを享受するのは旅行者として当然のこと。でも、そんな今だからこそややアナログな記録&記憶のスタイルがほかにはない自分だけの旅になるように感じます。旅先で出会い、写真を送る約束をした人がノートに書いてくれた直筆の名前と住所。あるいはおいしかったレストランでもらった手書きのレシート。それさえも、愛おしくかけがえのない旅の思い出になるはずです。

【写真提供:寺田直子】 

【寺田直子のハッピー・トラベルデイズ】
http://naoterada.exblog.jp/

※WEB連載原稿に加筆してまとめた寺田直子さんの旅行エッセイ(『フランスの美しい村を歩く』を好評発売中です(発行:東海教育研究所、発売:東海大学出版部)。WEB連載「いつか訪ねたい世界の美しい村」はこちらをご覧ください。
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【てらだ・なおこ】
トラベルジャーナリスト。東京生まれ。日本及びシドニーでの旅行会社勤務を経て、フリーランスライターとして独立。旅歴約40年。訪れた国は約100カ国。ホスピタリティビジネス、世界の極上ホテル&リゾートに精通。雑誌、週刊誌、ウェブ、新聞などに寄稿するほか、ラジオ出演や講演など多数。豊富な取材経験を活かし、インバウンドを含め日本の地方の活性化、観光立国化に尽力、関連セミナー、ワークショップ、講演などに登壇するほか、山口県観光審議委員(~2017)、青森県の観光アドバイザーを務める。2013年、第13回フランス・ルポルタージュ大賞インターネット部門受賞。JATA ツアーグランプリ審査員(~2018)。Yahoo!Japan ニュース・エキスパートとして「サスティナブル」「レスポンシブル・ツーリズム」を軸に最新の旅トレンドを発信中。著書に「ホテルブランド物語」(角川書店)、「ロンドン美食ガイド」(日経 BP 社 共著)、「イギリス庭園紀行」(日経 BP 企画社、共著)、「泣くために旅に出よう」(実業之日本社)、「フランスの美しい村を歩く」(東海教育研究所)など。「ホテルブランド物語」は韓国で翻訳出版され、ホテリエたちの教本的存在になる。現在、東京都・伊豆大島を拠点に執筆のかたわら古民家カフェ Hav Cafe を運営。
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