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宮城県の東北学院大学は、東日本大震災直後から被災地・東北の大学として多様な活動を続けてきた。2012年に同大学が創刊した『震災学』刊行に込めた思いを聞いた。(2012年11月号掲載)

震災は繋がっている

――『震災学』創刊のいきさつから教えてください。

 東北の大学として、学生たちも被災体験をした震災にどのように向き合っていくべきか――。それが、震災直後から私たちに突きつけられていた課題でした。「震災学」という学問はもちろん存在しません。しかし、さまざまな学問分野を横断した具体的な視点を社会に示していくことが、これから震災を考え、被災地を見つめていくうえでの羅針盤になるのではないか。学生のボランティアとともに被災地に通って、人々の話を直接聞くうちにそんな考えに至りました。
被災地から離れた首都圏や関西圏では、時間が経てば被災地の現実は忘れられていくでしょう。それは仕方がないのかもしれない。でも、そのスピードをできるだけ緩やかにしなければならないという思いもありました。
だからこそ『震災学』は、雑誌という形にこだわりました。大学の出版物だからといって、論文集や研究紀要にはしたくなかった。多くの方に手に取ってもらうために、書店に並ぶ雑誌を作りたかったのです。
もうひとつ大切にしたかったのは、『震災学』は地元で活動する出版人とともに作りたかったことです。
二〇一二年一月、震災以降の出版活動によって、仙台の出版社・荒蝦夷(あらえみし)が全国の出版社の団体が表彰する梓会出版文化賞を受賞したことを知りました。それが代表の土方正志さんに刊行を相談するきっかけになりました。

――『震災学』では、震災以降のボランティアについての多くの報告がされています。また、ジャーナリストや作家、宗教者のほか、阪神・淡路大震災を経験した関西の研究者からの寄稿もあります。

 昨年の六月、東北学院大学と河北新報社の連携事業で「復活と創造 東北の地域力」と題したシンポジウムを行ないました。
『震災学』の巻頭にも掲載した基調講演で、阪神・淡路大震災を体験した経済評論家の内橋克人さんはこう語っています。
〈阪神・淡路大震災の際は発生直後からボランティアの方々が駆け付けてくださったけれども、公的支援制度は何も整備されていませんでした〉
内橋先生が語った十七年前の震災の問題は、私にこんな思いを抱かせました。東日本大震災における問題もここに連なっている、と。
今回の震災でもボランティアが有効に機能してきました。それは、阪神・淡路大震災で生まれて、継続されてきた動きといえます。
東北学院大学では、震災発生直後から学生会が独自に学生の安否確認を始めたり、個々の学生たちが自転車に荷物を積んで沿岸部に物資を届けたり、あるいは大学の事務スタッフが、仙台市社会福祉協議会の「災害ボランティアセンター」を通して、首都圏からやってくる学生ボランティアの受け入れを始めていました。
支援活動をはじめた学生たちの安全を確保するためにも、早急に枠組みを作り、組織的に対応する必要に迫られていました。「災害ボランティアステーション」の開設は、三月二十九日です。直後にボランティア登録した学生は、千五百人に上りました。
発生から三週間足らずで発足した組織でしたが、もしも平時だったなら、大学内に新たな組織を立ち上げるための手続きや準備などで一年は要したはずです。
震災からしばらくは、ボランティアの仕事のほとんどが瓦礫撤去でした。地元の学生だけではなく、首都圏や関西から来た学生たちも「災害ボランティアステーション」を通して、被害のひどい沿岸部に向かい、この作業にあたりました。

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ささき・しゅんぞう 1947年東京都生まれ。上智大学文学部卒業、東北大学大学院文学研究科博士課程修了。専攻は哲学。
 
東海教育研究所
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