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子どものこれから
アンズのワンダーランド! 画家
蟹江 杏
第2回 “アートのもつ力”を信じて~東京・新宿編~
 東京・新宿にあるJRの高架橋、「大ガード」。ガード下の壁に昨秋、鮮やかな色づかいの大きな壁画が現れた。版画家の蟹江杏さんが子どもたちと一緒に描いた大作だ。東日本大震災をきっかけに“アートの持つ力”を信じ、探している杏さん。新宿・歌舞伎町で多くの親子連れと一緒に絵を描きながら、ある感情にとらわれたという。

――杏さんは、毎月のように個展を開催する多忙な創作活動のかたわら、「NPO法人3.11こども文庫」の理事長を務めている。絵本やアートを通じて福島県相馬市の子どもたちの元気を取り戻し、創造力、表現力を伸ばしてあげたい」との思いから始まった活動は広がり、昨夏には新宿・歌舞伎町で「子どもが描く大壁画! ライブペインティング」も実現した。

 この子ども向けアートイベントは、昨年8月22日から9月7日まで開催された新宿区主催の「新宿クリエーターズ・フェスタ」の一環として完成したものです。イベントでは相馬の子どもたちの絵の展覧会やアート体験ワークショップなども開催しました。「子どもが描く大壁画!」は、歌舞伎町で建て替えが進んでいた旧新宿コマ劇場の建築現場の仮囲いを利用したもの。高さ約3.5m、幅約20mもの大きなキャンバス2枚に、400人もの親子と一緒に6時間がかりで描きました。 相馬の子どもたちが絵を描きながら悲しい体験やさまざまな苦労を乗り越え、強い心を育んでいく姿を見守りながら、私自身も元気づけられました。同時に、悲しい経験や苦しみ、悩みは、被災地の子どもたちだけの問題ではないと感じています。都会っ子にも、絵を描くことや、創造し表現することの楽しさをもっと知ってもらいたい。“アートの持つ力”で、もっと元気になってもらいたいんです。

 実際に絵を描きながら子どもや母親と触れ合ううちに、あることに気づきました。それは、「相馬の子どもたちより、もしかすると新宿の子どもたちのほうが傷ついているのではないか」ということです。

――イベントに参加した親子の中には、母親の仕事の都合で昼夜逆転の生活を送っている子どもも多くいたという。東京でも、もっとできることがあるではないか。杏さんはそう考えた。

杏さんがプロデューサーとして参加した「新宿クリエイターズ・フェスタ2014」発表記者会見(写真上)。下の写真は、その一環で子どもたちと新宿・歌舞伎町で大壁画の創作に挑んだ様子
 朝まで子どもを預けている施設がたくさんあって、昼間はお母さんに会えるけれど、夜は施設などで母親の帰りを待ちながら過ごしている子どもたちが多い。大変な思いをして働いているお母さんたちも、どこに相談すれば状況が改善されるのかわからないから、行政などに対してもあまり声を上げたりしないんです。それが、私たちのようなNPOが相手だと話してくれることもある。そういうお母さんたちと友達になるうちに、“アートの持つ力”を生かして親子の絆を深めるお手伝いができるのではないかと考えるようになったんです。

 相馬の子どもたちが絵を描きながら悲しい体験やさまざまな苦労を乗り越え、強い心を育んでいく姿を見守りながら、私自身も元気づけられました。同時に、悲しい経験や苦しみ、悩みは、被災地の子どもたちだけの問題ではないと感じています。都会っ子にも、絵を描くことや、創造し表現することの楽しさをもっと知ってもらいたい。“アートの持つ力”で、もっと元気になってもらいたいんです。

――子どもたちと描いた大きな壁画のおかげで、大ガード下の落書きはほとんどなくなった。杏さんは、「警察署も新宿区も、すごく喜んでくれたんですよ」と無邪気に笑うが、これこそが“アートの持つ力”ではないだろうか。創作活動だけにとどまらず、社会が抱える課題にガップリ四つに向き合う杏さん。瞳をキラキラ輝かせた少女がそのまま大人になったような彼女の、どこにその力が潜んでいるのだろうか。 

杏さんと子どもたちが描いた絵は、新宿・歌舞伎町「大ガード」下に壁画として飾られている。ガード下には福島・相馬の子どもたちが描いた絵も一緒に飾られている
 相馬の子どもたちの絵をまとめた絵本に文章を書いたり、「子ども文庫」のブログで支援を訴えたり、子どもとのアートイベントの企画書を作って新宿区に持っていったりする活動と、アーティストとしての活動は全く別のことだと感じています。でも、両方ないと、私はだめになるような気がする。

 毎日、朝起きるとまず絵を描きます。365日、描かない日はありません。1日に3枚描くことも。朝起きて、午後3時か4時くらいまで描いて、そこからは文章を書いたり企画を考えたり。「子ども文庫」やアートイベントのために「あそこにお金をもらいにいこう」とか、夕方はそういうことを考えています(笑)。

 よく、描く題材がなくなることはないのかと聞かれるのですが、今のところはないんですよ。絵のアイデアはたいてい夜寝る前に思いつくので、朝起きたら顔を洗ったり歯を磨く前に、まず描く。例えるなら、描くことは生活の一部、日記のようなものかもしれません。夜寝る前に考えたものを翌朝描くといっても、前日に見たものを描くわけではないんです。2週間くらい前に見たことや、素敵だなと思った“記憶のかけら”のようなものを何個も持っていて、寝る前にそれをどうやって画面にするかをずっと考え続けるんです。

――杏さんの創造の秘密をチラリとのぞいてしまった。子どものような純真さと、物事を実行に移すまでの緻密さを、両方一緒に持っている。そんな杏さんは、どうやってできたの? 次回は、子どものころのお話を。

(過去の展覧会から)
※蟹江杏さんをはじめ東京のクリエーターが福島県相馬市の子どもたちと「東日本大震災」をテーマに描いた作品を発表する展覧会「3月11日の、あのね。#4」〜ポストアート展+こども映画館+3.11ふくしまそうまの子どもの描くたいせつな絵展(仮)〜が3月に東京・新宿で開催されます。
ぜひご来場ください。

◎「3月11日の、あのね。#4」〜ポストアート展+こども映画館+3.11ふくしまそうまの子どもの描くたいせつな絵展(仮)〜
日時:2015年3月10日(火)〜3月22日(日)11〜19時(最終日のみ17時まで)
会場:全労済ホール/スペース・ゼロ http://www.spacezero.co.jp
主催:NPO法人3.11こども文庫 http://www.311bunko.com/


(写真・高尾 斉、構成・白田敦子)
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【かにえ・あんず】
画家。東京都生まれ。「NPO法人3.11こども文庫」理事長。「自由の森学園高等学校」卒業。ロンドンにて版画を学ぶ。2021年11月「Penクリエイターアワード2021審査員特別賞」受賞。美術館や画廊、全国の有名百貨店、その他国内外の展覧会への出展や絵本・壁画制作・講演など活動は多岐にわたる、文部科学省復興教育支援事業ではコーディネーターとして参画。東京の新宿区・練馬区・日野市などの都市型アートイベントにおいて、こどもアートプログラムのプロデュースも手がける。そのほか、絵本専門の文庫(福島・相馬、千葉・東金)の運営やアートワークショップなど世界の子どもたちをアートでつなげる活動をしている。
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