日本人以上に着物をこよなく愛し、学術的な研究はもとより、ファッションショーなどを通じて着物を国内外に広めることをライフワークとしているシーラ・クリフさん。彼女自身、着物コレクターであり、ほぼ1年中、着物で通しているほどの愛好家。大学の講義のある日はアンティークの着物をまとい、はかまで自転車に乗ってさっそうと通勤しているとか。そんなシーラさんにとって、「着物」はどのような存在なのでしょうか。
―― ずうずうしく自宅の箪笥まで見せてもらいましたが、すごい着物の数ですね!シーラ 正確な数はわかりませんが、着物だけで軽く100枚以上はあります。でも、ほぼ古着やアンティークです。いいものもありますが、普段買うのは数千円クラスのものが多いですよ。1年のうち、病院や買い物、ガーデニング、飛行機に乗るとき以外はほとんど着物という生活なので、反対に洋服には全く興味がなくて、手持ちの洋服を全部合わせてもカラーボックス1個分くらい。ルームウェア1着があれば十分ですね(笑)。
―― 春夏秋冬のスタイリングもすてきです。シーラ お正月は南天、早春は梅、春らしくなったら桜の着物とか、帯はチューリップといった具合に、着物本来のセオリーに従って、柄で季節感を演出して楽しんでいます。夏に伊豆の下田でショーがあったときは、海をイメージしたブルーの着物に船をあしらった帯でリゾートっぽくしたり、舞台では単衣(ひとえ)の黒い振り袖を着て華やかにしたり。またあるときは、黄色い靴と帽子を合わせて大正モダンっぽく仕上げたり。どれも私らしい「シーラ・スタイル」です。
―― そんなシーラさんにとって、着物はどんな存在ですか?シーラ ここまできたら、着物がない人生は考えられないですね。生活の一部に着物があるので私のすみかであるし、日本のことを教えてくれた先生でもあります。たとえば、なぜ、浴衣が江戸時代後半に流行したのか知っていますか?
江戸時代に木綿がつくられるようになって価格が安くなると、庶民も買えるようになりました。時を同じくして江戸時代に銭湯ができ、人々は蒸し風呂から湯船に浸かって体をきれいにした後、浴衣を羽織って家に帰る習慣が定着してきました。すると、銭湯が浴衣を披露する場となり、次々と新しい模様や染め方が出てくるようになりました。
現代人にとって浴衣は花火大会のコスチュームかもしれませんが、そこから江戸時代の人々の暮らしが見えてくる。着物は日本の歴史・人類学の情報源みたいなものなのです。
―― 日本を学ぶためのツールになったのですね。シーラ それだけでなく、1枚の布を見て産地が特定できるのが、着物の素晴らしさです。限られた土地でしか採れない植物からは、独自の染料が生まれます。1300年の伝統を誇る奄美大島の大島紬は、島に自生するテーチという木の煮汁で糸を染めては絞り、それを繰り返すうちに独特の褐色に染まっていきます。そうやって染めた糸を自然界に存在する鉄分豊富な泥田で焙煎することで、独特の艶のある黒色が生まれるのです。
これは大量生産のファストファッションとは正反対の考え方ですよね。ファストファッションにはルーツがないから、世界中どこでもつくれる。人件費、生産の早さと質、輸送コストを考えて、最も効率のよい場所を選べばいいのです。しかし、大島紬は奄美大島以外の土地ではできません。このことから、私は着物を「ルーティッド・ファッション(rooted fashion/根があるファッション)」と呼んでいます。
―― そう考えると、着物は普通のファッションとは違う、もっと意味があるものだと思えてきます。シーラ 各地方には昔から伝わる柄や染め方があり、着物を見ればどこでつくられたものなのかすぐにわかります。その土地や自然がデザインや工法に密着していて、調べれば調べるほど新たな興味がわいてきます。
―― 次回(最終回)は、着物初心者が「気軽に着物を楽しむ」コツを教えてもらいます。(構成:宮嶋尚美)
シーラの着物スタイル「冬」
撮影:Todd Fong(タッド・フォング)
「古い友禅の着物に、刺繍入りの半襟で襟元を華やかに演出。着物の色と同じオレンジと緑を伊達襟に使い、コントラストになるようにオレンジの刺繍帯を合わせました。ぽっくりは古着屋で見つけたものです」
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