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きれいをつくる
シーラの着物スタイル 十文字学園女子大学名誉教授、着物研究家
シーラ・クリフ
第2回 着物から柄が消えていく!?
 大学で英語と着物文化を教える傍ら、国内外で着物の展覧会やファッションショーの企画・プロデュースをするなど、幅広く活動中のシーラ・クリフさん。着物を学問として研究し、近代・現代の着物を考察した論文も数多く発表しています。第2回は、着物と社会とのかかわりなど、これまでの研究の一端を聞きます。


―― シーラさんは着物文化を学問と捉え、長年、研究対象として取り組んでいますが、その入り口はどこにあったのでしょう。

シーラ 着物には表面的な美しさの奥に、「3Dファッション」としての高い芸術性があると気づいたことです。洋服は体形に合わせて布をカットし、曲線で体を覆うため、体の線がシルエットに現れてしまいますが、着物は体形に関係なく布を直線に裁ち、直線縫いで仕上げます。たたむと着物も帯も真っ平ら。非常にシンプルですが、その寛容性から体形を隠し、着る人ごとに個性を演出することもできる。着物は、着る人を包む鮮やかなキャンバスと言ってもいいでしょう。
 これほどに美しい着物の魅力を欧米の人にも知ってもらうために、本をつくって発信したい! という思いが募り、研究が始まりました。

―― 昨年、約20年にわたる研究結果を著書『The Social Life of Kimono』にまとめられました。

シーラ 着物をファッションとして捉えると、昭和初期ぐらいまでは普段着だった着物が、やがて洋服にその存在を取って代わられ、盛装・礼装に変化します。私が来日した30年前の着物雑誌を見ると、すでに着物を自分で着られる人が少なくなり、伝統衣装のような扱いに。着物や帯の歴史から、TPOに合わせた種類、着付けのマナーや所作、たたみ方、お手入れの方法、しまい方など、まるで教科書のように「正しい着物」が語られています。

 ところが最近の着物雑誌を見ると、一般のファッション誌とあまり変わりません。目次をざっと追うと、「エブリディ着物」「ビンテージ・サマースタイル」「大好きなぞうり」「コーディネートでママの着物を使う」「ウール着物はジーパンのようなもの」……と、鑑賞する芸術品から生活着へ逆戻りしているように感じませんか?

―― 確かに、「先生から教えてもらう」というよりも「同じ目線で楽しもう!」といった感じがしますね。

シーラ このような比較研究をはじめ、平安時代からの着物の変遷、現代の著名な作家の仕事ぶり、日本の着物産業に携わる人から海外の着物コミュニティーまで、たくさんのキーパーソンに聞き取り調査をした分析結果など、多方面から着物を捉えることで、現代日本における着物の立ち位置がわかる内容になっています。
 たとえば、十二単は美しいだけで重く、歩きにくく、家から気軽に出ることもできない、全く実用性がないものです。しかし、平安時代の女性は家を飾ることが重要な役割でした。「撫子色」「卯の花色」「葵色」など、平安色に花の名前が多く使われているのも「家の中で女性が花になる」という意味が込められていたからだといわれています。 

―― 『枕草子』や『源氏物語』に出てくる女性たちが着ていた十二単も、立派なファッション(流行)だったということですね。

シーラ そうです。でも、そのファッションも時間とともに新しいものに押され、変わっていく。かつてスキーブームの後にスノーボードブームが台頭したように、新しいものに注目が集まると、それをまねしたい人が増え、流行に変化が起こるのです。着物も今後、「実用的ではないけれど、それでも着たい」という人がどんどん増えれば、さらに立ち位置が変わってくるのだと思います。

―― 前回もお話に出ましたが、SNSや動画なども流行に大きな影響を与えそうですね。ちなみに、最近はどんな着物がはやっているのですか?

シーラ 洋服から着物にやってくるせいか、せっかくきれいな柄がたくさんあるのに、若い人は無地や細い縞模様など、無地感覚で着られる洋服と同じような色柄を選ぶ傾向にあります。これは、幼いころから洋服中心の生活を送っていて、その後で着物に興味を持ったためでしょう。最近の着物雑誌も「初心者は無地の着物で、帯合わせを楽しみましょう」と呼びかけています。

 確かに無地からスタートしたほうが気負いなく着られるでしょう。それが流行であればダメとは思いませんが、洋服も無地化が進む傾向にあるようですし、このままいくと着物の世界からも柄が消えてしまうかもしれません。その辺りについては今後、研究していきたいですね。

―― 次回は、シーラさんの新しい着物調査「箪笥開きプロジェクト」のお話です。(第3回につづく)

(構成:宮嶋尚美)


シーラの着物スタイル「夏」

 

撮影:Todd Fong(タッド・フォング)
「古い縮(ちぢみ)の着物です。網カゴの模様が入っているので、私も網かごを持ってみました。帯の花は野あざみです。半襟は古い着物地を使いました」


【The Kimono Closet 箪笥びらき】のサイト https://kimonocloset.com/
【The Kimono Closet / 箪笥開き】Facebook https://www.facebook.com/thekimonocloset/
【Kimono】Facebook https://www.facebook.com/Kimono-52376183722/
【Todd Fong PHOTOGRAPHY】 http://www.toddfong.com/
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【Sheila Cliffe シーラ・クリフ】
1961年イギリス生まれ。リーズ大学大学院博士課程修了。85年に来日し、テンプル大学日本校で英語教育の資格を取得。埼玉大学や立教大学の非常勤講師を経て、現在は十文字学園女子大学名誉教授。国内外で着物展覧会やファッションショーの企画・プロデュースをするなど多彩な活動を展開するほか、NHK「世界はほしいモノにあふれてる」「趣味どきっ!」「あさイチ」、CMや雑誌などのメディアにも多数出演。2002年には民族衣裳文化普及協会の「きもの文化普及賞」を受賞。著書に『日本のことを英語で話そう』(中経出版)、『The Social Life of Kimono』(Bloomsbury)。
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