成人式のとき、艶やかな振り袖に、キュッと帯を締めた自分の姿を鏡で見て、心をワクワクさせた経験を持つ人は少なくないでしょう。かといって、私たちは「着物」という美しい文化を持つ日本にいながら、日常的に着る人はほんのひと握り。「思い出」だけをしまっておくのは、ちょっともったいない気もします。そこで、イギリスの出版社から刊行された著書『THE SOCIAL LIFE OF KIMONO』などで着物を世界に紹介し、自身も着物を日常に愛用しているイギリス人のシーラ・クリフさんに、5回にわたって日本人が今まで気づかなかった着物の魅力を教えてもらいます。
―― 33年前、シーラさんは生まれ故郷のイギリスから来日。着物と出会ったことがきっかけでそのまま日本にとどまり、以降、その魅力を国内外に発信しています。どんなところに関心を持ったのですか?シーラ 大学生だった24歳の夏休み、友人に誘われ日本に遊びにきました。最初はすぐに帰るつもりが、骨董市で華やかな柄の絹の着物がたくさん飾られているのを見て、心を奪われました。初めて買ったのは赤い長襦袢です。まさか中に着るものだとは思っていなくて、友人に「それは着物じゃなくて、下着だよ」と言われてびっくり。「誰がこんな美しいものを中に着るの?」という驚きと同時に、着物の世界に引き込まれました。
―― もともとファッションに興味があったのですか?シーラ 小さいころから好きでした。私は双子で、ママがいつもおそろいの服を2枚つくってくれたのですが、それだとみんなが私たちの名前を間違えるでしょう? それが嫌で仕方がなかったんです。クラスの女の子が全員ミニスカートをはいている中で一人だけ長いスカートで学校へ行き、クラスメートに笑われて泣いたことも。派手な黄色いベルボトムのパンツをはいて姉の家へ遊びに行ったら、「恥ずかしい。誰かに見られないうちに早く中に入って!」と叱られたこともありました。
しかし、それも「自分は自分」というメッセージをファッションで伝えたかったから。着物も文化である以前に、自分らしさを表現するファッションの一つだと思います。
―― ただ、シーラさんが来日された30年前も今も、日本は洋服が一般的です。着物についてどうやって学んだのですか?シーラ 2年間、着付けの学校に通い、趣味で染め物にも挑戦しました。あとは何度も着物屋さんに通って質問したり、日本語が読めなくても本屋さんに行って着物の雑誌をめくったり。それを繰り返すうちに、この織り、染め、刺しゅうはどこでつくられたものか? 模様や柄の描き方、染め方によって古いものと新しいものがどう違うか? などがわかってきました。そのような視点で着物を見ると、時代の流行も見えてきます。
鶴、亀、鳳凰といった縁起のよい吉祥文様は祝いの席にとか、留袖、振り袖、訪問着、小紋などをTPO(行事)に応じて着分けるとか、和装独特のルールも学びました。しかし、決まった作法に縛られると、自分の表現ができなくなると思ったのも事実。失礼のないように個性を生かした着こなしを楽しんでいます。
―― なるほど、着物の未来のためには形式をいったん外すことも大切かもしれませんね。シーラ 以前は海外でも「日本の着物は伝統衣装で変化がないもの」「芸者が着るもの」という見方をされていましたが、今は自由に楽しむ着物愛好家が増えています。
面白いのは彼らのコレクションです。日本人でよく着物を着る人なら、持っている着物の内訳は、黒留袖1枚、訪問着2枚、小紋10枚、紬15枚……といった具合でしょう。つまり、礼装は少なくて普段着が多い。それに対して外国人は、黒留袖10枚、振り袖5枚、打掛3枚、小紋3枚、紬0と、正装がずらりと並ぶ呉服店のよう。見た目にきれいなものにひかれて集めているのが特徴です。
―― 打掛3枚にはびっくりですね! この着付けにも個性がありそうです。シーラ 私もそうですが、着物にブーツや帽子を合わせるなんて当たり前。多くの人たちが、これまでの着物のイメージを吹き飛ばす個性的なスタイリングを楽しんでいます。インターネットの普及によって、自分らしく着こなした着物姿をSNSにアップする人や、YouTubeで動画を配信する外国人もたくさんいます。今は「名古屋帯の結び方」で検索するだけで、動画がバーッと出てくる時代ですから、着付けを習っていない外国人でもきれいに着ることができるんです。日本人より彼らのほうが熱心で、むしろきちんと着られるんじゃないかしら(笑)。
―― 次回は、シーラさんの研究対象としての「着物」についてうかがいます。(第2回につづく)(構成:宮嶋尚美)
シーラの着物スタイル「春」

撮影:Todd Fong(タッド・フォング)
「近くの梅の木の下で撮影しました。銘仙の着物は白い梅の花柄で、ところどころに黄色と青の花も混じっています。着物の色に合わせて足袋を青に、半襟と梅をあしらった帯も黄色に。半襟は手ぬぐいからつくった市松模様です」
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