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きれいをつくる
シーラの着物スタイル 十文字学園女子大学名誉教授、着物研究家
シーラ・クリフ
第3回 平成の世のリアルな着物事情
  「着物愛用者だけでなく、着物を持っている人の実情にも興味がある」という、シーラ・クリフさん。新たに取り組んでいるのが、「箪笥開きプロジェクト」です。調査対象は20代から70代の日本女性50人。その自宅に行き、どんな種類の着物を何枚持っているか、どこから入手し、どのように収納しているか、お気に入りの着物ストーリー、着物にまつわる困りごとなど、所有する着物の実態とエピソードの聞き取りを続けています。その「生の声」から見えてきたものとは?

―― そもそも「箪笥開き」をスタートさせようと思ったきっかけは何でしょう。

シーラ 昔、日本のある地方では、持参した嫁入り箪笥を嫁ぎ先で地域の人たちに公開する「箪笥開き」という風習がありました。箪笥の中には黒留袖や喪服、訪問着などを一式そろえるのが一般的で、その着物の枚数や内容によって花嫁の実家の財力や立場がはかられたそうです。
 
 今は、高いものから安いものまでいろいろな着物が出回っているので「箪笥開き」をしたからといって単純に財力や家族の背景がわかるものではありません。でもこの話を聞いたとき、私の着物研究で強いインスピレーションを受けた本、今和次郎の『採集講義』の内容とも重なり、「実際の箪笥の中身はどうなっているんだろう?」という好奇心が膨らみました。そこで、友人の石岡久美子さん、カメラマンのトッド・フォンさんとともに調査を始め、現在は目標の半分、約25人分のデータが集まったところです。

―― その意義はどんなところにあると思いますか?

シーラ リアルな日本人女性が着物をどこから手に入れているか、どうやって使っているか、着物の生活にどのような問題点があるのか、今までに調査した人はあまりいないと思います。私は、自分のことを「着物のトレンドハンター」と言っていますが、着物がこれからファッションとして生き残るためにも、着物に関する社会の流行や人々の暮らしから消費者の潜在的なニーズを把握し、情報を発信することが必要で、これはとても大事な研究だと思っています。

―― 箪笥開きを続けてきて、年代別に共通することや、気づいたことはありますか?

シーラ いろいろあります。たとえば65歳以上のグループの人たちは、嫁入り道具として親に持たされたり、母、祖母、叔母から受け継いだ着物が大半で、自分で選んだ着物はほんの2、3枚しかありません。
 一方、20代から34歳までの若いグループになると、家族からもらったものはごくわずか。ほぼ自分で選んでいます。世代によって着物との出会い方から違うのです

―― 今はネットオークションもありますし、若い世代のほうが外国人と同じように、「自分のファッション」として着物に親しんでいるということでしょうか。

シーラ そうですね。入手方法も違いますし、収納の仕方も全く違います。65歳以上のグループは、桐のタンスに一枚ずつ「たとう紙」に包んだ着物を丁寧にしまっているのに対して、若い世代はプラスチック製のケースに収納してベッドの下に置くとか、スチールラックの棚に乗せておくとか、発想が自由です。

今年1月、着物文化とファッションをテーマに川越市で講演

―― 着物にまつわる物語で、印象的なお話はありましたか?

シーラ 母から娘へ代々着物を受け継ぐ習慣があるのは、ちょっとうらやましい部分があります。ある年配の女性の箪笥にしまわれていた着物のほとんどが、お母さんから譲り受けたものでした。実は、今日私が締めている帯と帯留めは、その女性が「これは母が好きで大切にしていたものなの」と、私にプレゼントしてくれたものです。昔の写真を見せていただくと、そこに同じ帯を締めている娘時代のお母さまがいる。「着物は時代をこえる」と肌で感じました。
 
 ほかにも、「高価なものではないけど、おばあちゃんからもらった着物だから手放せない。これからも大切にします」という若い女性や、ひいおばあさんの着物を身につけてインタビューに応じてくれた70代の女性もいました。こうした家族のストーリーが聞けるのも「箪笥開き」の醍醐味ではないでしょうか。
 
 その一方で、上の世代から受け継いだ着物があっても、自分も着ないし、娘もいない。どうすればいいか処分に困っている、という人も。ただし、それは着物がいかに特別なものか、という表れでもあるのです。洋服だったら、そこまで処分に悩むことはないでしょう。50人分の調査が集まったらさらに分析を進め、いずれは一冊の本にまとめたいと思っています。

―― 次回は、シーラさんにとっての「着物」について、話を進めていきます。(第4回につづく)

(構成:宮嶋尚美)


シーラの着物スタイル「秋」

撮影:Todd Fong(タッド・フォング)
「秋らしい色合いの着物に、黄色と赤の無地の帯を合わせ、ブルーの帯締めをアクセントにしました。帽子のリボンも靴も、帯と同じ黄色に。着物の下にタートルネックを着るというコーディネートも温かくてお気に入りです」


【The Kimono Closet 箪笥びらき】のサイト https://kimonocloset.com/
【The Kimono Closet / 箪笥開き】Facebook https://www.facebook.com/thekimonocloset/
【Kimono】Facebook https://www.facebook.com/Kimono-52376183722/
【Todd Fong PHOTOGRAPHY】 http://www.toddfong.com/
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【Sheila Cliffe シーラ・クリフ】
1961年イギリス生まれ。リーズ大学大学院博士課程修了。85年に来日し、テンプル大学日本校で英語教育の資格を取得。埼玉大学や立教大学の非常勤講師を経て、現在は十文字学園女子大学名誉教授。国内外で着物展覧会やファッションショーの企画・プロデュースをするなど多彩な活動を展開するほか、NHK「世界はほしいモノにあふれてる」「趣味どきっ!」「あさイチ」、CMや雑誌などのメディアにも多数出演。2002年には民族衣裳文化普及協会の「きもの文化普及賞」を受賞。著書に『日本のことを英語で話そう』(中経出版)、『The Social Life of Kimono』(Bloomsbury)。
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