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子どものこれから
絵本で学ぶ子どもの権利 早稲田大学里親研究会代表
川名はつ子
第1回 なぜ今、「子どもの権利条約」か
 世界中の子どもたちの基本的人権を国際的に保障することを目的に、1989年に国際連合で採択された「子どもの権利条約」。早稲田大学の川名はつ子先生はその理念を広めるため、スウェーデンの画家チャーリー・ノーマンさんが描いたイラストを使って条約の内容をわかりやすく解説した絵本、『はじめまして、子どもの権利条約』(発行:東海教育研究所)を3月末に刊行しました。なぜ「子どもの権利条約」を広めようと考えたのか、ノーマンさんのイラストに込めた思いとは――。川名先生に聞きました。

――「子どもの権利条約」は、一般の人々にはまだまだ十分には知られていないように思います。絵本出版の背景には、どのような思いがあったのでしょうか?

 すべての子どもは十分な栄養を摂って健やかに成長し、あらゆる種類の差別や虐待、搾取から守られ、教育を受け、自分の考えを自由に述べるといった権利を持っています。そうした基本的な人権を守ることを規定したのが「子どもの権利条約」です。日本は国際連合で採択されてから5年後の1994年に批准し、その理念に適合するように国内の法律や環境を整えつつあります。しかし、残念ながらまだ十分とはいえません。

 そのことは、私の専門分野である里親制度の実践現場においても痛切に感じます。たとえば、第12条には「子どもが自由に自分の意見を言える権利(子どもの意見の尊重)」が規定されています。これは、「子どもの意見に耳を傾け、それを受け止めて大切に扱いましょう」という内容です。しかし、親元で育つことのできない子どもが、児童福祉施設に入るか、または里親の元に行くかを決める際、ほとんどの場合は子どもの意思を確認することなく頭越しに決定されているのが現状です。

 「明日からあなたは施設に入るのですよ、荷物をまとめなさい」と突然言われ、有無をいわさずに連れていかれた子どもが困惑するのは当然です。施設や里親に引き取られた子どもが問題を起こすケースが多いのは、納得できないまま身の振り方を決められてしまうことにも原因があるのではないでしょうか。

 「子どもの意見を聴かない」という状況は、里親に引き取られるなど社会的養護が必要な子どもだけの話ではありません。一般の家庭で育っている子どもに共通する問題でもあるのです。そこには、「子どもの権利条約が真に理解されていない」という背景があるのではないかと私は思っています。

――確かに、児童虐待や不登校、いじめ、自殺、貧困といった子どもに関する事件が大きな社会問題になっています。

 私は2005年に早稲田大学里親研究会を立ち上げ、親元を離れざるを得ない子どもたちができるだけ家庭的な環境で暮らせるよう、施設養護から里親養育への転換を目指して学生とともに活動しています。里親の当事者団体である全国里親会、日本ファミリー協議会の大会などに学生たちと共に参加して、「どうしたら子どもの意見を聴き、それを養育や教育に反映させることができるのか」を議論するなど、試行錯誤を続けてきました。

早稲田大学キャンパス内で開かれた「絵本から見る子どもの権利~スウェーデン人作家の贈り物~」と題したイラスト展(2017年2月1日~28日)
 そうした中、「子どもの権利条約」を見つめ直す転機となったのは、2008年に東洋大学で行われた、韓国・成均館大学の李亮喜(イ・ヤンヒ)教授の講演でした。国際連合の子どもの権利委員会の委員長でもあった李教授は、批准国が条約の内容に沿った政策を実施しているかを監視し、違反や不足があれば5年ごとに是正を勧告するなど、その理念をしっかりと各国に根づかせるために、スイスの素晴らしい景色を眺める暇もなく目を光らせているとのことでした。

 もちろん、私はそれまでも「子どもの権利条約」について認識し、学生たちに教えてもいました。しかし、李教授の話に胸を打たれ、あらためて、「子どもの権利条約」を多くの人に知ってもらうよう努力するとともに、児童福祉に関する政策の立案などに、より積極的に取り組まなければならないと思うようになったのです。

――川名先生に「子どもの権利条約を広めよう」と決意させた李教授の講演会。次回は、もうひとつのきっかけとなったチャーリー・ノーマンさんのイラストとの出会いについてのお話です。

(構成・川島省子)

※WEB連載原稿に加筆してまとめた絵本『はじめまして、子どもの権利条約』(監修:川名はつ子、発行:東海教育研究所、発売:東海大学出版部)、絶賛発売中です。WEB連載「はじめまして、子どもの権利条約」はこちらをご覧ください。




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【かわな・はつこ】
早稲田大学里親研究会代表。一般社団法人ピノッキオ代表理事。早稲田大学人間科学学術院元教授。お茶の水女子大学文教育学部卒業。博士(医学)帝京大学。社会福祉士。太平出版社編集部、帝京大学医学部助手、帝京平成短期大学福祉学科講師を経て、2003年4月から2019年3月まで早稲田大学。専門は子ども家庭福祉(養子里親制度・障害児)。
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