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キューバ人は生き方上手 ウェブマガジン「キューバ倶楽部」編集長
斉藤真紀子
第3回 おしゃれなキューバ人

ダンスを練習する女子中学生たち(ハバナ)


 キューバを訪ねるたびに、お金に対する考え方も社会のあり方も大きく違うこの国を「もっと知りたい」と好奇心があふれ出てくる。時間の余裕、心の余裕、そして人と触れ合うことを楽しむ余裕。それらはどこから来るのか。なぜ、日々の不満さえ楽しさに変えられるのか。生きるエネルギーはどこからわいてくるのか。そしてなにより、ここにいるとなぜ、私自身、思わず前のめりになるほど生きていることを楽しめるのだろうか。
 その謎を解くためにも、生き方上手のキューバ人の真髄に触れてみたいという思いが募る。

 枯れているのに艶やか。いささか矛盾しているようだが、キューバの高齢者はとても色っぽい。その秘密は、年齢を超越した「着こなし」にある。
 齢を重ねたミュージシャンたちや、人々の暮らしを描いた映画『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』(1997年)に登場するのは、葉巻をくゆらし、「恋愛は生涯現役!」と語る粋なラテン男児(?)たち。「やっぱりミュージシャンはモテてナンボだから」と思って見ていたのだが、実際にキューバに行ってみると、この人たちは決して例外ではなかった。
 街には、『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』そのままの男女があふれていたのだ。

 家の前で暇そうに座って、ときどき道行く人と話をしている高齢の男性たち。白、ピンク、黄色、青といった鮮やかなボタン付きのシャツに、白やグレー、キャメルのしっかりした生地のズボンを合わせ、パナマ帽やストローハット、ハンチング帽でキメている。顔に刻まれたしわや、白髪交じりのあごひげ、杖までがファッションアイテムのように優雅さを醸し、背筋も真っすぐに伸びている。

 ハバナで道に迷ったとき、家の前の階段にボーッと腰かけている高齢の男性に道を尋ねたら、にこりともせず親切に道を教えてくれた後、キラリと目を光らせて「ムイ・リンダ(とってもかわいいね)! ハポネッサ(日本人)?」とナンパ師のような雰囲気を漂わせたので、ずっこけそうになった。名は体をなす、ならぬ、「粋なファッションは心を表す」のかもしれない。

制汗剤のボトルなどをリサイクルした杖を持つ(ハバナ)
 高齢女性も負けてはいない。ヘアスタイルは編み込んだりアップにしたりして、リボンや花でアクセントをつける。少女のような可憐なファッションが全体の雰囲気と見事に調和しているのだ。若い女性はデニム姿も多いのだが、高齢の女性には涼しげで明るい色のひざ丈ワンピースが人気。カラフルなビーチサンダルや小ぶりのリュック姿でさっそうと歩いている。顔に紅をさしたり、ネイルに色をつけている人も多い。そのままお手本にしたくなるくらい、かわいらしい色気が漂う。
 不思議なのは、洋服もファッション雑貨も売っている店がほとんどなく、ファッション雑誌が一つもないのに、「どうしておしゃれなのか?」ということだ。

 キューバは社会主義経済システムのもとで、自国で洋服や靴などを生産しておらず、ほぼ外国からの輸入に頼っている。同じく社会主義国で親密な関係にあったソビエト連邦が崩壊した1990年代以降は経済状況が悪化し、今も深刻なモノ不足に悩む。人々の月収は2000~3000円程度で、医療や教育、家賃などが無料と社会保障が整っているとはいえ、生活物資の中でもとりわけファッションに回せるお金は少なそうだ。
「中南米で安く買い集めた服を訪問販売する人がいる」
「海外にいる親戚から送ってもらう」
 キューバの人たちに聞いてみると、それぞれ「闇のルート」でやりくりをしているらしい。

 とはいえ、物資が手に入りにくくても、おしゃれ心を失わないのはどうしてなんだろう。
 もちろん、若い人たちも健康的な体形を十分にアピールしながら、太陽の光と一緒にまばゆく映える色鮮やかなトップスやストレッチのきいたデニムがよく似合っていて、カッコいい。けれど、「年齢を重ねたら地味に」とか「いつまでもカッコつけていても仕方がない」なんて理屈でおしゃれから引きこもるどころか、年齢までを「ニュアンス」にプラスするキューバの「攻めるベテランファッショニスタ」たちの色気には、若者たちもとうていかなわない。

 さて、日本に帰って先ごろ卒業以来初めての高校の同窓会に行った。いわゆるアラフォーの集まりで、おおかたは黒やグレーなど落ち着いた色に染まっている。「年相応」というと、やはり地味に向かいがちなのだろう。
 でも、「年相応」には別の意味もある。
「年齢を重ねたからこそ出せる色気もあるのだぞ!」
 ビタミンカラーを身にまとい、胸をはって歩く自分の倍くらいの年齢のキューバ女性たちの、そんな声が聞こえてくる気がした。(つづく)

【写真提供:斉藤真紀子】
【キューバ倶楽部】
http://cuba-club.net/
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【さいとう・まきこ】
日本経済新聞米州総局(ニューヨーク)金融記者、朝日新聞社出版『AERA』専属記者を経てフリーランスライターに。1999年に初めてキューバを訪れ、その街並みや音楽、人々に魅せられ、以来「心のふるさと」に。取材を重ね、『AERA』で「キューバ人はなぜ幸せか」(2012年1/16号)、「医療大国担うキューバの女医」(同4/23号)を執筆。「キューバの今」を伝えるべく、15年にウェブマガジン「キューバ倶楽部」を立ち上げる。
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