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キューバ人は生き方上手 ウェブマガジン「キューバ倶楽部」編集長
斉藤真紀子
第2回 キューバの家はオープンカフェ

キューバ第2の都市、サンティアゴ・デ・クーバの民家で


 キューバのモノ不足は、私が初めて訪れた1999年当時も今も変わらず深刻だ。月収は2000~3000円ほど。労働者のほとんどが公務員で、医療と教育は無料。食糧配給制度もあり、セーフティーネットは保障されているとはいえ、それだけでは生活物資を賄えない。皆、「あるもの」で何とかやりくりして、助け合って暮らしている。前回、紹介したように、クラシックカーを修理しながら乗っているのがなによりの象徴だ。
 日常的にスーパーから特定の食料が消えたり、電気や水も止まったり、イライラしながらも、なぜキューバの人たちは楽しそうに笑っているのか。その秘密が知りたくてキューバを訪れるうちに、私はヒントを見つけた気がした。友達や家族と過ごす時間が濃厚で、楽しそうなのだ。

 キューバを訪れると、私はカサ・パルティクラルと呼ばれる政府公認の民泊を利用することが多い。一般家庭の寝室とバスルームを開放したカサ・パルティクラルは、1泊2000~3000円くらいで宿泊できる。ホームスティのように、家の人たちと話したり現地の暮らしぶりを垣間見たりできる貴重な機会だ。

 玄関を開ければ、そこは客間。大ぶりのロッキングチェアと、色あせた造花が置いてあるだけ。そんなシンプルな空間に、親せきやら、友だちやら、近所の人たちが、入れ替わり、コーヒーを飲みにやってくる。
「えっ?これだけ?」
 家具があまりに少なくて、最初は驚いた。棚は本も雑貨もなく空っぽ。天井が高く広さもあるだけに、よけいがらんどうに感じる部屋に、客人たちとの早口のしゃべり声や大きな笑いがこだまする。

 オープンカフェのような客間には、ときどき「謎の人物」がコーヒーを飲みにくる。
 10年ほど前に泊まったハバナの新市街の民泊では、リビングのソファでしょっちゅう暇そうにしている中年男性がいた。ご飯を食べるでもなく、ふらりと来ていつの間にか帰っていく。特に家の人と話をするわけでもない。聞いてみたら、オーナーの奥さんの“元夫”で、子どもに会いに来ているようだった。もっとも、高校生ぐらいの子どもは外で友達と遊びに行っていることが多くて、あまり家にいなかったのだが。

民泊先のテラス(ハバナ)
 また、一昨年宿泊した新市街の立派な邸宅に住む民泊のオーナーは80歳をこえた女性で、子どもたちの家族と暮らしていた。ある日のこと。客間でロッキングチェアを揺らしながら、やはり同じくらいの年齢の男性と楽しそうに話をしている。上品で穏やかな雰囲気がぴったりの2人は、なんと学生時代の同級生なのだそう。オーナーの女性の“元夫”は1959年のキューバ革命の後すぐ、米国のマイアミに亡命してしまった。同級生の男性も妻を亡くしている。よく家に来て、よもやま話をしているという。
 もとは家族だった人も、気心知れた友人も、ウェルカムで、気軽に行き来する。自分の家がプライベート空間になりすぎない、この気兼ねのなさがなんだかうらやましい。

 キューバは最近まで外食が一般的ではなかった。数年前に自営業の規制が緩和されてからは飲食店の数も増えたが、そもそもレストランは値段が張るため、観光客向けだった。地元の人が踊りに行けるナイトクラブが増えたのも近年のこと。だから皆の家は、砂糖のたっぷり入ったコーヒーを一緒にすすりながら語り合ったり、音楽をかけて踊りながらパーティを開いたりするような、カフェであり食堂でありディスコでもあったのだ。

 家がすっきりしすぎているのは、キューバの経済状況がもたらした深刻なモノ不足ゆえだ。
 キューバ革命後、政府は「持てる者」の家や財産を没収し、「持たざる者」に支給した。ここ数年でようやく住居の売買が許可されるようになったが、基本的に家賃はタダ。都市部は住宅不足が深刻で、もともと一つだった家を階ごとに区分けして数家族が住むことも多い。ペンキを塗ったり壁を直したり、メンテナンスをしながら暮らしている。
 そんな住空間にしばらく身を置くと、頭の中がすっきりする。人生の重たさをそぎ落としてくれるような心地よさがある。まさにこれが、「断捨離」ではないかと、思わず膝を打ちたくなる。

 「断捨離」といったら、生活必需品が手に入れたくても手に入らないキューバの人たちに怒られるかもしれない。日本でモノへの執着を捨てる「断捨離」ブームが叫ばれて久しいが、それでも私たちがモノをため込んでしまうのは、やっぱりあると便利だからだ。
 ところが、この「すっきり感」は一度味わってしまうとなかなかに魅力がある。大きく解釈をすれば、高級ホテルなぜくつろげるかといえば、余計なものを置いていないからなのだ。
 家は元気をくれるところ。誰かが来れば空気が華やぎ、活力をもらえる。人がいないときは、荷をおろして疲れをとり、充電できる。そんな住スペースの秘訣がモノを置かないことにあったとは! 目からウロコが落ちた。(つづく)


【写真提供:斉藤真紀子】
【キューバ倶楽部】
http://cuba-club.net/
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【さいとう・まきこ】
日本経済新聞米州総局(ニューヨーク)金融記者、朝日新聞社出版『AERA』専属記者を経てフリーランスライターに。1999年に初めてキューバを訪れ、その街並みや音楽、人々に魅せられ、以来「心のふるさと」に。取材を重ね、『AERA』で「キューバ人はなぜ幸せか」(2012年1/16号)、「医療大国担うキューバの女医」(同4/23号)を執筆。「キューバの今」を伝えるべく、15年にウェブマガジン「キューバ倶楽部」を立ち上げる。
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