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かもめアカデミー
歌舞伎を身近に楽しむヒント エンタメ水先案内人
仲野マリ
最終回 さあ、歌舞伎を観にいきましょう
 仲野マリさんの歌舞伎に関するお話は、今回が最終回。第1回では歌舞伎のヒロインを現代女性に置き換えてその魅力をひもとき、第2回ではテレビドラマや現代演劇に息づく歌舞伎の技術や仕掛けの面白さを学び、第3回では観客と舞台のコラボレーションについて語ってくれました。歌舞伎が身近に感じられるようになったところで、いよいよ舞台の鑑賞です。初めての人も、気軽に歌舞伎を楽しめる方法をお伝えします。


初めての歌舞伎は、まずハートで感じて!
 「初めて歌舞伎を観に行くのですが、何をどこまで勉強していけばいいのですか」と聞かれることが、よくあります。そんなとき私は、「特別な勉強をする必要はありません。とにかく一度劇場に行って、歌舞伎の世界に全身浸ってみてください」と答えるようにしています。歌舞伎は理解するのが難しいと思っている人も多いようですが、初めての観劇でわからないことがあるのはバレエや現代演劇などでも同じで、当たり前のこと。何もわからずに観た舞台でも、「この役者さんは迫力があるな」とか「あのシーンは美しかった」というように、印象に残るものは必ずあると思います。

 偶然ラジオから流れてきた音楽を「ステキな曲だな」と思ったら、実はとても有名な曲だった、というようなことがありますよね。逆に、有名歌手をお目当てに行ったロックミュージックフェスティバルだけれど、もっとも心に響いたのは無名の歌手であることも。その歌手の歌が数年後に大ヒットしたら、自分の感性が才能を見つけた!みたいに感じて誇らしいものです。歌舞伎にも、きっとそういう発見があるはずです。

 歌舞伎は、何度観てもそのたびに発見があって面白いものですが、「初めて」は一度だけ。「わからないけど、すごかった!」という胸の高鳴りは、芸術とあなたとのファーストキス。その「一度きり」の宝物のような時間を、大切に体験してください。

主役が誰か、発端は何か、だけは押さえておく
 とはいえ、いくつか押えておきたいポイントはあります。会場で販売されるプログラムを、関東では「筋書(すじがき)」、関西では「番附(ばんづけ)」と言いますが、これを活用することを、私はおすすめしています。
・始まる前に「見どころ」を読んでおく
・同じく、「あらすじ」の最初の場面だけはざっと目を通す
・同じく、「配役表」で、知っている俳優の役名をおさえる
たとえば、第1回で例に挙げた『熊谷陣屋』だと、「見どころ」を読むことで、「時は平安時代末期で、源平の合戦が舞台、主人公の直実は源義経の部下……」というような基本情報がわかります。

 「あらすじ」で最初の場面を押さえておくと、すぐにお芝居の世界に入り込むことができます。また「あらすじ」のページには、必ずその場面に登場する人物の配役表がありますので、誰が主人公なのか、顔を知っている俳優さんは何の役をするのか、この2つを確認しておくと、お芝居が始まってから戸惑わずにすみます。

 演劇の鑑賞に慣れていらっしゃらない方は、その演目が「敵討ちの物語」だとか、「町人の格好をしているけれど本当は泥棒だ」とか、あるいは「主人公が何役も早変わりで演じる」など、ストーリー展開の核になる部分を知っておくのも必要かもしれません。少々ネタバレになりますが、「仕掛け」を意識することで、安心して舞台には入っていけるかもしれません。せっかくの「早変わり」のシーンを、それとわからず見過ごしてしまったりしたら、もったいないですからね! 

 でも、何度も言うようですが、「初めて」は一度きり。事前情報は極力仕入れず、まずは新鮮な感動を味わってほしいと思います。あらすじを読むのは最初の場面程度にしておき、「えっ! そうだったの?」「そんなことになるなんて…」というジェットコースターストーリーの行方を、リアルタイムで楽しんでみてください。

 そしてお芝居が終わったら、あれはどういうことだったのか、あの声のいい人は誰なのか、などなど、もう一度筋書を手に取って、気になった部分を確認してください。筋書にはあらすじや配役のほか、演目の由来や俳優の談話が載っていますし、公演の後半販売時になると舞台写真も掲載されます。芝居の余韻を長く味わうためにも、素晴らしいツールではないでしょうか。

 もちろん、「イヤホンガイド」を活用するのも歌舞伎ビギナーの観劇スタイルです。ただ、こちらはいわゆる「同時解説」になりますので、その場面を逐一解説してほしい人には向きますが、情報が多いと、たまに舞台に集中しにくくなる場合もあります。自分の観劇スタイルに合えば、こんなに強い味方はいませんので、一度お試しを。

 さあ、前置きはこのくらいにして、そろそろ本物の歌舞伎を観に出かけてみませんか。お芝居はいつも、新しい感動と出会う場所です。劇場で皆さんと舞台の熱気を共有することを、楽しみにしています。


◆仲野マリさんの歌舞伎講座のご案内
 詳細は「GINZA楽・学倶楽部」のホームページをご覧ください。http://ginza-rakugaku.com

「女性の視点で読み直す歌舞伎ビギナーズガイド」
 歌舞伎に登場するヒロインを現代女性の立場に置き替えて物語をわかりやすく解説するシリーズ
 【開講日】 5月8日(木)、6月5日(木)
 両日とも昼の部は13:30~15:30、夜の部は19:00~21:00(昼と夜は同じ内容です)

「知っておきたい! 日本の伝統芸能  歌舞伎ビギナー講座」
 座席による見え方の違いや、立ち位置による人間関係の把握など、さらに歌舞伎を楽しめるポイントを紹介
 【開講日】 5月16日(金)13:30~15:30

 ※「GINZA楽・学倶楽部」はホールや劇場での託児サービスを行っている、株式会社マザーズが運営するカルチャースクールです。歌舞伎座に向かって右手、松竹倶楽部ビルの4階という絶好のロケーション。文化、実用、母と子、女性支援など、伝統と先端が融合する日本の中心・銀座にふさわしい、多彩で魅力的な講座を開講しています。

◆『仲野マリ オフィシャルサイト』http://www.gamzatti.com
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【なかの・まり】
1958年東京都生まれ、早稲田大学第一文学部卒。演劇、映画ライター。歌舞伎・文楽をはじめ、ストレートプレイ、ミュージカル、バレエなど年100本以上の舞台を観劇、歌舞伎俳優や宝塚トップ、舞踊家、演出家、落語家、ピアニストほかアーティストのインタビューや劇評を書く。作品のテーマに踏み込みつつ観客の視点も重視したわかりやすい劇評に定評がある。2013年12月よりGINZA楽・学倶楽部で歌舞伎講座「女性の視点で読み直す歌舞伎」を開始。ほかに松竹シネマ歌舞伎の上映前解説など、歌舞伎を身近なエンタメとして楽しむためのビギナーズ向け講座多数。
 2001年第11回日本ダンス評論賞(財団法人日本舞台芸術振興会/新書館ダンスマガジン)「同性愛の至福と絶望-AMP版『白鳥の湖』をプルースト世界から読み解く」で佳作入賞。日本劇作家協会会員。『歌舞伎彩歌』(衛星劇場での歌舞伎放送に合わせた作品紹介コラムhttp://www.eigeki.com/special/column/kabukisaika_n01)、雑誌『月刊スカパー!』でコラム「舞台のミカタ」をそれぞれ連載中。
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