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美しいくらし
フランスの小さな村を旅する 写真と文
木蓮
第1回 彼が恋した藤の花【アプルモン・シュル・アリエ】
 お待たせしました! 好評販売中『フランスの花の村を訪ねる』の著者、木蓮さんの新連載が始まりました。フランスの真ん中・オーヴェルニュの、人口200人に満たない小さな村で暮らしながら、年間150カ所以上ものフランスの村や街を旅して、その風景を写真におさめている木蓮さん。「フランスの小さな村宣伝大使」を自負する彼女が選んだ「とっておきの小さな村」を、毎回1村ずつ紹介してもらいます。


 「僕は日本に恋をしたんだ」
 熱心に藤の写真を撮っている私に、一人のフランス男性が声をかけてきました。
 「私が日本人だってよくわかりましたね」。少しびっくりした顔をして振り返ると、彼は得意気な顔で「藤の花をこんなに一生懸命に眺めているのは、日本女性しかいないだろう」と言うのです。「僕にとって藤は特別でね……。何といっても日本で見た藤の美しさは忘れがたい。この花を見るたびに、貴女の国を思い出すんだよ」。そう語りながら、淡い太陽の光に透ける藤の花たちに懐かしそうな目を向けます。淡い紫、ほんのりと彩るピンク、透けるような白。

 “フランスの最も美しい村”の一つ、アプルモン・シュル・アリエにある「パーク・フローラル」には、3色の藤が連なるトンネルがあることで知られています。
 「いや、せっかく貴女が見に来ているのに残念だ。今年は霜にやられてしまってね……。いつもはもっときれいなんだよ」。彼は少し寂しげに、上から垂れ下がる花に手をやります。私は慰めの言葉をかけたくなり、「もうとっくに散っていると思っていたので、こうやって見ることができてうれしいですよ」と伝えました。
 それもそのはず。今年ここを訪れたのは5月末。以前に訪れたのは満開の4月末だったため、この場所で藤の花を見られるとは思ってもいなかったのです。


 彼が恋をしたのは、きっと日本女性。そのことをはっきりとは言いませんでしたが、日本に5回訪れたこと、どれだけ日本に住みたかったかをポツリ、ポツリと話し気がすんだのでしょう。「すてきな時間を!」と笑顔で私に告げると、その場を去っていきました。

 庭園の中には大きな池があり、周りにはホスタ(ギボウシ)が競い合うように美しいグラデーションを奏でます。池のそばにはベンチが置いてあり、お年を召したご夫婦が仲睦まじく語り合っています。対岸には、母親らしきマダムが乗った車椅子をゆっくり押しながら庭園を眺めるご家族、その先には犬を連れた小さなお子さんがいるご家族もいます。それぞれが、光の注ぐこの気持ちのいい庭園で、思い思いに初夏のひとときを楽しんでいるようです。


 池の周りを歩いていくと、ややこの庭園に似合わない真っ赤な東洋風のパコダ橋が見えてきました。橋の上で私が写真を撮り始めると、先ほどの車椅子の家族がやって来ました。対岸に渡るためには、階段のあるこの橋を渡らなくてはいけません。どうするのだろうと思っていると突然、車椅子からマダムが立ち上がったのです! 「こんなにきれいなんだから、もっと見たいわ!」と……。美しい庭園に咲く花たちを眺め、彼女の気持ちに何か変化が起きたのでしょうか。その様子をうれしそうに見ているご家族の気持ちが痛いほど伝わってきました。

 庭園の外には石造りの家が建ち並び、美しいアリエ川が村に沿って流れています。春には広い河川敷で花のマーケットが開かれ、川沿いには可愛いブロカント(古道具)ショップも。まだまだ日本では知られていない小さな村ですが、ガーデニング好きな方に特におすすめです。(つづく)

★ParisからApremont-sur-Allierへの行き方
 Bercy駅から特急列車でNevers駅まで約2時間30分。そこからタクシーで約18km。乗換時間など考慮して合計約3時間。

★木蓮さんのブログ【フランス小さな村を旅してみよう!】
http://ameblo.jp/petit-village-france/

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WEB連載「フランス 花の村をめぐるたび」はこちらをご覧ください。
WEB連載「フランスの花の村を訪ねる」はこちらをご覧ください。
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【もくれん】
神戸出身。フランスの「おへそ」にあたるオーヴェルニュの人口200人に満たない小さな村に在住する日本人女性。フランス人の夫との結婚を機に渡仏。さまざまな地域に接しているオーヴェルニュの地の利を生かし、名もなき小さな村を訪ねる旅にどっぷりはまる。フランスの小さな村の美しさに魅了され、「パリだけではないフランスの美しさを伝えたい」と、訪ねた村々をブログで紹介。みずみずしい写真と住んでいる人間ならではの視点で人気を呼んでいる。著書に『フランスの小さな村を旅してみよう』『フランスの花の村を訪ねる』(東海教育研究所)。
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