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美しいくらし
フランスの魅力は地方の元気にあり! 日仏生活文化研究家
吉村葉子
第4回 愛が地方を救う
 生まれ育った故郷を生涯離れない人々はもちろんのこと、パリに長く暮らしていた人でも、定年後は地方に移り住む人が多いといいます。不便さをもろともせず、コンビニがなくても、エレベーターがなくても、娯楽が少なくても、彼らが地方を愛するのはなぜでしょう? そこには「カップルが当たり前」のフランス人らしい人生の楽しみ方があるようです。

手づくりの家で、愛する妻と暮らす喜び

 旅行者に人気のプロヴァンス地方にあって、カルパントラは大勢の人が押しよせるような町ではありません。南仏ならどこにでもあるようなプラタナスの大木が繁る並木道があり、広場では昼間から年配の男性たちが「ペタンク」という鉄の玉を転がすゲームに興じているような、のどかな町。ここで私はあるすてきなカップルと出会いました。
 パリ育ちの陶芸家エリック・セギレさんは、そこで出会った同じ陶芸家のベアトリスさんにひと目ぼれ。やがて二人は結婚し、カルパントラ郊外に移り住み、生活と制作の拠点にしたのです。
 驚いたのはセギレ夫妻が住む石づくりの家です。炎天下の中庭から入ると、あたかもクーラーがきいているかのように涼しい。床も室内の壁も分厚い石でできていたのですが、何より驚いたのは、天然の岩肌をそのまま利用した壁。これはいつの時代の建築様式なのだろう……。唖然とした顔をしている私に、エリックさんが次のように教えてくれました。
 「27年前、妻と出会ってすぐこの家をつくりました。岩山の壁面を利用すれば、真夏は涼しく、冬暖かい。お金がなかったので、すべて自力でつくる決心をしました。当時はもちろん、大変なことをしているつもりはありません。子どもも生まれ、徐々に家を大きくしていきました、それも自分で。昔の人たちは皆、こうして自分たちの住む快適な家をつくっていたんですよ」

プロヴァンスの首府・マルセイユの中心街
' Atout France/François-Xavier PrØvot
 好きな仕事をしながら、自分のつくった家に住み、最愛の妻や子供と暮らす。フランス人の好きな言葉に「ジョア・ド・ヴィーヴル(生きる歓び)」がありますが、これ以上望むべくもない理想郷に生きるお二人を見て、「参りました!」という気持ちになったものです。
 
愛さえあれば、余計なものはいらない
 現役で地方暮らしをスタートさせたセギレ夫妻は比較的珍しいケースですが、フランスでは定年後に地方に移り住むご夫婦が後を絶ちません。現役時代に彼らが長いバカンスで旅をする目的の一つは、老後の住居探しともいわれています。定年後に働くフランス人はほとんどいませんから、物価が高く空気も悪いパリにもう用はないとばかりに、多少不便でも生活費や光熱費がかからない居心地のよい場所を求め、死ぬまで大切な人との愛を育むのです。
 言い方を換えれば、歳を取っても「愛さえあれば、余計なものはいらない」と考えるのがフランス人。そこが日本人との一番大きな違いかもしれません。都会から離れるほど娯楽もぐっと減りますが、二人の時間を邪魔するものがない分、愛はかえって深まる(笑)。一生、生まれた土地を出ない人たちも、愛する人がそこにいれば満足なのですから、パリへのジェラシーやひがみは生まれません。これも、フランスの地方が元気な理由でしょう。

プロヴァンスの岩山にあるゴルドは、日本人観光客にも人気。「フランスの最も美しい村」に認定されている
' Atout France/Robert Palomba
 日本人は「フランス人は自己主張が強い」と思いがちですが、実際のところ、フランス人というのは、付き合ってみるととてもセンチメンタルな人たちです。夫から出がけに「今日の服のバランスはちょっと……」と言われたら、愛されたい一心で、どんなに急いでいても「ごめんなさい!」と言ってすぐに着替えるのがフランスのマダム。そう、すべてにおいて愛が勝つのです。

――「人生でもっとも大切なもの」を聞かれれば、「愛」と答えるフランス人。さて、あなたにとって人生で一番大切なものは?
 最終回は、フランスの地方の魅力を楽しむ旅のヒントを紹介してもらいます。
(つづく)


【吉村葉子さんの公式サイト】
http://www.yokoyoshimura.com/

(構成:宮嶋尚美)
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【よしむら・ようこ】
1952年神奈川県生まれ。立教大学経済学部卒業。1979年から2000年まで、約20年間をパリで暮らす。生活の拠点を東京に移してからも、頻繁に日仏を往復。教育、芸術、経済、食文化など幅広いジャンルでフランスの地方やヨーロッパ全域を取材。日仏文化の比較論にとどまらず、フランス人とフランスという国を凝視することで見えてくる、私たち日本人に役に立つ彼らのエスプリに注目。著書に『お金がなくても平気なフランス人 お金があっても不安な日本人』(講談社文庫)、『徹底してお金を使わないフランス人から学んだ本当の贅沢』(主婦の友社)ほか、多数。
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