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美しいくらし
フランスの魅力は地方の元気にあり! 日仏生活文化研究家
吉村葉子
第2回 パリはフランスじゃない
 吉村さんがパリで暮らすきっかけをつくったのは旦那様。仕事の拠点をパリに置き、日本に一時帰国していたご主人と東京で知り合い、「パリに遊びにくれば?」のひとことが縁を結び、今のフランスに関連する執筆活動につながっているそうです。そんな吉村さんがパリ以外の地方に興味を持つようになった理由とは? また、現在も年に数度は訪れるというフランスの地方の楽しみ方について教えてもらいます。

セーヌ川の源流を訪ねて
 最初はすぐ日本へ帰ろうと思っていたのに居心地がよくて、気づけば20年もパリに暮らすことになりました(笑)。

夕暮れのニース
' Atout France/Emmanuel Valentin
 初めての地方旅行は、パリに着いた翌日。ちょうど彼が仕事で南仏最大のリゾート地、ニースのジャズフェスティバルに行くというので付いていったのです。まだフランス語も理解できず、右も左もわかりませんでしたが、大好きな「ジプシー・キングス」が出ていた興奮を今も覚えています。
 その後、結婚して娘が生まれ、3歳になったころには娘をママ友に預け、日本の出版社からの依頼で地方へ取材に行くことが多くなりました。私がフランスの地方に詳しいのはそのおかげで、フランスの田舎をテーマにした本を何冊か上梓するまでに。行く先々で初めて口にする料理、泊まったおしゃれなプチホテル、その地方ならではの自然や街並み、人々の暮らしぶり、ローカル列車の雰囲気、お土産の数々など、どれも素晴らしい思い出です。

 中でも印象深かったのは、セーヌ川の源流を訪ねた旅。パリを流れるセーヌ川を見ていて、「源流をこの目で見たい!」と衝動にかられ、自分で車を走らせたのです。それは、パリの南南東を300kmほど行ったブルゴーニュ地方、ディジョン郊外のスルス・セーヌという村にありました。「パリ市・セーヌ源流」と書かれた看板に導かれ、車を降りて小川沿いの小径をしばらく歩くと、ようやく目指す源流が。小さな泉の上に大理石の裸の女神像が横たわっていました。これが、あの大河になるのか……と感慨にふけることしばし。周辺にはクレソンが群生し、美しい緑の光景が広がっていました。
 
パリから日帰りできる田舎町
 「パリはフランスではない」(パリにはフランス本来の豊かな自然がない)と、古くから言われている意味を、最近になって「なるほど」と思うようになりました。
 日本に戻り、神楽坂で「ジョルジュ・サンド」という焼き菓子屋をやっていた8年間は、フランスを訪れても立ち寄るのはパリとその周辺だけ。ところが、3年前に店を閉めてからは、旅の目的がいつの間にか地方行脚になりました。今は2年に3回ぐらいのペースでフランスへ行きますが、4分の3は地方。そのほとんどが再訪で、10日間滞在したら6、7カ所、パリから日帰りで往復できる場所へ出かけます。

ディジョンの街角には中世に建てられた家も
' Atout France/CØdric Helsly
 朝、5時前後にパリのシャルル・ド・ゴール空港に到着したら、そのままホテルに直行。その時間にチェックインはできませんが、フロントにトランクを預け、その足でパリ中心部のSNCF、国鉄の駅に急ぎます。TGV(フランスの新幹線)に乗り、首都・パリから東へ300km強、アール・ヌーヴォー様式が息づいているリッチな都市・ナンシーへ、その翌日には地理的に反対側の大西洋方向にあるポワチエの町へ、そして3日目はリモージュへといった具合です。

スタニスラス広場はナンシー市民の憩いの場
' Atout France/Michel Laurent
 皆さんが行かれるとしたら、たとえば、パリのサン・ラザール駅を出発し、ポントワーズ駅で乗り換えれば、ゴッホが最晩年を過ごした村、オヴェール・シュル・オワーズにたった1時間ほどで到着します。「ゴッホの家」と呼ばれるホテル(ゴッホが村の滞在中に過ごした宿)の、ゴッホが泊まった3階の屋根裏付きの部屋は当時のまま残されており、見学が可能です。この村には、ゴッホが唯一の理解者であった弟テオと並んで眠る墓もあります。墓を訪ねたら、ゴッホの有名な作品として描かれた「オーヴェルの教会」へ行ってみるのもいいでしょう。ゴッホゆかりのレストランで伝統的な田舎料理を食べるのもおすすめです。
 私の再訪の楽しみは、地方の変化を肌で感じること。今は日本人観光客もパリ一極集中ではなく、自然が豊かなフランスの地方に目が向くようになりましたが、地方人気の高まりにより、観光政策に力を入れる自治体が増え、市の予算を重点的に配分してさらに観光客が増加。先のゴッホの家やお墓も、以前と比べるとずいぶんきれいになり、経済的な効果も出ているようです。
 「パリはフランスではない=地方あってのパリ」ともいえるのではないでしょうか。

――従来、EU最大の農業国であることが矜持のフランス人。パリだけでなく、地方を見ることによって、フランスという国を知ることができる、と吉村さんは言います。次回は、東京ばかりが目立つ日本と、地方が元気なフランスとの違いについて語っていただきます。(つづく)

【吉村葉子さんの公式サイト】
http://www.yokoyoshimura.com/

(構成:宮嶋尚美)
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【よしむら・ようこ】
1952年神奈川県生まれ。立教大学経済学部卒業。1979年から2000年まで、約20年間をパリで暮らす。生活の拠点を東京に移してからも、頻繁に日仏を往復。教育、芸術、経済、食文化など幅広いジャンルでフランスの地方やヨーロッパ全域を取材。日仏文化の比較論にとどまらず、フランス人とフランスという国を凝視することで見えてくる、私たち日本人に役に立つ彼らのエスプリに注目。著書に『お金がなくても平気なフランス人 お金があっても不安な日本人』(講談社文庫)、『徹底してお金を使わないフランス人から学んだ本当の贅沢』(主婦の友社)ほか、多数。
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